第4話 体育の授業で余ったから双子の姉とペアを組んだ
「今日の授業はバスケットボールだ。二人ペアを作ってパス練習から始めてくれ」
最悪だ。まだ昼前だというのに、もう家に帰りたくなる。
体育の授業でペアを作れなんて、この体育教師は人の心が無いのか。
陰キャがペアなんて組めるわけ無いだろ、いい加減にしろ。
「なあ、パス練しようぜ~」
「オッケー」
周りはどんどんペアを作って練習を始めている。残っているのは俺のような友達のいない奴らばかりだ。
しかも陰キャ仲間は俺を除いて既にペアを組み終わっている。俺を裏切ったのか、仲間たちよ。
陰キャの中でも更に陽キャと陰キャが別れているように、俺は最下層の人間というわけか。
「とか言ってる間に、俺一人余ってしまった……」
まさに言葉通りのボッチ。
周囲の人間にちらほら見られているのが、死ぬほど哀れに感じる。
「いつもなら知らないやつとペアを組むけど、今日に限って何で四組と合同なんだよ」
いつもは一組と二組で体育の授業をするのに……。
まあいいか。教師もどこかに行ったみたいだし、この際サボってしまおう。
というか一人だと物理的に参加不可能なんだ。これは正当性のあるサボりだ。
他のペアに三人でやらせてもらうよう頼むなんて、俺には出来ない。だって陰キャだし。
そんなことを頼める性格なら、とっくに友達一〇〇人出来てるのだよ。
俺は体育館の隅に行き、座って時間を潰すことにした。
「はぁ……ペア作りとか最悪だ」
「そう……だよね……絶許……」
「うわっ! ってなんだ、ミカか」
何でこんなところにいるんだ。ああ、そうか。今日は四組との合同だから、ミカがいるのか。
しかしどうしてこんな人目の付かないところにいるんだろう。
「ミカも……女子のペアで……余ったから」
「おぉ……」
すまんミカ。掛ける言葉が見つからん。図書館の件といい、シンパシーは湧くが。
しかしユカと違いミカは本当に友達がいないのか?
少なくともあの妹と外見がそっくりなんだから、女子から誘われることくらいあるだろうに。
「ミカ……運動下手だから……。ペアになった人に……迷惑かけちゃう」
「そういうことか」
気持ちは分かる。
俺も以前、授業でサッカーをやった時、試合でやらかしたなぁ。
チームメイト全員がドンマイと声をかけてくれたけど、授業終わりに愚痴を吐いてるのを聞いてしまい結構堪えた。
だってせっかくパスを渡してくれたのに、思いっきり空ぶったんだもの。
馬鹿にされても仕方ないだろう。
「出来ないなら無理にやる必要も無いよなぁ」
「う、うん……。失敗して……嫌われるの……怖い」
「ハハハ。俺は失敗しすぎて嫌われるどころか、クラスメイトに認識されてるか怪しいよ」
「そう……なの?」
「まあね。全然自慢することじゃないけどさ。今日だって、プリントを配る時に『進藤って人どこ?』って言われた。もう入学して一ヶ月経つのにな」
「あぅ……かわいそう」
慰めてくれるのが逆につらい。
まあ俺だって相手のことを覚えていないから、お互い様だろう。
いや、誰も悪くない。あれは悲しい事件だったんだ。……うん。
「そ、そういえばミカ。妹から聞いてるか?」
「……? なにを?」
「ほら、この前ユカに告白しようとした男子がいただろ? あいつ、何だかんだまだユカのこと諦めてないみたいなんだ」
金髪のやつ、結局ユカのLIMEのIDを欲しがってたからな。
あの諦めの悪さは中々の物だ。
「そ、そうなの……? じゃあ……またユカちゃんに話しかける……?」
「たぶんな。それに、もしかしたらミカにもちょっかいかけてくるかも」
「ひぃぃ……男の人……苦手」
あの、ミカさん。俺も男なんですが……。
もしかして俺、異性としてカウントされてない?
