第19話 双子の姉とゲームで対戦する

「やっぱ放課後はゲーセンだよなぁ」


 学校から帰る途中に、俺はゲーセンに寄り道していた。

 校則では寄り道は禁止なのだが、そんなの律儀に守る様な人間はいないと思う。

 現に部活の帰りにモックでハンバーガーを食ってるやつをよく見かけるし、暗黙の了解ってやつだろう。


「しかしここのゲーセンは色々なゲームが揃ってて、気晴らしに向いてるなぁ。最近はアケゲーは斜陽とか言われてるけど、だからこそゲーセンでしかやれないようなゲームが出てきてるし」


 昔はアーケードで出されたゲームも、少し待てば家庭用に移植されたりしたが、近頃はどうも事情が変わったみたいだ。

 家庭用のゲーム機では出来ないような、大がかりな筐体を使ったゲームや、物理カードを印刷してコレクター需要を高めるゲームなどが増えつつある。

 ゲーム会社も、アーケード業界を盛り上げるために色々と頑張っているんだろうな。その努力には感心させられる。


 かく言う俺も、こうしてたまにゲーセンに来ている。

 というのも、俺の好きなアニメを原作としたゲームが出ているからだ。

 イケメン男子や美少女キャラが沢山出る、かなり有名なゲームだ。俺が以前購入した同人誌も、この作品を元にしている。


 ちなみに、女性キャラはかなりキワドイ格好をしている。

 とてもお子様には見せられない衣装を着ていて、胸とかめっちゃ揺れる。おまけに攻撃を食らいすぎると衣装がはじけ飛ぶ。

 このゲームをプレイしている姿を見られるのは、ある種の公開処刑だろう。

 まぁ、それをお目当てとしているプレイヤーが多いからそこそこプレイ人口はあるんだけどね。俺もそれに釣られたオタクの一人だ。


「アーケードのゲームでガチャ要素があるっていうのが信じられないよなぁ。普通にプレイするだけでも金かかるのに、更に金を要求されるとか。まぁガチャ回しちゃうんですけどね……」


 なけなしの小遣いをこんな事に費やしていいのか、という自問自答をしてしまう。

 けど他に趣味も無いし、楽しいから問題ないのだ。問題があるとすれば、もっとまともな趣味を作れというツッコみが来るくらいかな。


「お、対戦相手が決まった。あれ、敵チームの一人……この店のやつだ」


 俺がやっているゲームはカードをスキャンして操作キャラを決めるアクションゲームだ。

 全国対戦も可能で、3on3のチーム戦がアツイ。その際にプレイヤー名の下にどこの県の、どの店からアクセスしてるか分かる仕様になっている。


 どうやら敵の一人はこの店にいるらしい。俺は周りを見渡してみると、俺の筐体の裏に誰かいるような気がした。

 こっそりとのぞき込んでみると、そこには見覚えのある人物がいた。




「にゅふふ……相手は限定SSR水着アテナ……課金自慢する人には……絶対負けない……!」


「ミカー!? 何でここに……!」


 お前もこのゲームやってたのかよ! というか、水着アテナ使いって俺のことじゃん! 完全に狙われてるよ俺!?


 違うのよ、ミカ。これは運良く一発で引いたんであって、課金しまくったわけじゃないのよ。

 大体高校生がガチャに使える金額なんてたかが知れてるだろう。いや、ミカは俺の事情なんて知らないだろうけどさ。


「うおっ……! やば、ミカのやつ上手い……! 恒常SRでキャラランクも中堅のキャラのはずなのに、ここまで強いなんて……! ミカのやつ、さてはガチ勢だな」


 俺の水着アテナは、ミカの操作するマルスというキャラにガンガン体力を削られていく。

 このままでは負けてしまう。一旦味方と合流しよう。


「ん……逃がさない……!」


「嘘だろ、連続でステップキャンセルして来やがった!」


 このゲームは“ブーストゲージ”という物を消費して高速で移動したり、敵の攻撃を回避出来る。

 だがゲージがどんどん減っていくため、長時間の使用は出来ないという制約があるのだ。


 しかしミカはダッシュ中にレバーを素早く切ることで、“ステップキャンセル”通称ステキャンという小技を使用した。

 これを使うとブーストゲージの消費を抑えながら、もう一度ステップを繰り出せる。


 これだけなら俺も出来るような操作だ。

 だがミカは更に高度な操作、連続ステキャンを使ってきた。これはつまり、少ないゲージの消費で連続して高速で移動する超高等テクニックだ。


 こんなの全国大会の常連くらいで無いと出来ない芸当だぞ……。

 ミカ……恐ろしい子……!


