それぞれのオフー司の場合

司さんの仕事は、勤務時間が変則的だ。

ただでさえ夜勤体制なのに、事件が起これば当然、駆り出されることもあり。


一言で表現するなら「武装警察24時」。

こんなところだろうか。


本当に、大変だと思う。


「オレなんて大した体力もないから、徹夜しただけで次の日死にそうですよ」

「……夜勤と言っても、特に何も起こらない時は交替で休んだりするから、多少不規則になれているやつなら、問題ないみたいだぞ」

「え、そうなんですか?」


同じ護所局でも、庁舎は全く違う場所にあるし、施設見学など互いにするわけでもない。


正直、仕組みはまったくわからなかった。


「……でも、不規則は不規則ですよね。司さんは夜更かしとか平気な人だったんですか」

「いや」


うん、何かわかる。

仕事が仕事なら、ちゃんと規則正しい生活を送っている姿の方が、ものすごく目に浮かぶ。


「慣れるまでに時間はかかったし、慣れても不規則には変わりなく」

「ですよね、休みの日とか何かできてます?」


多分、夜勤明けは休むんだろうけどプライベートと言えばそういえば、ほとんど聞いたことがなかった。


「普通に休みの時は、普通に過ごしてる」


すみません、その普通が分かりません。


「……街に出たり、家でまったりとか?」

「ちょっとした用事は大体、帰るついでに済むからわざわざでかけることは少ないかもな」


あ、同じだ。

意外と言えば意外な共通点だ。


「そうですね~ 服買う時とかは休みの日に時間欲しいけど、食糧はコンビニでもスーパーでも調達できるし」

「仕事で外回りが多いから、どうしても自宅でゆっくりしたいと思うのかもな」

「あ、そうかも」


考えてみたらオレも外交だから、内勤より外回りの方が多い。

そうか、それで休みの日は家でくつろぎたい派なのか(?)。


「そういえば、森さんの休みは土日ですか」

「基本的には。だから、家でゆっくり過ごしていることの方が多いな」


……そこはなぜ「だから」になるのか。

なんとなく落ち着く、の意味だろうが……

聞いていいだろうか。


「……だからって、……食事は森さんが用意してくれるからゆっくりできる、とか?」


無難なところから入れた。


「通常勤務や、休日はそんな感じだな。夜勤で帰宅して空腹だったら適当に自炊する」

「……自炊!?」

「…………なんでそんなに驚くんだ?」

「いや、すみません。オレの知ってる世界から、割と遠いところにあったんで」


うん、夜勤なんてした後は、オレだったらたぶんコンビニ弁当あたためますか?な会話でその日は終了している。


「料理が得意なんですか?」

「必要上、作れる程度」


オレは便利という意味のコンビニに、歩けば当たるこの都会で、スキルを上げるほど自炊に必要性を感じたことはない。


あ、でも二人暮らしだからそこはそれぞれできることはしてるんだろう。

なんとなく、二人とも自立してるっぽいし。


「秋葉は自炊は……その反応だとしないんだな」

「……カレーくらいは作れますよ」


何も作れないといっているのと同意である。


「それが作れれば十分だろう」

「アウトドアは炊飯器がないから無理ですよ」


遠い目で自虐になっていきそうだ。

しかし、そんなオレを司さんは救い上げてくれる。

その気はないんだろうけど。


「そうじゃなくて……カレーが出来ればシチューと肉じゃがあたりには転用できるだろ」

「……確かに!」


材料のベースがほぼ同じ、であることに今更気づく。

というか、いつから料理談議になった。

何か得意料理とか聞いてみたい気もするけど、極めているわけじゃなさそうだしこだわりなさそうなので、話を元に戻してみる。


「司さんは外回りも体力使いそうだし、休みの日はゆっくりする方が、確かに合ってそうですよね」

「まぁ……『ゆっくり』の基準が人とは違うかもしれないとは思う」

「え」


どういうことかと視線で問う。

すぐに答えは返って来た。


「森がいるといったろう? 週一で休みが同じだったとして、毎週違う遊びにつきあう感じになっている」

「なんですか遊びって……!!!」


全然想像がつかない。

毎週、遊びに行く。はまぁ一木とかならわかるが、家で「人と遊ぶ」ってどういうこと!?


