第112話 ユカに事情を話したら学校を飛び出す羽目になりました
「今日はミカ学校に来てないのか?」
休み時間にユカを見つけたので呼び止めた。
四組の教室を除いた時、ミカがいなかった。体調でも崩したのだろうか。
しかしユカは首を横に振る。
そして不安げな表情を浮かべた後、普段では聞かないような小さな声で言った。
「朝は一緒にいたんだよ? 学校だって一緒に行こうとしてたし……。でも校門の前で急に忘れ物があるって言ってさ。そのままいなくなっちゃったんだー……」
「それってどこかで迷子になってるってことか?」
「わかんない……LIMEで連絡とろうにも既読着かないし……ミカちゃん大丈夫かな。昨日の夜すっごくつらそうな表情しててユカが元気づけようとしても全然元気になってくれなくて……」
ユカは本当につらそうな顔をしていた。
大好きな姉がここのところずっと不安定な様子だったのだ。
その上突如姿を消してしまったのだから、ユカが抱える不安はとても大きいものだろう。
その原因の一部が恐らく俺にあると知ったらユカは怒るだろうか。
怒りそうだな、絶対。
「ユカ、実は俺ミカがどうしてこうなったのか……少しだけ心当たりがあるんだ」
「本当? それってどんな理由なの?」
言っていいのだろうか。双子の姉が俺にキスや告白をしたことを、妹に言っていいのか?
ミカのいないところで勝手にそういうことを暴露するのも不味い気がするが、何よりユカがそれを聞いてどう思うか想像できない。
俺たち三人の友情にヒビが入ってしまわないだろうか。そんなことを危惧してしまう。
「教えてリョウ君! ユカ、ミカちゃんがこのままつらそうにしてるのをずっと見てるなんて我慢できないよー! 原因があるならユカも手伝いたい! ミカちゃんはユカの大好きなお姉ちゃんなんだもん、ずっと楽しそうにしてほしいよ……」
ユカのその言葉を聞いた時、これはもう素直に打ち明けるしか無いなと思った。
俺なんかが勝手に心配して余計なことをするよりも、ユカに全て話したほうが事態の解決に貢献できる気がするし。
「じゃあ話すよ……ミカに何があったのか。もっともそれが原因かは分からないけどさ」
こうして俺は夏祭りから今までのことをユカに話すことにした。
その話を聞いてユカがどう感じるか。俺がどう思われるかは未知数だけど。
◆◆◆◆◆
「そ、そっかぁー……ミカちゃん、リョウ君に告白したんだー……へ、へぇー知らなかったよー……」
一通り説明を終えた後、ユカはぎこちなく笑っていた。
そりゃそうだろうな。大好きな姉が自分の知らないところで男友達に告白していたのだ。
俺だったら仲間はずれにされた気分になる。事情を話している俺だってめっちゃ気不味いんだもの。
こんな反応になるのもやむなしと言える。
「え、えーと……じゃあリョウ君とミカちゃんは二人でその……キ、キス……したんだね……」
「い、いやしたというかされたというか……俺からしようと思ったんじゃないぞ!? つーかその時ミカかユカか分かんなかったし、説明した通りミカが『キスしたのはユカ』って言ってたんだって!」
「へ、へぇー……じゃあリョウ君はユカとキスしたって思ってたんだぁ。どうだった? 嬉しい?」
「へ? えっと、それはその……ノーコメントで!」
「あーズルい! 逃げたなー! 返答を要求するー!」
しょうがないじゃない、本人の目の前でそんなこと言えないって。
まぁ正直かなり嬉しいと思いました。それ以上にミカ周りのことで混乱してたけどさ。
ユカはぷんぷんと頬を膨らませたかと思えば、その後すっと落ち着いた表情に戻る。
「じゃあリョウ君はミカちゃんを迎えに行かないとね」
「はい?」
「だってそうでしょー。ミカちゃんはきっとリョウ君の曖昧な態度に不安になっちゃったんじゃないかなー。リョウ君優しいけど優柔不断だしっ♪ そんなんじゃ彼女が出来てもすぐ別れちゃうよー?」
「そ、それは否定しようがないな……」
俺に彼女が出来るなんて思えないが、もし出来たとしてもすぐに破局しそうな予感はある。
