第6話(リクルド視点)

 ※この話は、第6話のリクルドの視点です。



 俺の名前は、リクルド・フォリシス。

 誇り高きフォリシス家の長男にして、フォルシアス学園の学園長だ。


 俺は家の中を歩いていると、中庭で茶をしているルリアとレティを見つけた。

 そこで、レティが余計なことを言っていたため、俺が出ていかざるを得なくなった。


「あ、お兄様も、お茶にしませんか?」

「ほう……?」

「え……?」


 話が纏まった時、ルリアが俺にそう言ってきた。

 どうやら、この俺を茶に誘っているようだ。

 現在、特に用はなかった。故に、茶をするのもいいかもしれない。せっかくの誘いを、断るのも悪いだろう。


「なるほど、たまにはお前達と茶を嗜むのも悪くはないか……」

「えぇ……本気ですか?」


 俺の言葉に、レティが顔を歪める。

 愚かなる妹は、この俺がここにいることを好ましく思っていないらしい。

 そういえば、俺が来る前は、説教に対する愚痴を話していた。故に、俺にいられては困るという訳か。

 だが、この妹が事実曲解して伝えるとわかった今、放っておく訳にもいかない。


「何か、問題があるか?」

「い、いえ……」


 俺の言葉に、レティはすぐに従った。

 やはり、この俺に対して、対抗できる程、この妹は強くないようだ。


 しかし、少々、言い過ぎてしまったかもしれない。先程、反省させたばかりなので、立て続けに厳しく接するのは良くないだろう。後で、何かフォローしておく必要があるかもしれない。


 何はともあれ、俺は二人と茶をともにすることになるのだった。




◇◇◇




 俺は、妹達と茶をともにしていた。

 特に口を挟むことはなかったが、妹達の話は中々興味深かった。自身とは違う観点の話を聞くことは、俺の思考にいい刺激となるのだ。


「はあ、もうすぐ学生になるんですね、私達……」

「うん、そうだね」


 そんな中、愚かなる妹がまるで嫌かのように、そう口にした。

 この怠惰な妹は、学校が嫌で仕方ないらしい。その魂を、どうにかしなければ、この妹は本当に駄目になる可能性がある。

 だが、これは本人の意志によるところが大きい。何か、レティを変えてくれる出来事があればいいのだが。


「まあ、でも、学校が近いのはメリットかもしれませんね」

「え?」

「ほら、フォルシアス学園はここから近いじゃないですか? それは、いいことですよ。すぐ行けますし、すぐ帰れます」


 しかし、ここでレティが珍しく、メリットを口にした。

 確かに、フォルシアス学園はここからかなり近い場所にある。そもそも、ここは俺が学園を建設するに当たって建てた別邸なので、それは当然のことだ。

 家から近いというのがメリットに当たるなら、これ程いい場所もないだろう。


「でも、確かに近いのはいいかもね。歩いて、何分くらいだろう?」

「え? 歩いて行く? 馬車でも使えばいいじゃないですか?」


 それに反応したルリアの言葉に、レティは反論した。

 どうやら、歩いて行くか、馬車で行くかで判断がわかられたらしい。


「レティ、こんなに近いのに、馬車なんて使う必要はないよ? 歩いて行こう?」

「いや、そんな面倒くさいことしたくありませんよ。歩いて行くと疲れてしまいます」

「え? でも、距離は近いって……」

「近くても、歩くのは面倒くさいですよ。楽に生きましょうよ?」


 軟弱な妹は、怠惰な理由から馬車で行きたいようだ。

 それに対して、ルリアはそのような無駄なことをする必要がないという主張らしい。


 どちらの言い分も、正しい部分はある。

 レティの馬車で行こうという主張については、正しいことだ。ただ、怠惰理由からそう思うことは許されることではない。

 ルリアの歩いて行きたいという精神性は、とても立派なものだ。だが、歩いて行かせる訳にはいかない。


「ふむ……」


 とりあえず、俺は口を挟むことにした。

 俺が何か言わなければ、この議論はまとまらないだろう。


「ルリア、お前は賢い妹だ。だが、今回の件については、レティに分があると言わざるを得ない」

「え?」


 忌々しいことだが、馬車で行くことが正しい以上、俺はそう言うしかなかった。

 俺の言葉に、ルリアは驚いたような顔をしている。この俺が怠惰な妹の主張を認めたため、動揺しているのだろう。

 それならば、誤解はすぐに解かなければならない。


「お前は、自身がフォリシス家の令嬢であるということを忘れている。そんな人間が、歩いて学園に通うなど、格好がつかないだろう」

「あっ……」

「それに安全面においても、馬車は最適だ。お前達を狙う者から、守ることができる」

「た、確かにそうですね……」


 俺の説明に、ルリアは納得したようだ。

 流石は賢き妹だ。理解が早いことは、とても助かる。


「うわあ、流石はお兄様……妹のために、ここまで早く理屈を述べられるなんて、すごいですね……でも、絶対お姉様が通学中に、声をかけられたりするのを防ぐためですよね……」

「ちなみに、運動嫌いの愚かなる妹には、きっちりとメニューを用意しておく」

「げええ!?」


 もう一人の怠惰な妹には、きちんと運動させおく。

 家に引きこもってばかりでは、健康にも悪い。俺やルリアのように、きちんと適度な運動を心掛けさせよう。


 そのような会話をした後も、茶会は続いていった。

 そこからは、俺が口を挟む必要もなかった。

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