兄妹で据え置きゲームをしている図は端からない。


「昔から据え置きのゲームは、2Pキャラで」


ちょっと待って。

想像の斜めどころか、世界の端を超えてきた。


「まぁそれは小学生から高校くらいまでの話」


なぜかほっとした。


「据え置きとか……やってたんですね」

「森が割と好きだったからな。本と一緒で雑食的に」

「ゲームで雑食って……」

「だが、飽きてくるととんでもない遊び方になってきたりする。特にアクション系」


……アクション。スーパーマ〇オとかだろうか。

遊び方を変えるなんて想像もつかずに、そのまま聞くとこんな答えが返って来た。


「そう、最初はふつうに協力なんだが、飽きてくると新ルールを作って、殺し合いに発展したりする」

「司さんが殺し合いとか……!!!」

「森にかかると単純な小学生レベルのゲームも、相手をいかに出し抜くかの気が抜けないゲームと化すぞ」


それ、「ゲーム」って言っていいんですか。


……想像できるような、できないような。

ともかく、本来の敵は、敵ではなくトラップや相手を妨害するための存在になり替わるのだろう。

殺し合いというよりたぶん「先に死んだ方が負け」ルールと思われる。


……先に死んだ方が負け=先に相手を殺した方が勝ち、ということか。


元・敵という名の障害物を躱しながら、プレイヤー同士で出し抜きあうというところには確かに一種のゲーム性を感じないでもない。


「……それにしてもWi-Fiとかじゃなくて、据え置きだったんですね」

「違う端末で黙々とそれぞれプレイして、違うものを見ていても面白くないという理屈らしい。それに最近はやっていないと……」


そうだった。学生までって言ってた。

しかし、和やかアクションが殺し合いってどーいう遊び方なんだ。


「じゃあ最近の遊びっていうのは?」

「だからほぼ週替わりなんだ。カードやボードゲームが多いけどな。トランプはクラシカルだが幅が広いし」

「オレ、ババ抜きと七並べくらいしか知りませんけど」

「……トランプゲームの本があるから、貸してやろうか。俺のじゃないが」


はい、森さんのですね。


「一人は無理ですよ」

「一人で遊べるゲームも多数載ってた」

「さみしいのが無理です」


一人でそれをちまちまやっている、オレが寂しい人に思えて辞退した。


「まさか、将棋とか囲碁とか、チェスとかも?」

「さすがにやらない。だが森は小学生の時に父親の麻雀や将棋ソフトでも遊んでいた」


ホントに雑食だな!!

多分、小学生くらいだと理屈もルールもわからずやってたんだろうけれど……


まずそれに手を出そうとするのがすごいわ。



「せいぜいオセロだとかジェンガだとか……地味にまったりしながらできるものだな」


いや、ゲームだけどどっちも知能系です。


「インドアだとそうなるんですかね。室内でアクティブな遊びはさすがに無理ですもんね」

「小さい頃は、据え置きで体を使う系のゲームもさんざんやっていた」


雑食すぎるだろ!!!


「司さんは、主にお付き合いという感じで?」

「そう。しかし、手ごわいので気は抜けない」


さっきまったり、って言ってましたよね。

兄妹関係がわからなくなってくる瞬間だ。


「あー……双子だから、やっぱり上下っていうより横繋がりみたいな感じなんですか」

「かもしれない。友達とも違うんだが……」


つきつめたことはないらしい。

……普通はつきつめないよな、家族だし。


「遊びの幅が豊富なんですね」

「ずっとそうしてるわけでもなく、それぞれ好きにしてる時間の方が長いけどな」


話の感じから、ちょこっと共通の時間を過ごしてフリータイムという感じのようだ。


なんか、家族としては理想的だな。


家族と遊ぶ時間を設ける人はどれくらいるんだろうかとふと考えて、オレは思った。


「あとは雑誌を眺めたり、映画を見たり……まぁ、普通だろ?」

「すごく普通で、むしろ羨ましいです」



普通の意味。



それは何でもない日を穏やかに過ごすことなのかもしれない。


家族とのゲーム内容は、ともかくとして。

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