おまけ ゼロ・ジェネレーション 最終選考19名。(2)

「距離取ってるっていうか、なんか壁があるみたいで……」


壁っていうか、それ普通に個性だということに気付いたのはその後、隼人が「仲良くしてやろう」みたいなお節介心で絡みまくった際に、本気でボコボコにされてポイ捨てされた辺りだったが。


そもそもが。


ここに残った人間は誰しも心の中に壁を持っていた。

元々そういうタイプだったやつもいる。

だが、多くが天使の襲来を受けて、近しい人を失った人間だった。


司も両親を失ったと聞いた。

結局は。


ここに残っているのは、その時に無力感を覚え、だが次は自分で何とかしたいという意志を持った人間なのだ。


だから、それがない人達は早々に退場していった。

皮肉なことに、残ったのは何の経験も、肩書もないごく普通の人生を送ってきたはずの俺たちの世代だった。


……目の前で、割と本気の体術戦は続いている。


「……怪我するくらい本気じゃないと、お前レベルじゃ体もほぐれないんじゃないの?」

「買ってくれるな。俺はお前みたいに突進して進んで怪我をしたいタイプじゃないんだ。あと、頑丈じゃない」

「確かにお前、食らったときに弱いからな。食らわないようにするのが最善の策、か」


卒業手前にしてようやく気付いたのか。

もうここから勝負の機会とかないからなー


それと司の言う「頑丈じゃない」はたぶん、「面の皮がお前ほど厚くない」的な意味なんだと思うが。気のせいか?


「前の組手は隼人さんが勝ったって……」

「さぁ、いつの話だか。最近は体術より武器演習がメインだったし、そこは気にしてないと思うけど……」

「賭ける? 俺、司さんに定食Aセット」

「じゃ、オレ御岳さんが抑えられて終了に定食Bセット」

「賭けになってねーよ。時間切れに平日ランチ!」


もはや隼人が勝つ選択肢が残ってないんだが。

実戦形式ならともかく、隼人は練習になると無意識に手を抜く癖を、同期はみんな見抜いている。


「さすが若者は素早いな」

「何感心してるんですか、南さん……なんだかんだで一番体術強いの、南さんでしょう」


俺たちを若者呼ばわりするあたり……

そんなにものすごく年上というわけではないと思うのだが、南さんは唯一の「経験者」。

自衛隊からの残留組で、もともと体力がある上に、素手のパワーがものすごい。


武器よりも殴った方が壁破壊できるんじゃないかってくらいのイメージだ。


「ははは、年の功ってやつだな。もっとも技術面でもあの二人はまだ伸びる」


教官みたいになっている。


「ザ・サード……最強の座は……オレだぁ!」

「そんなものいらないからな。熨斗どころかラッピングを丁寧にしてくれてやる」

「え、マジ? 司、お前ラッピングとかできんの?」

「100均で袋タイプの買って詰めるから。コスパは十分だろう」

「オレは100均対応かよっ!」


どういう応酬だよ。

とりあえず、司がいらないものをくれてやるのに、隼人に対してはラッピングも税込110円程度の価値であることはわかった。


二人はそれぞれ瞬間的に退く。


カウンターが入る。


誰もがそれを予測できるくらい、それぞれの動きの特徴を互いに掴んでいた。

これは互いにフォローするために覚えたものであって、けんかをするためではない。


そう、間違っても……


「白上、御岳ぇぇぇぇ!!! 最強の座は、この宮……」


グシャ。……ボキッ


「「…………………………………………」」


乱入などしてはいけない。

背中を護るためであって、邪魔をしてはいけない。


というか、よりにもよって、司と隼人の間に入るとか、自分のためにやってはいけない。



「今……なんか、ボキッて……」

「宮古……お前ってやつは……」


ちーん。


和やかに周りで盛り上がっていた全員が、お通夜みたいな顔になった。




その意味たるや。


「宮古進。骨折により全治1か月。特殊部隊は本試験をもってそのまま稼働となるため、残念ながら彼は別の部署としての配属になります」


その扱いの未来が垣間見えたのか、それともそもそも他の面子なら絶対にしないであろうことをしたためか。



各々の心中は、にわかには推し量れなかった。

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