いや、別に手を出す気なんてサラサラないけど、こうも自然と男扱いされないのは流石に……。
「ユカも今のところは綺麗に躱してるけど、そのうち躱しきれなくなるかもしれない。金髪もある意味根性あるからな。だから二人に何かあれば、すぐ言って欲しい」
「た、助けてくれるの……?」
「金髪だって悪いやつじゃないと思う。でも二人が迷惑に感じたら、その時は俺も協力するから」
「…………」
「ほ、ほら。俺、二人の友達……なわけじゃん。一応さ」
ユカに頼まれた以上、友達として放っておくわけにはいかんからな。
あくまで友達として助けるだけだ。他意はない。
「じゃあ……もしものことがあれば……お願い……するね」
「うん。そうならないように祈りたいけどな」
目下の問題は金髪だなぁ。あれで友達多いし、女子にモテてるわけだから、いいやつではあるんだろう。
でも朝倉姉妹が迷惑だと感じるのなら、それは駄目なことだ。
あいつがさっさと彼女でも作れば安心なんだけど。
しばらく体育館の隅でサボっていると、いつの間にかパス練は終わっていた。
他の生徒たちは試合をやっている。バスケ部でもないのに、みんな様になってるなぁ。
「バスケなんて最後にやったのいつだったっけ……」
小学校の頃は休み時間にみんなでバスケをしていた気がする。
“みんな”って言葉に俺自身が入っているのなんて、もう随分と前のことだ。
あの頃はまだ、クラスの連中に混じって遊ぶのも珍しくなかったなぁ。
今と同じで、仲の良い友達は少なかったけど。それでも学校にいる間はボッチではなかった記憶がある。
まあ、陰キャ寄りのキョロ充が成長するにつれて、完全な陰キャになっただけだ。
成長とは一体何なんだろう。進化論についてもの申したい気分だ。
「お、先生も戻ってきたな。流石にサボってるのがバレたら怒られそうだ」
「あう……試合に出るの……怖い」
「女子も結構本格的だな。俺より運動神経いいかも」
普通にスリーポイントを決めている女子もいるんだけど、あれが普通なのか?
いや違うよな。うちの高校ってもしかして、スポーツ優秀な生徒が多いのだろうか。
そうだとしたら、俺の立つ瀬がないのでとても悲しい。
「おいそこの二人、そんなところで何してるんだ?」
「やべっ」
「ひぃぃ……」
教師にバレてしまった。
まあ、試合に出てない生徒なんて他にもいるし、言い逃れは出来るだろう。
「すみません先生、今日はいつもと違うクラスとの授業なんで、僕ひとりだけ余っちゃいました」
「お、そうだったか」
「女子も同じみたいで、朝倉さんも練習相手がいないみたいです。朝倉さんと僕でパス練習しててもいいですか?」
「うーん、人数が余ってしまうのは仕方がないか。あと少しでチャイムも鳴るし、試合の邪魔にならないように練習してなさい」
「はい、分かりました」
よし。残り10分、適当にパス回しでもして時間を潰そう。
教師に見つかっても怒られないように、ボールを持っておいて正解だったぜ。
「というわけでミカ、残り時間あと少しだけど練習しようか」
「あぅ……でもミカ……下手だよ?」
「そんなの気にしないよ。というか俺だって下手だし。時間を潰せればそれでいいんだって」
「じゃ……じゃあ、ちょっとだけ……やってみよう……かな」
「うん。突き指に気をつけろよ」
「そ、そこまで……運動音痴じゃ……な、ないよ」
「ハハハ、冗談冗談。ほらっ」
俺たちはコートの外でパスを投げ合った。
ミカが出すパスはコントロールも悪くて、キャッチし損ないそうになったけど、それが面白かった。
だって、ミカはパスを出す度に両手をビシっと伸ばすもんだから、笑ってしまうんだもの。
可愛い子がそういうのをやると、それもまた魅力になるんだな。
やっぱり美少女ってずるい、そう思う。
「どうだ、俺のパス強くないか?」
「大丈夫……でしゅ……あぅ、です」
「ミカも段々慣れてきたじゃん。別に下手ってほどじゃないよ」
「ん、へへ……ありがと……」
ドム、ドムという音が体育館に響く。
「あの……」
「うん? どうした」
「今日は……ありがと……ね」
お礼を言われることなんてしただろうか。
全く覚えがないな。俺はいつも通りに過ごしているだけだ。
もしこれで褒められるんなら、全国の陰キャ同士たちは国民栄誉賞でも貰ってるだろう。
「あなたのおかげで……今日の体育……寂しくない……」
「それなら俺の方こそ、ありがとうね。ミカがいなかったら、先生とペア組むところだった」
余ったので先生とパス練します、なんてことになってたらクラスの晒し者だ。
たぶん一週間くらいは引きずる案件になっていただろう。
いや、もしかすると体育の度にフラッシュバックして、高校にいる間は常に黒歴史状態になっていたかもしれん。
「にゅふふ……私たち……似たもの同士だね……お似合い」
「っ、そういうとこだぞミカ」
「…………?」
全く、少しは自分が美少女だってことを自覚して欲しい。
その何気ないひと言が、男を勘違いさせるって理解して欲しい。
そのまま俺たちはチャイムが鳴るまでパスを出し合い、体育の授業は終わった。
体育館から出る時、にこりと笑い、手を振るミカの姿がやけに眩しく見えた。
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