一木主催の懇親会(2)

「あ、オレも司さんの話も聞きたかったんですけど、予定確認したら、今日夜勤だって」

「私も誘った。シフト調整難しそうだった」


すでにご存じらしい。

余計な心配だったか……

嵐はまだ来ていないのに、ほっと、息をつく。


「私的にはこの三対三の構図が謎の合コンぽくて何か嫌だ」


鋭いな、忍……


たぶん、その意図はあるんだろう。

神魔のことも興味があるから話を聞きたいのは本当なのだろうけれど、


一木は、司さんの妹思いを知らない。


でも止めなかったってことは、特に問題ないのか?



いや、一木が歌舞伎町でいきなり何をしでかしたのか、知らないだけで……




そうだ、オレが黙ってたんだった。


素直に警戒対象であることを伝えておくべきだった。

血を吐きそうだ。


「まぁ、魔界の公爵様を相手に合コンだなんて……」


と、シスターバードック。


「どの口がおっしゃりやがりますのかしら」

「あいててててて!!!」


微笑ながら思いっきり口元をつねられているのは一木だ。問題ない。


「オレじゃないですよ!」

「あら」


シスターは手元を確認していなかったかのように、あっさり手を離した。


「失礼。こちらだったかしら」

「痛ってぇ!! その公爵様になにしやがるんだ アマぁ!」

「確かにわたくし、尼ですけど」

「違う」


この人はある意味、人類最強の女性説が誕生しそうな存在だ。


「どうしてこのメンバーなのか、疑問が残るところですわ……はっ!」


ふと何か思いついた様子。


「忍さん、合コンのようでいやらしいというのなら、比率を変えましょう」


いやらしいっていうと、逆にいやらしい感じがするの、オレだけか?

しかし、あまり口をはさむと矛先がこっちに向きそうなので黙っておくことにする。


「どうやって?」

「懇親であるのであれば、フェリシオン様をお呼びになってはいかがでしょう……!」


狙ってるよ、この人。

あの神父様、相変わらず狙われてるよ。

いや、狙っているというより本人曰く既に「愛」の状態らしいのだが。


「オレはいいですよ。何か神魔の裏話とか聞けそうだし」

「ではすぐに連絡を取ってみますわ!」


そして、シスターはものすごい速さで電話をかけ始めた。


「お前の目的がオレにはさっぱりわからないんだけど、一木、何がしたいの?」


つい聞いてしまう。


「何って懇親会ですよー ほら、休戦中の二人もあんなに仲良く話してるじゃないですか」


振り返る。


「おほほほほ! お待ちになって! 今から男女の比率を変えますので……!」

「ふざけんな! 何が休戦だ! 結局敵のアマゾネスじゃねーか!」


何が起こった。

一瞬で何かが起こったのは間違いないのだろうが、全く展開についていけない。


「フェリシオンさん、来られないって」

「それでなんであそこで戦争が勃発してんの?」

「だから、男女比率変えるんでしょ?」


……つまり、増やすのが無理だから、減らすってことか。

多分に、八つ当たりなのだろうが怖い。


「乾杯もしない内にはしゃいじゃってー」


一木、お前が言うな。

お前が元凶だ。


なんてやっていると、適当に頼んだ料理が来る頃に一人メンバーが増えた。


「あれ、夜勤は?」

「シフト調整出来た。ちょうど変わってほしがってるやつがいて」


司さんだった。


「こんばんはー!」


無邪気に挨拶をする一木だが、このあとの動きによってお前、即警戒対象ボックスに分類されるからな。


「あとこれ、忘れてるぞ」


ちょっと待って。

司さん。


そういって出したのは不知火だった。


忘れてるとかそういう存在じゃない。

もうすでに警戒ボックスに分類されてた!


出したと言っても、形上リードでつないでいたのを森さんに渡しただけだ。

ちょうど襖の陰になってて姿が見えなかったのは、意図的なのか。

確かに、左手にリードのグリップ持ってたけども……!


ボディガードを違和感なく迎えるオレ以外の総員。


「不知火だー! 触っていい?」


忍が飼い主でなく、本犬ほんにんに聞いている。


「まぁ、この子がシンさんのボディガードですのね。頼もしい」


すごくほほえましい感じで頬に手を当てているシスター。


その前に違和感……!

座敷に巨大犬の違和感……!!


「オレも触っていいですか!?」

「ぅるるるるる」


思いっきり警戒されている。やめておけ。


「不知火はあんまり知らない人に触られるの好きじゃないんだ」

「そうなんだ……じゃあこれから知っていけばい……」


がぶ。


甘咬みなのだろうが、差し出した手が不知火の口中に消えた。


「不知火……」


さすがに誰か止めてくれるか?

しばし沈黙が落ちる。

沈黙を破ってくれたのは司さんだ。


「汚いからやめろ。口にするものは選べ」


司さん……!


オレ、泣いていいかな。


「そうだね、料理来たし食べる前に異物口に入れちゃ駄目だよ」


とこれは忍。悪意はない。

開き直って聞いてみる。


「……司さん、かみつく以外に犬ってどうやって攻撃するんです?」

「不知火は前足で薙ぐだけでも結構威力があるぞ」


そうですね、ものすごくパワーありそうですもんね。

デーモン相手に吹っ飛ばしてた記憶がよみがえった。


その横で忍が不知火に肉をやっている。

加工されてないやつだ。


「それ結構するんですよ! オレ主催だから会計も兼ねてるのに……!」

「あら、魔界の貴族様がいるのですから、ごちそうになっては?」

「わんこはともかく、アマゾネスに文明食をおごる気はない」


ゴゴゴゴゴ。


こっちはこっちで何か炎上し始めている雰囲気。

これ、懇親とか成り立つの?


「私の分から不知火にあげるよ。……からあげとかって衣取った方かいい?」

「普通の犬と違うからそのままやって大丈夫だ」

「司ー醤油とって」


入口に近い半分は懇親が成り立っている空気だ。

なんだろう、ちょうど真ん中にいるオレは今、世界の終わりの狭間にいる気分になる。


いや、この位置ならそっちに入れば問題ない。

ていうか、なんでシスターとダンタリオン正面に座らせたんだよ。

一番奥の上座とか、らしくもなく考えたわけじゃないだろうな。



……幹事の一木も真ん中だから、考えていないだろう。何も。

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