第111話 ミカがなんか怖い
「おっすミカ、今時間あるか?」
「どうしたの……?」
「ん、まぁちょっとな。聞きたいことがあるんだよ、駄目か?」
「ううん……いいよ。ちょっと待ってて……」
ミカは鞄に荷物を詰めると少したどたどしく廊下へ出てきた。
さてとりあえず第一段階へ移行完了。
あとはミカに話を聞き出さなければ。俺に尋問のような真似が出来るかわからないが。
逆転〇判をやったことがあるから心理戦はイケるはずだ。うん、たぶん。
校門を出て二人、会話もなく静かに歩く。
これから俺が何をしようとしているのか、ミカもなんとなく感づいているのかもしれない。
「そういやさ、この前の体育祭って観客めっちゃいたよな。あれ全員保護者なのかな」
「近所の人も来てるんじゃ……ないかな……。どうしたの急に……今更体育祭の話なんて……」
「ぎくっ」
さ、流石に話題をふるのが急すぎただろうか。これじゃあ今から込み入った話をしますと宣言してるようなものではないか。
こうなったら別の話題に変えるしか無い。ええと、何か話すことは……。
「か、観客っていえば夏祭りの時もすごかったよな~! あんなに大勢の人見たの久しぶりだったわ~」
「うん……ミカ、迷子になりそうで本当に……怖かった……。で、どうしてそんな話題を……?」
「あ、あのさ……ミカが迷子になりそうな時、俺がミカのこと見つけたじゃん? あん時にミカ、何か言おうとしてたけど……もしかして告白しようと思ってたり?」
こうなったらもう知らねえ!
露骨だろうがなんだろうが突き進むぜマイ・ウェイ!
「え……どうだろ……。あの時はりょう君と手をつないで……安心したって気持ちでいっぱいだったから……あんまり覚えてない……かも?」
「そ、そうか。だ、だよなー! 俺急に何聞いてるんだろうな、アハハ……」
く、くそ……誘導尋問をしたいのに中々上手く行かない。
俺は早いとこ、あのキスのことを聞き出したいのに。
逆転〇判……全然役に立たないじゃないか……! カ〇コンさん続編お願いします!
はっ! そういえばあのゲームは被告人の台詞の中から矛盾点を見つけ出すのが重要だった。
ならば俺が色々とミカに質問して、その答えの中から矛盾点を見つけ出せばいいのでは?
天才か俺。いや天才なら日常会話で逆転〇判を参考にしないわ。カ〇コンさん、逆転〇事の方も待ってます!
「でも勿体ないよなぁ。結局花火を見たのって俺だけだったし。二人も見ればよかったのにトイレ行っちゃうんだもんな」
「あぅ……あの時は本当にギリギリで……ってりょう君、あんまり女子にそういうこと……言っちゃダメ……だよ? それにあの時、りょう君はミカちゃんと一緒に……花火見た……でしょ」
「あーそうだったな。あれは確か、一発目の花火があがる頃だっけ」
「全然違う……よ。りょう君が一人で花火見てたところに……後からユカちゃんが来たんだよ……」
「あれ? そうだっけ。あんまり覚えてないな~あっはっは」
「嘘だよ……」
ミカの声に少し圧が込められる。
「この前りょう君……ミカやユカちゃんの唇……すっごく観察してた……。それってあの時のこと……覚えてるからだよね? なのにあんまり覚えてないなんて……嘘だよ」
「ミカこそ、まるで当事者のように語るんだな」
「っ……そ、それは……二人がキスするところ……遠くから見てたから……」
ミカの瞳に動揺が見られた。彼女が俺から視線を外した瞬間、俺は釣り竿に魚がかかったように勝利を確信する。
「花火が始まってからユカが来るまで結構あったぞ? それなのにミカはずっと見てたのか? どうして一人で隠れる必要なんてあるんだよ」
「べ、別にいいでしょ……。何か問題……あるの?」
問題? ないよ全然。
別にミカがトイレ行った後に一人で茂みにいようが、何してようが問題ない。
ただ俺の問いかけに対してミカが動揺した、それが重要だ。
逆転〇判のごとく会話の中の矛盾を見つけ出す、なんて大それたことはない。
俺の指摘なんていくらでも回避出来る穴だらけのハリボテ論破だ。
だが指摘された本人に後ろめたいことがあるのか、同様してしまった。
つまり……ヒットマークをだしたなアホめ! ミカ、お前は俺の巻いた餌にかかった獣同然よ!
やはり逆転〇判をやってる俺とお前では格が違ったのだ!
「実はユカに聞いたんだよ。お前には聞いちゃダメだって言われたから、キスのことはぼかしたけどさ。で、大体わかった。あの時俺と一緒に花火を見たのはユカじゃなかった」
「っ……」
「なぁ、教えてくれよミカ。どうしてあんな嘘ついたんだよ。あの時俺にキスしてくれたのはミカだったんだろ……? それなのにどうしてユカがしたって言ったんだよ」
俺は事実を突きつける。この奇想天外な双子トリックの真実をミカに叩きつける。
ミカがどうして自分の名を伏せてユカの名前を使ったのか。その理由は今もわからない。
だが探偵小説でもあるだろう。ホワイダニットだのフーダニットだの動機や犯人の解明を求める行動を。
俺は犯人も犯行方法もわかっている。わかっていないのは動機の部分だ。
探偵気分になった俺は人差し指をミカに突き立てて宣言する。
「あの時俺にキスしたのはミカ、お前だ」
「ぅ……」
「う……?」
「うぅ……くっ」
「え、ちょ……逃走!?」
ミカは突然走り出した。そして俺が呆気にとられている間に曲がり角に入り、そのまま姿を消してしまった。
あっという間の逃走劇に俺は口を開けて呆けてしまった。
「お前が犯人だって言われて逃げ出すなんて、探偵小説じゃねえんだぞ……。つーか逃げても明日普通に学校で会うだろうに。気不味いだけになっちゃうじゃんか」
まぁいいか。詳細なことは明日聞くとしよう。
あのキスがミカのものだったのは素直に嬉しいんだ。ただ嘘をついてまでキスのことを誤魔化した理由が知りたいだけだし。
ミカのことだから案外恥ずかしかっただけなんてのもあるかもな。
俺はそんな風に呑気に考えていた。
しかし次の日、ミカは学校には来なかった。
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