第7話(リクルド視点)

 ※この話は、第7話のリクルドの視点です。



 俺の名前は、リクルド・フォリシス。

 誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。


 学園での仕事を終えた後、俺は家に帰って来ていた。

 すると、使用人の一人が、封筒を手にしているのが目に入ってきた。どうやら、配達人が先程来たらしい。

 その中に、俺は我が学園からの封筒を見つけた。使用人に渡させると、それがルリアの補助委員任命に関する書類だった。


「あっ……」


 という訳で、俺はルリアの部屋に足を運んでいる。

 顔を見るついでに、書類について説明をしておくためだ。

 部屋の戸を叩くと、中にいる妹が声をあげた。恐らく、俺が訪ねて来たなど思っていないことだろう。

 それなら、声をかけておくとしよう。


「ルリア、俺だ」

「え? お兄様?」


 俺の声を聞き、ルリアは驚いたような声をあげる。

 この部屋に俺が来ることは、非常に少ない。大抵の場合、俺が呼びつける方が多いからである。


「今……開けますね」


 数秒の沈黙後、そのような言葉が聞こえてきた。

 大方、自身の部屋でも見ていたのだろう。最も、賢き妹は、部屋の整理整頓を欠かしていないため、特に心配する必要はないはずだ。

 これが、もう一人の妹なら、慌てて部屋を片付けるだろう。そして、そのような態度に、この俺も指導しなければならなかったはずだ。


「お帰りなさいませ、お兄様。もう帰られていたのですね?」

「ああ、今帰ったところだ」


 戸が開くと、妹はそう言って俺に頭を下げてきた。

 流石は、誇り高き妹だ。礼儀作法や気遣いができている。その様子に、この俺が笑みを抑えられない。


「それで、どのようなご用件でしょう?」

「ああ、実はお前に補助委員をしてもらうにあたって、書いてもらわなければならない書類があってな。丁度、今日それが届いていたのだ」

「あ、そうなのですね……」


 俺が説明したが、ルリアはまだ疑問があるようだ。

 恐らく、この俺がここに来たことに疑問を感じているのだろう。


「お兄様、ありがとうございます。ただ、どうしてお兄様が直々に……?」

「問題ないだろうが、念のため書き方を教えておこうと思ったのだ。学園長の妹の書類に、不備があったとなれば、示しもつかないからな……」

「そ、そういうことだったのですね……」


 俺が付け加えた説明で、賢き妹は納得したらしい。

 理解が早いのも流石だ。余計な説明をしなくてもいいのは、この俺にとっても心地よいことである。


「……部屋に入っても構わないか?」

「あ、はい。どうぞ……」

「それなら、失礼する……む?」


 部屋に入り、俺はすぐに机の上にあるものに気づいた。

 それは、明らかに勉強をしていたとみられる形跡だ。

 我が勤勉な妹は、入学する前に、知識を蓄えようとしていたらしい。


「も、申し訳ありません、お兄様。机の上は、少し散らかって……」

「いや、問題ない。この程度で、散らばっているなどと言う者など、いないだろう」


 そんな俺の様子に、ルリアが謝罪してきた。

 恐らく、俺が怒っているとでも思ったのだろう。だが、俺はそのようなことは思っていない。


「むしろ、感心したくらいだ。入学前に、少しでも知識を蓄えようとするその姿勢は、立派なものだろう。下の妹にも見習わせたいくらいだ」

「あ、ありがとうございます」


 むしろ、俺は感心していた。

 入学前に、このような心掛けを持っているのは、素晴らしいことだ。そういう精神を持つことこそが、大切だといえる。

 その気高き精神性を、もう一人の妹に見習ってもらいたいものだ。


「さて、早速、書類を書くとしよう」

「あ、はい……」


 俺の言葉に、ルリアは机の上を片付け始める。

 その様子に、俺はあることを思い出す。


「……ふっ、こうしていると昔を思い出すな」

「え? お兄様……?」

「いや、気にするな。戯言に過ぎん」


 そして、ふと口に出してしまった。

 だが、このようなことは言うべきではなかっただろう。


 俺が思い出したのは、昔のことだ。

 取るに足らない存在だった俺が、目の前にいる妹の影響で、変わっていった。あの素晴らしき日々は、俺にとっての宝といっても過言ではない。

 そういう意味でも、この妹には感謝している。故に、必ず守ると決めたのだ。


「ルリア、手を止めるな。俺の言葉など、気にする必要などないのだぞ?」

「あ、すみません」

「いや、構わない、この俺が、余計なことを言ったのが、そもそもの発端だ」


 俺は、ルリアに声をかけ、片づけを再開させる。

 この俺が余計なことを言ったため、妹に迷いを生じさせてしまった。そのことに、妹の不備はない。


「お兄様、お待たせしてしまい、申し訳ありません。書類の作成を始めましょう」

「ああ、そうするとしようか」


 こうして、俺とルリアは書類の作成を進めるのだった。

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