EP5.おまけ ゼロ・ジェネレーション 最終選考19名。(1)
そう、最終選考は19名だった。
のちにゼロ世代。と呼ばれる彼らの100%が選考を通過する……見込みだった。
「局長の言い方だと試験なんて、形だけだろ」
「まぁ、チームワーク、単独撃破、技術面のほかに座学とかもあるけど……講習受けながらずっと評定されてたからな」
ここまで来たら、といわんばかりに全員割と緊張感がない。
それもそのはず、実技型で体に叩き込まれてきたので今更試験くらいで失敗とか、そんな甘っちょろい集中力の人間はここには残りすらしなかったのだ。
なんだかんだ言って、普段は年齢相応だが、みんな切り替えるときは切り替えた。
「最後に軽く、復習と……体は毎日ほぐしておかないと」
というわけで、休憩期間もあったのだが、すでにトレーニングの域を脱している全員が「維持」のために運動をしている。
心がけもしっかり身に着いた。
「司ー 組手の相手して」
「……お前はマインドフルネスでもして来たほうがいいんじゃないのか」
「俺の精神はいつでも不動。そんなの必要ない」
「マインドコントロールの方がいいな。橘、そういう機関なかったか?」
「いや、ないんじゃないか?」
さりげなく司が怖いことを言っている。
もっとも、そんなことを言うのは隼人相手くらいだ。
言ってもいい相手とそうでない相手くらいはきちんと分別している。
……司にそれ言わせる人間は、そういないぞ隼人。
「自分の心は自分でコントロールするものだろ」
「それ自体が思い込みで誰かに刷り込まれているのだとしたら?」
「……」
難しいことを言われると、フリーズする。
さすがに付き合いが無駄な方向で長くなってきただけあって、弱点もわかってきている。
もっとも、隼人相手では一時的な足止め程度のあしらいであるが。
「お前はそういうところが嫌らしいんだよ!」
びゅっ!
隼人が実力行使で拳をくりだす。当然よける司。
「八つ当たりはやめてくれ。俺はふつうに体をほぐしたい。他に当たってくれ」
「文字通りだな。八つ当たりだけあって」
「うっせ。組手で最後に勝ったの俺なの忘れてんのか!」
「……」
司の弱点……というわけではないんだが、挑発には乗らないが、戒めをくれてやる気にはなったようだ。
度重なる暴挙に、司の表情が変わる。
……表情はフラットな方なんだが、なんとなく、血管マークが浮いているように見えるのは気のせいではないだろう。
世の中には仏の顔も三度まで、という言葉もある。
ひゅっ バシっ!
司の一撃が繰り出されたことで、隼人はそれを受け止めて、にやりと笑みを浮かべた。
いや、挑発に乗ってるわけじゃないから。
巌流島じゃないから。
これくらいで司のメンタルバランスは崩れないからな?
むしろ鉄拳制裁をくらうフラグが見えている俺、ほか周りの数名。
「また始まりましたか」
「まぁ……いつものことといえばいつものことだから……」
今や本気でやりあっても、間違っても重症にならない術をお互いに知っている。
だから本気でやりあう事態になったりすることもしばしばあるのだが。
「というか、隼人さんはなんでいつも司さんに絡むんですかね?」
「素直に相手をしてもらいたいだけだろ」
「寂しんぼですか」
実はそれは俺も聞いたことがあった。
単に司が全力で殴りかかっても問題ない相手だからというのもあるようだが、理由のもう一つはちょっと意外だったのを覚えている。
「あいつ、なんだかんだ言って、人に深入りしないだろ?」
距離を無造作に詰める隼人の言葉とは思えない言葉だった。
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