最終話 あれから色々ありまして
「はぁ……」
「ため息なんてついても駄目だよーミカちゃん。受験は待ってくれないんだからねー?」
「あぅ~もう嫌だよ~……受験勉強ってなんでこんなに大変なの~?」
「そういうなって。みんな頑張ってんだから仕方ないだろ?」
「そうだけど~」
高校三年の秋、俺たちは図書室で一緒に勉強をしていた。
あと数ヶ月もすれば大学受験だ。ついこの前高校受験があったはずなのに、あっという間である。
「この調子だとミカちゃんだけ志望校落ちたりしてねー」
「あり得るな。そうなったらミカはどうする? 浪人かフリーターか今のうち決めてたほうがいいと思うぞ」
「ミカが落ちるの前提……!? い、いや判定は結構ギリギリだから大丈夫なはず……」
「どうだろうねー。東京の大学ってだけあって倍率高いからねー。もしかしたらもしかするかも……ね?」
「そうなったらミカだけこっちに残すことになっちゃうのか。遠距離恋愛って自信ないなー」
「遠距離恋愛……!? そ、そんなの絶対ヤ!」
ミカは慌てふためいてから、そして放り出された参考書に再び向き合うのだった。
秋、か。そういえばミカと付き合い始めたのも二年前の今頃だったっけか。
あれから沢山の出来事があった。
ミカとの絆を深めることや、逆に破局寸前までいってしまったことも。
それからアニメへの感性の違いで別れそうになったこともあったっけ。推しキャラの違いなんてくだらない理由だったけど。
それでも、まぁ俺たちはうまく付き合っている。
喧嘩もしたし泣かれたこともあった。現実の彼女ってこんなに大変なんだなって思ったさ。
だけど付き合っている。別れるなんてことは無い。
「頑張れよミカ、お前だけ置いてけぼりは寂しいからな」
「う、うん。ミカもりょう君と離れ離れになりたくないもん」
照れながらも嬉しいことを言ってくれるミカに、俺は本日100回目の愛おしさを感じた。
このまま抱きしめてやりたいが周りに他の生徒もいるので控えよう。
くそ、この溢れ出るパッションをどうにかミカに伝えたいぜ。
「そうだよーミカちゃんも一緒にキャンパスライフを楽しむんだから、絶対に頑張ってねっ!」
俺たちは三人とも同じ東京の大学を目指していた。
ユカは社会学部、俺は文学部、そしてミカは経済学部。みんなバラバラだ。
誰一人として理系がいないあたり、俺たちの数学と物理化学に対する恨みつらみを感じてもらえるとありがたい。
ユカは大学進学後、東京で本格的にモデルデビューすることだろう。
今現在、カリスマ読者モデルとしてSNSで男女問わず大人気となっている。
たまに下校時、校門の前で出待ちされているくらいの有名人だ。
インスタの閲覧数が半端じゃなく、もはや発信力を持った人間になってしまっている。こんな高校生いてたまるか。
この二年間でユカの美しさは更に磨かれて、もはや芸能人など相手にならないまで至った。
ミカは母さんのところに一人で遊びに行くことが増えた。
最初は一年の冬に母さんと二人っきりで会ったのが始まりだっけ。
どうもミカはあの人から学びたいことがあるらしく、それについて必死に勉強しているとのことだ。
確か付き合う前から母さんのチャンネルを熱心に見ていたとか言ってたはずだ。
ミカの目指すものが何なのか、なんとなく察しはつく。母の二の舞にはなってほしくないなぁ……。
そういえばミカが一番変わった点が一つあった。髪がショートになったのだ。
普通そういうのって失恋したヒロインがするもんじゃないのか、と思ったけど本人曰く『今までの自分とサヨナラしたいから』とのことだ。
前までのミカも、今のミカも。俺はまとめて好きだよ。そう伝えた時、顔を真っ赤にして逃げていったっけ。
そして俺はというと……特に変わっていない。
相変わらずクラスでは陰キャだし、勉強も真ん中より上を維持しているがトップ層というわけでもない。
運動も出来なけりゃこれといった特技もない、まぁ普通のオタク高校生だ。
強いて言えば……可愛い彼女とその妹、そして氷川や松山といった陽キャカップルの友達がいるくらいか。
改めて言うまでもない、普通の高校生だよ。
そしてきっと普通の大学生になる。普通の社会人になる。
俺は特別な才能なんてないから、ここから何かの才に目覚めてスペシャルな人間になるなんてことはきっと無いだろう。
でも、それでもいいかなと想っている。
別に特別な人間になりたかったわけでもないし。……いや本当は戦闘民族とか忍者とか海賊王とか死神とか〇殺隊になりたかったけど!
