第67話 ミカとユカがコミケのニュースを見てしまった
8月も中盤を迎えていよいよ夏休みも残り半分を切った。
ここ一週間はミカとユカと図書館に行って宿題をやったり、俺の部屋で三人でゲームをして過ごしたりしていた。
そのこともあって夏休みの宿題はほぼ終えており、この調子だと余裕を持って新学期を向かえられそうだ。
『今年のコミケは三日間で過去最高の80万人を記録しました。前回の冬から連続して最多記録を更新しています』
なんとなく付けていたニュース番組ではコミケの様子を紹介していた。
そう言えば俺が注目してるサークルの新刊もそろそろアニメショップに置かれる頃かな。
しかし現地組は大変だなぁ。こんなくそ暑い中、外で数時間も待機しなきゃいけないんだから。
しかもお目当ての物が必ず手に入るとも限らないし、俺にはとても真似できん。
東京へ往復する金額とかホテル代なんかを考えると、学生の俺にはそもそも参加することすら叶わないしなぁ。
ニュースの画面を眺めながら、ユカが首を傾げて俺に質問してきた。
「ねぇリョウ君、こみけってなに?」
「コミックス・マーケット通称コミケ。オタク系イベントで最大級のイベントだよ。毎年夏と冬に二回開かれてるんだけど、これは夏コミって呼ばれてるやつ」
「ふーん……そこで何するの?」
「同人誌とか企業の限定グッズ買うとか、まぁ人によって色々違うんじゃないかなぁ。行ったこと無いから俺も詳しくは分からん」
「どーじんしってミカちゃんも買ってるやつだよねっ! それは知ってるー! ファンの人が自分の好きな作品の漫画を描くんでしょー?」
「大まかに言えばそんな感じ。最近はソシャゲの公式絵師が自分のサークルでそのソシャゲのキャラの同人出すってパターンもよくあるけど」
「んー? 一気に難しい単語がいっぱい出てきて分かんないよー……」
アニメとかオタク文化に全く触れてないユカからすれば、全然理解できない文化だよなぁ。
俺がリア充の文化に全く共感も理解も出来ないのと同じだろうさ。
「ただいま……」
「あーミカちゃんおかえりー☆」
トイレ……もといお花を摘みに行っていたミカが部屋に戻ってきた。ミカは俺達の視線の先――ニュース番組に目を向けると興味深そうに画面を見る。
「夏コミ……“灰燼卿オルトバール”のグッズ……欲しかったなぁ……」
「ミカちゃんってそのアニメ好きだよねー。ほら、5月にリョウ君とアニメショップで会った時あるじゃない? あの時もミカちゃん、そのオルトなんとかってキャラのどーじんし買ってたんだよー」
「へぇ、そんなにお気に入りのアニメなのか。でも俺見てないんだよなそのアニメ。なんだっけ、今年の冬アニメでやってたやつ?」
「うん……結構人気あってミカ大好きだったんだけど……コミケの現地でしか買えないタペストリーとかあるから……買いたかった……」
「アニメ公式がグッズ出してくれるのは嬉しいけど、通販なしだとキツイよなぁ。仮に現地行けても企業ブースって人気ですぐ売り切れるらしいしさ」
「いっそメリカルとかで買っちゃえばー?」
確かにオークションサイトやフリマアプリで後から購入するっていうのも一つの手ではある。
だけどこういう限定グッズを速攻で売りに出すってことは、大抵の場合転売目的だったりするからなぁ。
もちろん買ったけどやっぱりいらないやって売りに出す人もいるとは思うけど。
案の定ミカはユカの提案に黒い感情を漂わせながら、否定の態度を示した。
「転売は……悪……。定価より少し高いなら……許すけど……それでも現地で買いたかった人に……行き渡らなかったと思うと……許せない……」
「途中で若干私情入ってたぞミカさんや」
こいつさては転売は悪とかいいつつも、定価かそれより少し高い程度なら転売屋から買ってるな?
別にそれが悪いことじゃないけど、中々したたかなやつだなミカめ。
いやまぁそうでもしないと欲しいグッズが手に入らないんだから、仕方ない面もあるっちゃあるんだけどさ。
俺はどっちも否定しないぞ。そもそもあんまりフリマやオークションサイト使わないし。
『今年のコミケて大注目だったのが、なんといってもコスプレです! 去年までこの番組のアナウンサーを務めていた、現在フリーアナウンサーの明石アナもコスプレに参加して話題を呼びました!』
ニュース番組はコスプレをしている“美人すぎるアナウンサー”で有名な明石アナや、最近テレビに出るのが多いコスプレイヤーのニャルミを中心に紹介していた。
コスプレって前まではテレビで取り扱うには敬遠されていたけど、こうして有名人がやると取り上げるあたり知名度って大事だねぇ。
しかも明石アナは今大人気で今度映画をやる“魔殺の槍”のヒロインのコスプレをしてるし、最初からテレビ受けを狙っていそうな感じがするのは俺の気のせいだろうか。
いやダメだな、陰キャオタクの悪い癖でついテレビの内容を勘ぐってしまう。
「へぇーコスプレってこんなに凄い衣装とかあるんだー。メイクも本格的だし、本当にアニメのキャラが現実にいるみたいだねー」
「日曜朝の特撮番組のコスプレとか凄いぞ。自分で全部スーツを作って、更に決めポーズまでしっかり真似するからな」
「今までコミケとかよく分かんなかったけど、ユカこういうのなら結構興味あるかもー。ねぇねぇ、コスプレってどうやってやるのー?」
「通販サイトで……キャラの衣装やウィッグが売ってたり……自分で作る人も……いるよ……。通販で買える衣装は……ちょっと安物っぽくて……残念な場合もあるけど……」
「あー通販サイトでアニメのグッズ探してたら出てくるよなー。確かにお手頃だけど、ぱっと見で生地とかしょぼそうだもんな」
「ふーん、じゃあさっきの人たちは自分で作ってるのかなー」
「それか特注してるかじゃないか? 有名人だし衣装作りの伝手とかありそうだし」
「そっかー……ふむふむ」
ユカは一人で納得したように頷きながら、指をパチンと鳴らして宣言した。
「よーし、みんなでコスプレしよー!」
「…………はい?」
夏休みの中盤にもなって、ユカがトンチンカンなことを言いだした。
コスプレなんてそう簡単にできるもんじゃないだろ。
え? 出来ないよね? さっきユカがなんか一人得心してたけど、マジでやるのこれ?
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