第87話 ミカに体育祭のダンスに誘われた
「松山さん? あんまり話したことないかなー。クラスで結構目立ってる子だよー。ところで急にどうしたの、そんなこと聞いてきたりして」
「ああいや、別になんでもないよ。ただちょっと気になって……」
「き、気になるってもしかしてリョウ君……松山さんのことが好きなのっ!? だ、ダメダメダメー! リョウ君にそういうのはちょっと早いんじゃないかなってユカ思うよー!」
「ち、違うって! 好きとかそんなんじゃなくて、ちょっと聞いてみただけだから!」
「そうなの……? ならいいんだけどさー」
ユカのやつ何を勘違いしているんだか。俺が話したこともないギャルに惚れるなんて、あるわけ無いだろう。
俺は金髪のように惚れやすいわけじゃないんだから。だって陰キャを相手してくれる女子なんていないだろうし。
そもそも気の強そうな女子は怖いんで、俺から興味持つなんてありえないです。
「あーでも、松山さんはリョウ君のこと知ってるかもねー」
「え? なんで? 俺そんな有名人だっけ」
「あれ、忘れちゃってる? ほら、一学期の終業式! ユカの教室でリョウ君とミカちゃんがうちのクラスの子に啖呵切ってたよねー。あの時リョウ君が怒った相手が松山さん」
「あー……」
そういえばどこかで見たことある顔だなと思ったけど、あいつがそうだったのか。
ユカをしつこく誘ってた女子――確か金髪が来るからって理由でユカをダシにしようとしてたんだよな。
なるほど、金髪のことが好きっぽいのはほぼ確定のようだ。そういう一面だけ見れば年相応の少女らしくて、可愛いと思えなくはない。
まぁリア充特有の同調圧力をかけてくる時点で、俺からしたら全員敵なのは違いないんだが。
知りたい情報はゲットできた。とりあえず自分の教室に戻るとしよう。
「悪かったな。移動教室の時間を割いちゃってさ」
「別にいいよそれくらい。それより……さ。リョウ君は体育祭、どの競技に出るか決めた……?」
「また体育祭の話か……」
何なの? リア充にとって体育祭ってそんなに重要なイベントなわけ?
俺からしたらマジで休みたいくらい、退屈で面倒な行事でしか無いんだけど。
「決めてないよ。無難に綱引きとかに参加しようかなって考えてる」
「そっかぁ。じゃあ決まったらユカに教えてよー。じゃねー」
うん……? 松山楓も金髪に同じことを言っていたけど、はやりのフレーズなのかな?
クラスの違う男子にどの競技に出るか聞くって、意味あるのか?
恐らくだけど、一組と六組じゃ違うチームになると思うんだけどな。一緒の競技に出ようとか、そんな約束事も出来ないだろう。
「ま、いっか。深く考えることでもあるまいし」
◆◆◆◆◆
「あぅ……りょう君……どうしよう。ミカ……体育祭、やっぱり休もうかな……」
「どうしたいきなり。そりゃ俺だって行きたくないけど、前ユカに言われたことを考えたら出なくちゃ駄目だって思うだろ」
「でも……男女混合の……あぅ……」
「……?」
ミカのやつ、何を不安になっているのだろうか。男女混合がどうとか言いかけたけど、そんな競技あったっけ。
あまり気にしてなかったけど、ひょっとして体育祭の競技に男女一緒に参加するものがあるのかもしれん。
うわぁ、絶対出たくない。俺が女子とペア組めるわけないし、こりゃますます無難な競技に出るしかなさそうだな。
「玉入れとか……無いのかなぁ……。あんまり大変な競技は……やだ……」
「流石に無いんじゃねぇかな。唯一の救いは高校って生徒数が多いから、クラス対抗リレーに全員参加! っていうのが無いくらいか。そりゃ8クラスもあってそれを4チームに分けるから、80人も走らなきゃいけなくなるもんな」
「高校によっては……あるらしいけどね……。ここは無くてよかった……一安心……」
「俺もリレーに出なきゃいけなくなってたら、トラウマになってたところだ。四月の体力測定で50メートル走が7.4秒だったからな。帰宅部って言い訳があるとしても、遅すぎる……」
「ミカは9秒だったよ……」
女子の平均タイムを知らないので、ミカが遅いのか早いのかいまいち分からん。
ただ9秒ってなると、小学校低学年の時点で切ってたはずだから、たぶん遅いのだろう。
まぁそんなの関係ないですけどね。俺たちがリレーに出るなんてまず無いだろうし。
「体育祭は平穏に終わってほしいもんだ」
「だねぇ……」
「おいこら進藤! 朝倉! 授業中に何をのんきに喋ってるんだ!」
「あっすみません先生! ほら、バレーの練習しようぜミカ」
「うん……優しくトスしてね……」
新学期早々、体育の授業でまた四組と合同で授業することになったわけだが、相変わらず組む相手がいなくて余る俺とミカ。
残暑の厳しい体育館でバレーなんて死人が出るほどキツいのだが、ボッチが幸いして窓の近くを陣取ってサボっていた。
しかし体育教師に見つかったからには、練習のフリをしなきゃいけない。バレーなんて腕が痛くなるだけで全然楽しくない。
俺が下手なだけですね、はい。自分の未熟さを棚に上げるのは良くない。
「しっかし男子も女子も浮足立ってるよな。みーんな体育祭の話題ばっかり出してるぜ。クラス中そればっかだ、そんなに行事が好きか」
「ミカたちみたいな陰キャの方が……少数派だから……仕方ないよ。だけど、今年の体育祭は……ユカちゃんの言う通り……楽しもうと頑張ってみようかな……怖いけど」
「おっミカもやる気だしたか。頑張れよ、俺は応援してるから」
「うん……りょう君も……一緒に頑張ろうね……」
「チームは違うだろうけどね」
ミカに優しくボールを打つと、ミカはトスしようと両手を上げるも失敗。顔面にボールが直撃してしまう。
「いたぁ~……」
「だ、大丈夫かー? この調子だと体育祭も大変そうだな……」
「が、頑張るからっ……! だからりょう君……もし体育祭で、その……よかったらなんだけど……」
ミカは遠慮がちに、語気を弱くしながら言う。
「男女混合のダンス……一緒に出て……くれませんか?」
「え……」
もしかして、女子がやたら男子の出る競技を聞きたがっていたのは、これが原因なのか?
そんな……男女が一緒に踊る機会があるなんて、まるで夢のような話ではないか。
俺には全然関係ない話とも一瞬思ったけど、今こうしてミカに誘われている。ひょっとして、俺にも春が来たのか?
いや秋……というかまだまだ夏なんだけどね。
「って待てよ?」
そういえばユカが言ってたな。どの競技に出るか教えてって。
あの質問がこのダンスのことを指していたのなら、もしかしてユカからも誘われる可能性があるってことか?
つまり現状俺は二人の女子に誘われてる。俺の自意識過剰でなければ、だが。
しかも相手は双子の姉妹。どっちかを選ぶなんて出来るはずがない。
しかし断ったら相手に失礼だし、どうすればいいんだ……?
「やっぱり体育祭って、大変だなぁ……」
まだ蝉の鳴き声が響く9月上旬。俺は迫りくる体育祭に頭を悩ませることになったのだった。
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