「逃がさないよ……ぜったいやっつける……! 無課金の恐ろしさ……思い知らせる……」


「いや無課金って言ってるけど、このゲームやってる時点で課金してるからな!」


「えいっ……これでもくらえ……」


「うお、やっば。このままじゃ落ちてしまう……! とにかく逃げるしかない……!」


 ミカの操作するマルスに追いかけられながらも、俺は死に物狂いで味方の元へ辿り着く。

 ははは! 流石に三対一じゃ、多勢に無勢だろう。戦争は数だぜミカ。


「ぶつ……ぶつ……」


「あれ……? ミカ……?」


 向かいの筐体にいるミカの様子が何だかおかしい。

 元々ゲーセンは色んなゲームの音が大音量で流れているから、ミカの小さな声は聞こえづらかったのだが、更に聞き取れなくなった。

 そっと向かいを覗くと、そこには見たことのないミカの姿があった。


「水着アテナ……アフロディーテ……クリスマスフレイヤ……全員限定SSR……廃課金許すまじ……!」


「おおぉぉ……!? ミカがかつてない程にやる気に満ちあふれた顔してる……! あんな表情出来たのか……」


 いつもは儚げな表情のミカが、不敵な笑みを浮かべている。

 キリッとした目つきは、どこかユカと重なる所があるな。


 って待て待て! 俺のチーム全員を相手に、まさか一人で立ち向かってくる気か? いくらミカが強くてもそれは無茶だろう。

 こっちは環境上位のキャラばかりだ。プレイヤーの腕だけでどうにかなる場面じゃないぞ。


「ふふふ……腕が鳴る……」


「あのミカが戦闘狂みたいなこと言っとる……!」


「ていっ……やぁ……」


「ちょっ、可愛らしい声とは裏腹にめっちゃえげつないコンボ決めてきてるんですけど!? ああ、味方が一人やられた!」


 更にミカはステキャンを華麗に駆使し、あっという間にもう一人の仲間も倒してしまった。


「馬鹿な……キャラの性能の差が、戦力の決定的差ではないとでも言うのか……!」


「にゅふふ……あと一人……! これで、終わり……!」


「く……まだだ、まだ終わらねぇぞ! 味方が復帰して、こっちに来るまで耐えれば形勢逆転出来るんだ。俺一人で十秒くらい耐えてみせる!」


「えいっ」


「うおっ!? 言ってる側から倒されてしまった! くそ、負けた~!」


 俺が負けたことで、相手チームのポイントが貯まり、決着が着いてしまった。

 せめてここで生き延びれば、他の敵を倒して同点まで持ち込めた可能性もあったのだが、見事に壊滅した。

 驚くことに僅か1分で試合が終わった。普通このゲームって、制限時間の5分ギリギリまで決着着かないことが多いんだけど……。


 ミカ……凄まじい強敵だった。



「やった……! ミカ、勝った……!」


「し、信じられない……。ミカやべぇ」


 ま、まぁ今のは少し油断しただけだ。こんな試合滅多に無いだろうさ。

 残り時間的にあと4試合は出来る。気を取り直して、まっとうな試合をしよう。


「……って、またミカと当たってるし! 連続で戦うことなんてあるのかよ! いや、平日の夕方だからプレイしてる人も少ないだろうし、あり得なくは無いのか……?」


「またSSRばっかり……ふふふ……次は本気でやる……」


「さっきまでのは本気じゃなかったのか!? く、くそっ俺だって二回連続で負けるわけにはいかん! 今度こそ絶対勝ってやる!」




 結局、その後もミカに5タテ食らいました……。

 というか5試合連続で同じ敵とぶつかるってあり得るのか? いくら何でも偶然が重なりすぎだろう。

 強い相手と連続で戦うと、勝率が下がるから調整してくれよ運営……。



「ん~~~~! いい気分……満足……!」


「よ、ミカ」


「あ……りょう君……」


 ゲーセンを出て、ミカに声をかける。

 ミカはまるで運動した後のように、心地よさそうな表情をしていた。


「りょう君も……ゲーム……してたの?」


「あ、ああ。ミカもこういうとこ来るんだな。人の多そうな所は苦手だって思ってた」


「う、うん……だから平日のこの時間帯にしか……来ない……。休日は……人が多くて……怖いもん……」


「じゃ、じゃあもしかして、たまにしかゲーセンに来ないのか?」


「そう……だよ? 毎週来るわけじゃ無いから……ゲームの腕……落ちて大変……」


 何っ!? あれで腕が鈍っていたというのか?

 しかもミカの言い分だと、あまりプレイ時間も長くない様だ。これで全国レベルの腕前とは恐れ入る。

 ひょっとすると、俺が思っている以上にミカは凄いやつなのかも知れない。


「どうしたの……口……ぽかんと開いて……」


「いや、世界は広いなって思っただけだよ……」


「…………?」


 その日は、ミカの意外な特技を知ることとなったのだった。

 どうでもいいけど、ゲームの上手い女子って何かいいよな。いや本当にどうでもいいことなんだけど。

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