第26話 美人の双子と掃除をした
「日曜日だし、家の掃除でもするかぁ」
日課のアニメ鑑賞を終えた後、誰に聞かれてるわけでもなく俺は呟いた。
最近、一人暮らしにようやく慣れてきた。飯の準備とか、一人で起きることも苦ではなくなってきた。
だが物事に慣れてきた頃が一番危険だと言う。こういう時、油断していると生活習慣が崩れてしまうかもしれん。
俺は普通に過ごしているつもりでも、父さんが帰ってきたら、散らかってると怒られる可能性もあるわけだ。
ここらで一回、気を引き締めるためにも家の隅々を掃除しよう。
「まずはリビングからだな。とはいえ、何から始めたらいいのやら」
掃除って言っても、掃除機をかけるくらいしかやること無いしなあ。
俺が悩んでいると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
宅配便か何かかと思って玄関に出ると、ミカとユカが外に立っていた。
「やっほーリョウ君! 遊びに来たよー」
「こ、こんにちは……です」
「どうしたんだよ二人とも。こんな日曜の午前中に俺んちに来たりするなんて」
はて、遊ぶ約束なんてしてたかな。もしやLIMEを読み逃していたか。
スマホを確認するも、特にメッセージは来ていなかった。ということは、俺の勘違いでは無いようだ。
「えへへ、最近ユカたちってずっと一緒にいるでしょ? お家に行くのも、わざわざ声掛けなくていいかなーって思って」
「ごめんね……りょう君に会いたくって……。迷惑……だったかな……?」
「いや、全然問題ないけど。まぁ立ち話も何だし、上がってくれ」
「はーい。おっじゃましまーす♪」
「にゅふふ……おじゃま……します」
しかしユカの言う通り、本当に最近一緒だよなぁ。昨日だってミカと映画を見に行ったばっかりだし。
それに気付けば毎週自宅に招いてるような。
友達としてはこれが正しいのかもしれんが、学校の男子に知られたらボコボコにされるだろうな。
「あれーどうしたの? 部屋の中に掃除機が転がってるよー」
「ちょうど掃除しようとしてたんだよ。でも二人が来たし、また後でやるよ」
「うー……そう聞くと、ユカ達来るタイミング悪かったかも」
「あぅ……お掃除の邪魔……しちゃった……」
「いや、本当に気にしなくていいから! アニメ見終わって暇だったから、なんとなく掃除するかぁって思っただけだし」
正直言うと掃除したかったけど、来客を放置してまでやることじゃないしな。
少し残念に思う俺の心情を見抜いたのか、ユカがとある提案をしてきた。
「せっかくだし掃除しちゃおうよ! ユカも手伝うからさ、ね?」
「え、友達に家の掃除やらせるとか駄目じゃないか?」
遊びに来た友達にそれは、流石に図々しいにもほどがある。
俺だったらソッコー帰るね。間違いない。
しかしミカもユカも、特に不満そうな顔もせず、むしろ乗り気といった感じに準備をし始める。
まじでやるのか、君たちそれでいいの? 美少女二人に家の掃除やらせる俺って一体……。
「ちっちゃいことは気にしないで、レッツスタート~!」
「おぉ~……!」
「もう何も言わねぇ……仕方ない、やるか掃除」
こうなったらヤケだ。いっそのこと二人にはとことん手伝ってもらうとしよう。
「あ~ダメだよリョウ君! 掃除機は奥から手前にかけるのが基本!」
「そ、そうなのか」
知らんかった。ユカによると埃は上から下に落ちていくから、掃除機をかける順番は決まってるらしい。
全然気にしたことなかったな。
「うゅ……りょう君。油汚れは……アルカリ性の洗剤……おすすめ。しつこい汚れも……かんたんに落ちる……よ」
「ほ、本当だ。濡れ雑巾じゃ全然取れない汚れも、こんなにあっさりと」
そんなに目立たないし、水拭きだけでいいやと思っていたけど、汚れによって掃除のやり方も変わるんだな。
「あー! 洗濯物は綺麗にたたまないと皺になっちゃうよ~! もう、面倒だからってぐちゃぐちゃに片付けちゃダメだよー」
「す、すまん……つい」
なんだか俺の立つ瀬が全く無いな……。
元から家事には無頓着だったけど、二人に指摘されると自分が今まで如何に適当だったか分かる。
「というか、ミカもユカも掃除に詳しいのな」
「そりゃ普段から家の掃除とかしてるものー。ママの手伝いをしてるうちに色々詳しくなっちゃった」
「ミカ……料理はダメだけど……これくらいなら……」
「しっかりしてるなぁ、俺とは大違いだ」
まぁ、俺も父さんも家事は下手だったからなぁ。こうして女の子の掃除姿を見てると、女子力の高さを感じさせられる。
いや、もはや女子力じゃなく人間力だな。二人に比べて俺の人間力が圧倒的に低すぎる。
せめて俺にも、家事を教えてくれる母親がいればなぁ。
「ふぅ、一通り掃除し終わったねー。結構キレイになったくない?」
「おお……! そこまで散らかってないと思ってたけど、こうやって見ると結構散らかってたんだなぁ。まるで新居みたいにぴっかぴかだ」
「んふふ……ミカ、頑張った……!」
「うん、ありがとなミカ。それにユカも。二人のおかげで見違える様に綺麗になったよ」
さっきまでの部屋が灰色の空間だとすると、今は黄金のように光り輝いて見えるぜ。
たった三ヶ月やそこらでも、家って汚れるんだなぁ。
「疲れたねー。お腹も空いたしご飯にする?」
「だな。時間的にも丁度昼飯時だ」
「んにゅ……ミカ……お腹ぺこぺこ……。もう力が出ない……」
「とは言っても冷蔵庫には何もないんだけどな。外に食いに行くか? お礼におごるよ」
「やったー♪ 何食べようかなーステーキとか?」
「ミカは……ハンバーグ……!」
それは勘弁してくれ。俺の財布が死んでしまいます。
ファミレスでもいいなら構わないけどさ。
「ま、歩きながら考えよう。さぁ、行こうぜ」
二人の好物を聞きながら、財布を取って玄関に向かう――その時だった。
玄関の扉がガチャリと開かれた。
「ただいま亮ちゃん~! お母さん帰ってきたわよ~!」
「げっ」
「えっ」
絶賛別居中の母親、進藤萌絵(36)が我が家にやって来た。
それも運悪く、朝倉姉妹のいるタイミングで。
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