ボロ市と正義の悪魔(4)
「そうだ。どうだろう、侯爵方。私の力が役に立つなら彼らに協力するというのは……!」
「あの悪魔さんは、正義感が確かに強いね」
「あぁ、人間でもあんまりいないタイプだよな」
さっきから同意しかない。
みんな思っていることは大体同じなんだろう。
しかし、アモンと呼ばれた悪魔は少し渋い顔をしている。
「我々は観光に来ているわけだし、私の能力は戦闘に特化されているから逆に市を壊しかねないし、遠慮したい」
あ、悪魔なんだ。
なぜか安心した。
「あなた方は人間の姿を取っているが、それはわざと?」
「オリアス卿に他者を変身させる能力があるので、私は完全に変えてもらってますな。卿は獅子の頭を持ち、アンドロジナスは元々人の姿に近い」
「アモン卿は、基本、蛇の尾をもつ狼の姿ですのでさすがに四つ足歩行では周りが驚くだろうと」
……お気遣いの悪魔がいる。
「魔獣系の悪魔だって! しかも戦闘能力高いって! ……お友達になりたい」
「お前はただの動物好きだ。そういう基準で好きになるのは失礼だろう!」
「じゃあ秋葉は自分好みの女の人と、全然好みじゃない人、二択だったらどっち選んだら失礼じゃないわけ」
「うっ、そ、それは……」
人の好みは、人それぞれだ。
ちょっと反省した。
その間にも向こうの会話はすすんでいる。
「なるほど……アンドロジナス伯爵は協力に積極的ですか」
「せっかく人界に来たのだから、そこでも能力を発揮して協力するのもいい思い出にはなりそうではないですか」
「有難い申し出です。しかしオリアス侯爵は?」
ちょっと控えめにしていた侯爵は、聞かれて口を開いた。
「私の能力は、星詠みと人の好意に関わるので、けんかの仲裁くらいならできますが……お力になれるかは微妙なところ」
それでさっきから温和というか、なんというか、全然けんかっ早い感じがしないんだな。
ちょっと感心してしまう。
「ちなみにアモン卿も不和と和解の力がありますが、炎の侯爵の異名を持つので小競り合い程度では参入させない方がいいかと」
……これ以上、この話聞いていていいんだろうか。
もう延々こんな感じがしてきた。
「先生に訊いてみた。アモン卿は、
【蛇の尾を持つ狼。口から炎を吐く。
高い戦闘能力を持つとされ、『炎の侯爵』の異名をとる】
だって」
忍が、自分の趣味に近いところだけ調べている。
確かに、かっこいいし、悪魔っぽいな。その感じは。
……本人たち見てるとそんな感じしないけど。
「観光にいらしているのだから、無理に協力してくれというわけではないんですよ。どうぞ、それぞれの楽しみ方で、引き続き楽しんできてください」
にこにこと笑いながら御岳が初めて、それっぽく腰を折った。
「では、私は無理ではないので協力しましょう」
「アンドロジナス」
「楽しい思い出作りだ。卿らがゆっくりしている間に、私も私の楽しみ方をしようと思う」
しかし、オレは見た。
頭を下げたままの御岳という人の口端がニッと引きあがるのを。
「……帰るか」
「なんだか、おもしろいヒトたちだったね」
小事な上に人間側が起こした犯罪なので、わざわざダンタリオンまで話は行かないだろう。
結局、見学して終わった。
* * *
後日。
オレはあの時に見た、特殊部隊の人と悪魔たちのことを司さんに聞いてみた。
あの場に派遣されていたのは、最近人手が増えて三部隊に分かれた特殊部隊の内の第二部隊だったらしい。
司さんは、第一部隊の所属だ。
しかし、応えるより先に、なぜか沈痛な面持ちをされた。
「えっと……何か問題がある人なんですか?」
「問題と言えば問題なんだが……話は聞いてはいたんだ」
「どんな話ですか?」
「御岳隼人(みたけはやと)が、魔界の伯爵を利用して仕事をさぼっていたと」
……あの展開だと、多分、アンドロジナスという悪魔の戦果は相当上がっただろう。
武装警察からすると、楽してノルマを達成できたと思われる。
あくまで協力。
強要はしていない。
それはオレも見ていたので、残念ながら(?)証人になれてしまう。
「でも、利用してっていうのは……そういう噂になってるんですか?」
「いや、俺の解釈」
珍しく他人事に関してキッパリと司さんは推測を述べた。
「御岳は訓練生からの同期だからな。性格はよく知っている。物見高いくせに手を抜きたがる。悪魔は悪魔で、その三人は特に親和的な能力を持っていたらしく」
「……あとの二人は、人間関係整えるみたいな感じでしたけど」
「第二部隊の奴らに聞いたら、喜んで帰っていったようだから、WIN-WINではあるんだろうが……」
人間の方が、アクマみたいだ。
オレはそれらの話を聞いて、まざまざ思う。
そして、忍が調べたらしい三人の情報はこうだった。
アンドロジナスは、正義を司る悪魔
オリアスは生贄も交渉も要さない、欲のない悪魔
アモンは、詩才があって不和と和解を司る
……本当に、彼らは悪魔なのか。
神魔に関わっていると、時々、こういうことが起こる。
世界の真理がわからなくなる瞬間だった。
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