第119話 『おめでとう』
「ひゅーひゅー!」
「いえーい!」
たくさんの歓声と拍手が巻き起こる。
周りの人はみんな俺たちを祝福してくれている。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「めでたいなぁ」
「おめでとさん」
「kさhyふぉえあじょdしゅい」
「おめでとう」
「おめでとう」
「「おめでとう」」
「ありがとう……」
「じゃなくて! なにこのシチュエーション!? エ〇ァ? エ〇ァなの? なんで!? あ、そういえばもうすぐ劇場公開ですねおめでとうございます!」
俺は図書室に突然湧いて出た金髪とギャル、そしてユカの謎の祝福に困惑せざるを得なかった。
いやお前らいたのかよ、告白見てたのかよ。それでいきなり出てきてなんだよこれ、意味わからん。
「いや楓がこういうことやったら進藤よろこぶって言ってよぉ~。なんかのネタなのかこれ」
「知らねえでやったのかよ! つーか松山お前ふざけんなよ! 誰が告白シーンの直後にこんなネタぶっこめって言った! アホじゃないの? 馬鹿なの?」
「あんたバカァ? こんな面白そうなイベント、見逃すわけ無いじゃん」
「いやそのネタも被せなくていいから! つーか今のリア充ってエ〇ァ知らないのね!? 数年前までパチンコとかでリア充人気すごかったらしいけどさ!」
「そりゃうちら高校生だし、パチンコとか出来ないじゃん? あと最後に映画やったのうちらが小学生の頃だもん。今の未成年はエ〇ァより魔殺よ」
「ユカも魔殺しってるよー。映画がめっちゃ人気らしいねー」
あ、“魔殺の槍”こと“〇〇の〇”さん興行収入200億突破おめでとうございます。
有名になる前からファンだった身としては鼻が高いです。
「ってそんなことどうでもいいんだよ! 見てたんなら言えよ! 俺めっちゃ恥ずかしいじゃん! 何なの、知り合いに告白見られるとか罰ゲームじゃん!」
「えー冷たいこと言わないでよリョウ君。ユカとしても気になったんだもん、いいじゃん」
「そうだそうだー。おめぇ友達の俺らに何も言わないで、勝手に盛り上がってんじゃねえよ。こういう楽しいことはみんなで盛り上がらないとなぁ~!」
「勝手に盛り上がってるのお前らの方だからね!? 何俺が悪いみたいな空気出してるの!?」
こいつら余韻というものを知らんのか。
普通告白した後ってもうちょっと甘酸っぱい雰囲気に浸るもんだけどさぁ。
三人がエ〇ァのパロディネタやったせいで完全にギャグの空気になっちゃってるじゃん。
どうすんのこれ……。
「というわけでおめでとーミカちゃん! ユカ、ちょっぴり寂しいけど祝福するよー! 彼氏が出来たからってユカのこと蔑ろにしちゃヤだからね?」
「あ、ありがとうユカちゃん。それとその……色々とごめん、ね?」
「ううん、ユカの方こそごめん。今までユカちゃんのこと分かった気になってたけど、全然だったんだねー……」
「そ、そんなことないよ! ユカちゃんはミカにとって一番大事な妹だもん……ミカが勝手に落ち込んで悩んでただけ……」
ミカはユカの肩を抱き、申し訳無さそうに謝った。
その抱擁を受け入れながら、ユカもミカの背中に手を回す。
双子の姉妹の美しき家族愛、よきかなよきかな。
「お互い相手のことを想っているのに、それが伝わらずに空回りしちゃってたんだな……」
「うわー進藤がなんか分かった風なこと言ってるー。オタクきも~い!」
「なっ……わ、悪いか! 今回のことで俺も学んだんだよ。気持ちは口にしないと駄目だって。熟年夫婦でも無い限り、想いが勝手に相手に伝わるなんてあり得ないことなんだなってさ」
「当たり前じゃん? そんな簡単に心が読めたらエスパーかってーの。それに相手の心に土足で入ったらそれはそれで嫌じゃん」
「松山……お前ところどころオタクが漏れてないか?」
今の松山の話はかの有名な機動戦士的アニメにあった会話だ。
心が通じるからと言ってそれで平和になるとか、そんなこと全然ないよねという内容だった気がする。
つまり人間は結局の所、本音と建前をうまく使って人とのコミュニケーションを図らなければならないのだ。
コミュ障陰キャなら尚更、細心の注意を払って行動すべきだろうと松山は言いたいわけだ。
俺はそれを今回の件で学んだが、松山やリア充のやつらはそれが当然と知っている。
俺はようやく常識の一歩手前までやってきた。周回遅れもいい話だ。
だが元々とんでもなく最下層にいた俺が、こうして多少は社会の常識を知ることが出来た。
そう考えれば今回のことも俺にとって、そしてミカにとってもいい経験になったのかも知れない。
「なんか終わった気でいるけど、大変なのはこれからよ~? あんた女子と付き合ったことないっしょ。陰キャなあんたが彼女に愛想を尽かされるRTAはっじまるよ~」
「やめろや縁起でもない! つーかお前だってつい最近彼氏出来たばっかだろうが! 人のこと言えた立場か?」
「残念でした、ウチは数年間リア充としての訓練積んでるんで。あんたとは年季が違うんですぅ~」
くそ、ギャルのやつめ……元は俺と同じ陰キャオタクのくせに好き放題言いやがって。
でも考えてみればこいつの助言で助けられた部分も少なからずあるな。そう思うとこの憎まれ口も多少はありがたく感じる。
決してマゾに目覚めたわけじゃないぞ。
俺は漫画やアニメの中ならともかく、現実ではなじられて喜ぶ趣味はないのだ。
「お前の言うとおりかもな。付き合ったからってそこがゴールじゃない。ゲームとかじゃないんだから。大事なのはこれから、だよな」
「そーそー。ゲームと現実の区別がついて偉いでちゅね~よしよし」
「やっぱお前嫌い!」
せっかくいい感じの言葉で締めようとしたのにこれだもの。
やはりギャルと陰キャは水と油な関係にある。勝てるわけねえ。
「とりまカラオケいっちゃう~? 俺奢るぜ、バイト先だから安くしてくれるだろうし」
「いいね~ウチも久々に歌っちゃおうかなぁ~?」
「お前ら俺をダシにカラオケ行きたいだけだろ!?」
そんなこんなで俺の一世一代の告白は一気にギャグ空間に飲まれていったのだった。
だけど、こんな空気を味わえたのも。
ミカ、ユカ、金髪やギャルと知り合えたからだ。
誰か一人でも繋がりがなかったら、俺たちはきっとここまで来れなかった。
「ほらリョウ君、ミカちゃん。ユカたちも行こうよ」
「……たく、分かったよ」
「今日はオール、だね」
「いや月曜にそれは駄目だろ!」
「あはは、ミカちゃん嬉しそ~! 顔にやけてるよー?」
「に、ニヤけてなんかないもんっ……!」
だからありがとう。
出会えたみんなにありがとう。
弱気な俺にさよなら。
あかん、何か締め方がマジでエ〇ァっぽくなってしまった。
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