第37話 ミカとカードゲームでデュエルした
「行くぞミカ、俺のターン!」
俺とミカは空き教室の机を挟んで対面で座っていた。
机の上にあるのは大人気カードゲーム『バトルオブモンスターズ』通称バトモン。今はミカと二人でこのカードゲームの対戦をしようとしているところだ。
このカードゲーム、小学校の頃はハマってたんだけど、中学に入ってからはあまりやってなかったんだよな。
一応アニメシリーズは追っていたのだが、カードを買うのは少なくなった。
でも高校生になってから何故か再燃してしまった。そこでミカに話題を振ってみたところ、ミカもこのカードをやっているということでこうして対戦することになったのだ。
ネットでもよく見かけるけど、カードゲームって小学生の頃にハマって一度引退した後、高校生になって復帰する人って多いよな。
実際俺のクラスにも休み時間にバトモンをやっているリア充を見かけるが、この現象って一体何なんだろう。
どうでもいいことだが、地味に気になるな。
「俺はドラゴンジュニアを
俺が使うのはドラゴン系のデッキだ。男はドラゴンとメカが大好きだからな。でかくて強そうなモンスターを使うのは最高に楽しい。
本音を言えば美少女系モンスターを使いたかったけど、そっちはカードの値段がバカ高くて集めるのが大変だからね……。
あと女子相手に美少女デッキ使うのは恥ずかしいしな。安価で組めてそこそこ強いドラゴンデッキで妥協するしかないのだ。
「俺はアイテムカード、ドラゴンストライクを発動! 手札のドラゴンを一枚捨てて相手の手札の中からモンスターカードを一枚墓地に送るぜ」
「りょう君……先行ハンデスは……卑劣……」
「はっはっは! こういうのは防げない方が悪いんだよ! さぁ、お前の手札を見せてみろ」
「ん……恥ずかしいから……あんまりジロジロ見ないで……」
「その言い方は俺が悪いことしてるみたいだからやめて」
言葉だけ抜き出すと危険な香りしかしない。誰かに聞かれたらアウトだわ。
まぁ実際は手札のカードを見ているだけなんだけどね。
俺はミカの手札の『ワンダーシープ・メェメェ』というモンスターを墓地に送った。
「このカードは可愛い見た目の割にえげつない効果を持っているからな。真っ先に除去させてもらうぞ」
「ミ、ミカのデッキの初動カードが……」
「俺はこれでターンエンド。さぁ、ミカのターンだぞ。どっからでもかかってこい」
ミカには以前ゲーセンでこっぴどくやられたけど、バトモンでその借りを返してやる。
こっちはわざわざネットで今流行のデッキを調べて、構築済みデッキを三つも買って来たんだ。
三千円で強いデッキを組めるのは凄いけど、高校生には結構つらいからな。財布的な意味でも、全く同じ物を三つも買わなきゃいけないって意味でも。
レジに持っていった時、店員に『こちら全て同じ商品ですがお間違い無いですか?』って聞かれて恥ずかしかったんだからな。
いちいちそんな事を気にする俺も俺だけどね……。
ガチプレイヤーは雑誌付録のカード目当てに同じ雑誌を三冊レジに持っていくと聞く。
俺なら店員にどう思われるか気にしてそんなこと出来ない。やはりオタクの中でも特に陰キャなんだろうな……俺って。
「ミカのターン……ドロー……」
ミカは不安そうにデッキからカードを引いた。
ふふふ、ミカは可愛い動物系のモンスターでデッキを組んでいる様だが、俺のドラゴンデッキの前ではそんな獣たちは無力だ。
たとえ強いカードを引いても、俺の手札にはディフェンスカードがある。そう簡単にやられないぞ。
「ミカは……アイテムカード『わくわくアニマルパーク・ワンダーワールド』を発動……デッキから『ワンダー』と名の付く獣モンスターを三枚選んで墓地に送るね……」
「墓地肥やしか。だけどお前の手札にはそれを活かすカードは無かったはずだぞ」
「ミカは今引いたアイテムカード……『ワンダーアニマルチケット』を使って……墓地の『ワンダー』獣モンスターを三体まで場に出す……よ」
「え、それってさっき俺が墓地に送ったモンスターも復活しちゃうのか?」
