第19話 礼節の授業
私とレティは、フォルシアス学園に来ていた。
今日も、いつも通りの日常だ。
「ああ、今日も始まるんですね……」
「レティ……」
教室についてから、レティはそんなことを言ってきた。
やはり、レティにとって、学園とはつまらないものらしい。
レティがここに来て、テンションが上がるのは、昼食時だけだ。それ以外は、何時も辛そうにしている。
「あ、でも、今日は礼節の授業があるよ」
しかし、私は今日のある授業を思い出す。
それは、礼節の授業だ。これなら、レティも眠たくならないかもしれない。
「礼節? なんですか? それ?」
「礼儀や作法について学ぶ授業だよ」
「え? 面倒くさそうじゃないですか……」
私の言葉に、レティはそう反応した。
しかし、礼節の授業は座学ではない。実際に、実技で学ぶのだ。
「礼節の授業は、体を動かすから、レティも眠くならないと思うよ」
「体を動かすんですか? やっぱり、面倒くさいじゃないですか」
期待していた私にかけられたのは、そんな言葉だった。
どうやら、レティは体を動かすことが面倒だと思っているらしい。そういえば、レティは体が動かすことが嫌いだった。そもそも、私の考えが足りていなかったようだ。
「それに、礼節なんて、私もお姉様ももう習う必要がないじゃないですか」
「それは……」
「お姉様は、きっと今日、私の気持ちがわかりますよ」
そんなことを考えている私に、レティはさらに言葉をかけてきた。
確かに、礼節については、私もレティもお兄様に徹底的に教えられている。そのため、授業で習うまでもないことなのだ。
そういう意味では、私も日頃のレティと同じことをすることになる。
つまり、私の指摘は見当外れもいい所だったようだ。
「ごめん、レティ。私……」
「お、お姉様、謝らないでくださいよお。別に、悪いことを言った訳ではありませんから……」
完全に妹に言い負かされたため、私は思わず謝っていた。
もう謝るくらししか、できないと思ったのだ。
「それに、お姉様の言うことにも一理ありますからね。座学よりは、ましだと思います」
「うん……ありがとう」
しかし、そんな私にレティは優しい言葉をかけてくれる。
情けない姉で、本当に申し訳ない。
こうして、私とレティの一日は始まるのだった。
◇◇◇
私とレティは、朝話した礼節の授業を受けていた。
話していた通り、授業は実技で行われている。
「ふう……」
「はあ……」
礼節の授業は、度々休憩を入れてもらえる。
これは、慣れていない者への配慮だろう。貴族の人達は、基本的に慣れていることだが、平民は慣れていない人が多い。
そういう人達が、ずっと礼儀作法通りに動くのは、とても辛いことだ。私も、始めたばかりの時は、とても苦しかったことを覚えている。
「まあ、それなりに疲れますね」
「うん……」
それに、慣れている私達も、疲れることは変わらない。
この授業では、普段ほとんどしないこともする。そのため、私達でも疲れるのだ。
「でも、まさか先生に褒められるとは思っていませんでしたよ」
「うん、それには少し驚いたね……」
私とレティは、授業中に褒められるほど、礼儀作法ができていた。
それは、完璧と言われる程だった。恐らく、これはお兄様のおかげだ。
「お兄様のおかげかな……」
「ええ、あの人がどれだけ徹底的だったか思い知りましたよ……というか、この授業より厳しくないですか?」
「それは……そうかも」
私とレティは、お兄様によって、徹底的に礼儀作法を教えられている。
それは、この授業よりも遥かに厳しく、過酷なものだった。そのため、今日の授業ではここまで褒められたのだろう。
これは、レティも喜んでいるし、とても嬉しいことだ。お兄様に、心の中で感謝しておこう。
「それに、お姉様を見る目も変わっていますね……」
「う、うん……」
礼節の授業は、私に対する周りの評価まで変わっていた。
私の作法が、かなりよかったため、評価が田舎の弱小貴族あがりから少しだけ変化したのだ。
「お姉様を見直している人が、ほとんどのようですね……」
「うん……でも、逆にそれが気に入らないと思っている人もいるみたいだよ」
「そのようですね……」
私に対する評価は、二つに分かれている。
一つは、今までの評価から一転して、私を尊敬してくれる評価。こちらの評価は、素直に嬉しいものだ。もしかしたら、その人達とは友達になれるかもしれない。
もう一つが、田舎の弱小貴族如きが思いあがっているという評価。こちらは、素直に悲しい。前より、むしろ悪化しているのだ。
「まあ、一番滑稽なのは、全部聞こえていることですけどね」
「まあ、それは……」
以上のことは、全て本人達が話していたことである。
静かに話しているつもりなのだとは思うが、丸聞こえだ。おかげで、私は自分に対する評価に一喜一憂することになっている。
そんな風に、私達の授業は進んで行くのだった。
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