そういう実現不可能なものはともかく、有名人になりたいって欲求は誰しも少なからずあるだろう。
オタクでいえばユーチューバーとしてバズりたい。声優になりたい。漫画家になりたい絵師になりたい作曲家になりたい
俺もそういうのに憧れた時期があった。
承認欲求や自己欲求の塊が内側にどろりと溜まっていたさ。
でも今はそういうのはないかな。普通でいいじゃないかと思っている。
たぶん誰かの一番になれたから満足してしまったんだろうな。元々特別なオンリーワンだ。
まさかユカたちとカラオケに行ったのが伏線だったとは、この亮の目を持ってしても見抜けなかった。
「はぁ~。今日も勉強進まかなったよ~……ど、どうしようユカちゃん。このままだと本当にミカだけ落ちちゃわない?」
「弱気になっちゃ駄目だよミカちゃん、まだ受験まで数ヶ月あるんだから一緒に頑張ろう、ねっ?」
「そ、そうだよね。キャンパスライフ……一人暮らし……恋人……ふふ、ふふふ……楽しみがいっぱい……!」
「おい、ミカから不穏な笑い声が漏れてるんだがこれ俺喜んでいいやつ?」
「まぁこのままだとミカちゃんの想像するような爛れた生活も遅れそうにないけどねー」
「た、爛れてないよっ! ミカはただりょう君と一緒に毎日アニメをリアルタイム実況しながら、そのまま同じベッドで寝たいとか、それくらいしか考えてないもんっ……!」
「あーいいなそれ……」
彼女と毎日徹夜でアニメ鑑賞かぁ。
なにそれすごい天国じゃん。最高かよ。
「残念でした、もし同じ大学に通うことになったらユカと二人暮らしだよー。流石に二人別々の部屋を借りたら高く付くしねー」
「そ、そんな……!? じゃ、じゃあ一緒の部屋で寝泊まりする作戦が使えない……!?」
「いやまぁミカが俺の部屋に遊びに来れば済む話なんだけどな」
ただ大学生の彼女が彼氏の家に泊まるって、響きがエロいな……。
なんだろう、高校生カップルだと『お泊り』って感じだけど大学生だといかがわしさハンパない。
桃色のキャンパスライフかよ……! 早くこい春よ……!
あ、いやまだ受験対策しっかり終わってないから来ないでください。マジで。
「そっか~……でもミカが落ちたらそれも出来ないんだよね……」
「そうだよー、もしかしたらユカがリョウ君ちに遊びに行っちゃうかも知れないね」
「え、え……!? ゆ、ユカちゃんそれどういうこと?」
「あはは、ジョーダン冗談! ただ……うかうかしてるとユカがリョウ君のこと、ミカちゃんから奪い取っちゃうかもよー♪」
「ええっ!? だ、駄目だよ絶対ダメっ! う~ん……受験勉強、頑張るっ!」
「頑張れー♪ ユカもまだまだ、これからだからね☆」
ミカもユカも二人で内緒話なんて楽しそうだな。
こういう姉妹二人だけしか聞こえないような会話をたまにしている。
ふたりともあいも変わらず仲良しで何よりだ。微笑ましくなるぜ。
「ほら、リョウ君なに突っ立ってるのー? 早く行くよー♪ ほら、遅いと亀になっちゃうぞー」
「りょ、りょう君っ。ミカ、絶対大学受かるからね? もっとりょう君と一緒にいたいから、絶対っ」
「……はいはい、分かったよ」
二人の美少女に左右それぞれの手を引っ張られて、俺は帰り道を進んでいく。
これから先も、こうして俺はこの二人と一緒にいるんだろうな。
きっと楽しいことだけじゃないと思う。辛いこともあるだろう。喧嘩することもあるだろう。
でもいいんだ。この絆が俺にとって何よりも大事なものだから。
落とし物を拾って出来た、俺の大切な宝物。それをこれからも大事にしていきたい。
落とし物を届けたら双子の美少女がやってきました taqno(タクノ) @taqno2nd
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