それはまずいぞ、あのモンスターはネットで『ぶっ壊れ』とか『アドの概念壊れる』とか『害獣羊』とか散々なことを書かれていたはずだ。
最近のカードはあまり詳しくない人でも、効果を読むだけで強いことしか書いていないと分かるレベルだ。
「ミカは『ワンダーシープ・メェメェ』の効果で……デッキから『ワンダー』アイテムカードを三枚……サーチする……。そしてサーチした『ワンダーアニマルエボリューション』で……メェメェを『ワンダーウルフ・ガルガル』に進化……。メェメェが進化素材になった時、相手の場のモンスターを一体……ミカのフィールドに移して……相手の手札二枚をゲームから取り除く……。そしてガルガルはメェメェの効果で……相手の効果を受けなくなる……。更にミカは……」
ミカが意味不明なじゅもんを唱え始めた……。普段より饒舌なのが凄く怖い。
「ちょ、ちょっと待ってミカさん。一旦落ち着こう?」
「『ワンダードッグ・ワンワン』で『ワンダー』モンスター一体をリクルート……。手札の『ワンダーキャッツ・ニャンニャン』を
「はいぃ!? 俺の場にはモンスターがいないから、ディフェンスカードを使わないと負けちゃうんですけど!?」
「更にアイテムカード『ワンダーアニマルの大脱走』を発動……。ミカの場に『ワンダー』獣モンスターがいる限り……りょう君は墓地のカードを使えなくなる……」
「墓地利用まで制限してくる!? なにこれ、こんなに展開して俺の妨害もしまくってるのに、ミカの手札一枚しか減ってないんですけど!」
いくらなんでもやりすぎだろ! こんなのデュエルじゃねぇ、一方的な蹂躙だわ!
ミカはふふんと鼻を鳴らして上機嫌に笑っている。
この顔は以前ゲーセンで見た時の顔と同じだ。嫌な思い出が蘇ってしまう。
「準備完了……ミカはワンダーアニマル達でりょう君にアタック……」
「ま、負けた……後攻一ターン目にワンショットキルされた……!」
「んふふ……かわいい動物さんたちは……無敵……」
何がかわいい動物だ、こんなの害獣でしかないわ!
俺のドラゴンよりこんなふわふわな絵柄で書かれた動物たちの方が何倍も強いとか絶対おかしい。
ミカは勝利の余韻にひたりながら、満足そうに微笑む。
「ミカ……今まで自分ひとりでしかデュエルしたことなかったから……初めて誰かとデュエルしたの……楽しい……」
「ああ、陰キャあるある『対戦相手いないから一人二役でデュエルする』やつな……」
カードゲームをやっている友達がおらず、かといってカードショップに行って見知らぬ他人と対戦する勇気もない俺たち陰キャが出来ること。
それはデッキを二つ用意して、一人で二つのデッキを交互に操るというものだ。
もうひとりの僕を呼び出してデュエルするその光景は、はたから見ればかなり悲しい光景だろう。ある意味実在する闇のゲームとも言える。
俺も小学校の頃はよくやってたなぁ……。今よりは遊ぶ相手もいたからまだマシだったけどさ。
「りょう君といると……ミカ……すごく楽しい……。これからも……ミカと色んなゲーム……やって欲しい……です」
「う、うん。もちろんオッケーに決まってるさ。俺もミカみたいな趣味の合う友達欲しかったし、むしろ俺の方からお願いしたいくらいだ」
「にゅふふ……! ありがとね、りょう君……」
ミカの儚くも綺麗な笑顔が俺の五臓六腑に染み渡る。ユカの笑顔が太陽の輝きだとすると、ミカの笑顔は夜空に浮かぶ星のような美しさだ。
朝倉姉妹の笑顔は種類こそ違えど、その輝きはどちらも代えがたいものだと感じる。
「それはそれとして、ミカはもうちょっと手加減してくれ」
「……?」
ミカとの初めてのカードゲーム対決、その結果は俺のボロ負けとなった。
その後も何度か対戦したけど、結局ミカに一度も勝てずその日は終わってしまった。
どうやらミカはアナログ・デジタル問わず対戦ゲームが強いと分かったのは、俺にとって朗報なのか悲報なのか。
どちらにしても次こそはミカに勝ちたい。心の底からリベンジマッチを願う俺なのであった。
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