それはきっと俺が人に好意を伝えることをしないからだ。
誰かに好意を伝えたらそれまでの関係が変わるんじゃないかって、陰キャ特有の恐怖心があるからな。
気持ちは伝えなきゃ伝わらないってラブコメ作品で散々教えられたはずなのに、いざ自分がその立場になると全然うまく行かない。
一級フラグ折り士の免許でも取れそうな気がするぜ。
俺が自分の鈍感さに辟易していると、見かねたユカが背中を叩いて叱咤する。
「ほーら! こんなところでぼさっとしてない! 今リョウ君がするべきことはミカちゃんのところに行くことだよ」
「いやでも次の数学の授業で中間の範囲が出るって言われたんだけど……」
「うるさーい! そんなのクラスメイトからノートでも借りればいいでしょ! いいから行く!」
「お、おう!」
ユカの勢いに押された俺はなんだか気分が舞い上がってしまい、荷物も持たずに学校を抜け出していた。
堂々としたサボりである。なんだか自分が不良になった気分だぜ。
こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないが、普通の学校生活を送っているとなかなか体験し得ないことにワクワクしていた。
まるで自分が主人公になったかのような錯覚を覚える。まぁ俺なんてモブがいいとこなんだが。
「とは言ってもどうすればいいんだろう。ミカがどこにいるかなんて、皆目検討も着かんぞ……?」
校門を飛び出て一分もしないうちに我に返る俺。
しかたないからミカに連絡してみる。出ない。当たり前か。
「駄目だ……やっぱり俺は主人公なんかじゃなかったんだ……。こういう時主人公ならスパッと簡単にヒロインを見つけるもんだけど、そんな運命力はないし……」
途方に暮れていると、スマホに着信があった。
名前を確認するとなんとミカからじゃないか。俺は大慌てで通話ボタンを押す。
「も、もしもしミカか!? 今どこにいるんだよ!」
『りょう君……学校はどうしたの? 今授業中だよね……』
「ああそれな。なんか授業サボりたくなっちゃってさ、学校抜け出しちゃったわ。後で先生に怒られるだろうな、あはは……」
『りょう君って以外に不真面目だね……。授業サボったの……これで何回目……?』
「ミカも似たようなもんだろ。俺は一度学校に顔だしてるから、俺のほうが真面目だな」
俺がミカに張り合うと、スマホの向こうからかすれたような笑い声が聞こえた。
ミカの声、いつもは甘くとろけそうな声なのに。今はすごい悲しそうな声だ。
「なぁミカ、今どこにいるんだ? ちょっと会えないかな」
『会って……どうするの……』
「分からん!」
『わからんって……。じゃあ会う理由もない……よね』
「理由ならあるよ。俺がミカに会いたい、それじゃ駄目か……?」
『っ……』
しばしの沈黙。少しクサイ台詞だったかな。
でも思いは口にしないと伝わらないんだ。だから多少クサくても言葉にしなきゃ駄目だ。
俺みたいなコミュ障陰キャならなおさらそうだろう。
『わかった』
数十秒か、数分か。体感時間的にはかなり待った気がする。
ようやくミカの返事がもらえた頃には、俺の手のひらには汗が滲んでいた。
『じゃあ……会いに来て』
「ど、どこにいるんだよ。教えてくれなきゃわからんぞ」
『えっとね……今いるのは……』
ミカが話そうとした瞬間、スマホの向こうから雑音が響いてきた。
風の音や人の声の混じった雑音に軽い不快感を覚える。
『駅……に……いる……よ』
ミカの言葉がとぎれとぎれだったのはノイズが混じっていたからか。
それとも彼女自身の気持ちのせいなのか。
分からないけど俺は走り出した。駅といえばこの辺には一つしか無い。
走り出して30秒、バス停に到着して駅行きのバスに乗った。
常識的に考えてここから駅まで走るのなんて無理だからね。
格好つかないけど仕方がないのだ。
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