片害共生(2)ー過去読み
「エシェル、悪い。結局巻き込んじゃって」
「いや、どちらかといえば巻き込んだのは僕だろう」
着いてきてくれたわけだが、前評判ではよく当たる、程度だったのでこれほど具体的に読まれるのは想定外だったのだろう。
しかも、本人の了承なく勝手に「読まれた」。
この力は、ダンタリオンの読心に近いが、人の運命を動かせるくらい強力だと制約が働いているはずだ。
制約を受ける神魔は、正規の入国者。
つまり、それなりの高位。
こんな小物事件に関わるメリットはない。
というか、そもそも入国した時点でこういう力も使えないし、結界の網をくぐってくることもできないわけで。
……スタート地点に戻ってしまった。
これはオレにはお手上げな感じだ。
「とにかく、ここから出るのが先決だな。秋葉、伝手はないのか?」
「……その伝手に連絡する伝手がないんだ」
連絡手段は、荷物と一緒に占い屋の中だ。
いきなり捕まりそうになって逃げてきたので、何も持っていない。
「連絡、か。……番号は覚えてないのか」
「今みんなデータだからな……とりあえずサーバには入ってるけどサーバにつなぐにも」
「便利なようで、不便な時代だな」
そういえば、忍はサーバに同期もさせつつ、アドレス帳を別に作っていた。
アナログなやつだ。
いちいちスマホを開くのが面倒な時に、紙ベースの方が早い。
それからデータにアクセスできない時や有事の際は有効だと。
……今がそれだよ。
しかし、それで思い出した。
「カードはあるんだった」
「……カードでどうするんだ」
もっともな意見だが、この場合、必要なのはカードケースだ。
オレは、胸のポケットから薄いケースを取り出すと、そこに入りっぱなしだった名刺サイズの紙を取り出した。
「忍がちょこちょこ番号を変えるんだよ。変にマメで」
紙をエシェルに渡す。
そこには、忍の携帯番号と、メールアドレス、それから変更の日付があった。
名刺と言えば、名刺だが「住所変わりました」的な引っ越しハガキと同じ用途だ。
「……デザインが凝っている」
「うん、意外と凝り性で。でもエシェル、見るとこそこじゃないよな?」
変なところで関心をしているので、そういうとエシェルは会議室にある電話の受話器を取る。
「……それって使えんの?」
「大抵、内線専用だが、ゼロ発信で繋がることが……繋がるぞ」
ゼロ発信。
会議室を運用する側にないオレは初めて知った。
ゼロなど特定の番号を押すことで、外線に切り替わるらしい。
「……………………」
コールが長い。
「しまった、あいつ知らない番号の電話、スルーするんだ」
というか、普通に電話嫌いなので留守でも折り返しは期待できない。
「それをつなげる方法は?」
「いや、だからここの番号じゃ出ない……あ、ワンギリしてから即かけなおしてもらえるかな」
声を潜めながら、電話のある場所まで移動していたが、ここはみつかるとまずい。
ドアが両方塞がれるのが早い位置だ。
連絡がつくなら早くしないと。
エシェルはなるほど、と呟いてから言ったとおりにした。
『はい』
忍が出た。
しかし、名乗りはしない。
基本的に、知らない相手に自分から名乗るのはけっこう危険行為だ。
「僕だ、エシェルだ」
『……エシェル? なんで私の番号知ってるの? ……この番号、大使館じゃないよね』
番号でも判断している。
ワンギリをしたのは、自宅の電話も出ないらしく、家族には用がある時はワンギリしてから即かけなおすようにと言ってあるという話を聞いたことがあるからだ。
それで、誰からか概ね想像がつくという仕組み。
電話に出るのに、秘密の合図を出させる当たりがもう、なんというかなんと言ったら。
「あぁ。今、例の占い屋に来ている。秋葉も一緒だ」
『秋葉も?』
そこまで言って、エシェルは受話器をこちらに渡してきた。
「……変わった方が良さそうだな。僕には外の事情が分からない」
司さんや事件の扱いについてだろう。
事情説明はエシェルの方が得意そうだと思ったが、それを聞いて素直に受け取った。
「忍、すぐに司さんに連絡を取ってくれ。現在地言うからな」
『待って、メモる』
準備はすぐで、数秒と待たなかった。
現在地……住所はわからないが窓から見えるランドマークと、その2階に占い屋が開かれていたことを告げる。
そして、過去を見られて追われて自分たちは4階にいることも。
『上に逃げたんだ。出られそう?』
「やばい状況だから連絡してんだよ。荷物も全部置いてきた。お前にもらった名刺でかけてる」
『そっか。司くんにはすぐ連絡取る。……私行ってみるわ』
「行……!?」
プッ
ツーツー
通話が切れた。
「……司さんのとこだよな」
なんとなく嫌な予感しかしなかったが、情報ターミナルからは遠いし、多分、司さんの方が早く来るだろう。
「……とりあえず、司さんにはすぐに連絡取ってくれるみたいだから、もう少し凌げば何とか」
「シッ……!」
口を正面から片手でふさがれると同時。
足音がバタバタと近づいてきていた。
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