2.ツアープレ当日。大人組。
「秋葉君?」
「いやいやいや、駄目です。個人的には忙しい特殊部隊より、一般警察推奨したいですけど、人選間違えると、大変なことに……!」
「そうだね、じゃあ特殊部隊の人は数人にして、残りは一般の方から。なるべく落ち着きがあって子どもを制御できそうな人を見繕ってもらうよ」
言わんとしていることが、すべて伝わった。
良かった。
一木とかに来られた日には、オレ自体が仕事どころではなくなってしまう。
あいつ、ある意味小学生レベルだから。
「今回は僕も同行するしプレ、ということで気軽に参加してもらえばいいよ。他に同行者の希望とかあるかな」
「希望……」
にこやかに言われて、思わず考え込む。
今回は誰も巻き込まなくても大丈夫そうだ。
司さん……は、忙しそうなのではずすとして
忍……あいつ、子供苦手なんだよな。
説明とか得意そうだけど、目立つのが嫌いだから大勢の前に立つのは嫌がる。
定番のメンバーは今回はお休みという感じか。
しかし、せっかくと言えばせっかくの機会だ。
違う意味で、忍は来たがるだろうし司さんも神魔方面の護衛的な意味なら、特に当日はすることもなさそうだし……
悩む。
「当日の同行者は僕の方で適当に選んでいいかな」
「えっ、えぇ。いいですよ。……できるだけ、職務に忠実な人にしてください」
空気を読んでくれた清明さんに、重ねて言う。
そうでなかった場合の惨状が、目に見えそうだからだ。
「プレの方は、枠があるから戸越さんとか誘っていいよ」
「……なんでそこであいつが出てくるんですか」
「社会見学が好きそうだから」
オレの心理ではなく、本人の趣向を的確に把握していた。
「そうですね、むしろ誘わないと本番で着いてきそうですし……せっかくだから司さんにも声かけて、日が合ったら一緒に行きたいと思います」
「それがいいね」
にこにこと清明さん。
……すると連動して、森さんも脳内に出てくるわけだが、彼女は護所局の人間ではないから枠外だろう。
残念ながら、動画でも撮っていってあげることにする(主に司さんのために)。
「じゃあ詳しい日程は後日。他に連れていきたい人がいたら、誘ってもいいからね」
そして、清明さんとは一時間経たない内に別れた。
なんだかんだいって、忙しい人なんだろう。
* * *
「神魔と人間、共存社会科見学ツアー」プレ当日。
……設定されたタイトルにはいろいろ詰め込まれすぎている。
共存具合も見せたいんだろうし、現在の社会構造がどうなっているのか見せたいところもあるんだろう。
ともあれ、ハイヤーが迎えに来るところはさすが官公庁というべきか。
ナビのためにか、清明さんは助手席に乗っている。
あとは二つ返事で本日のスケジュールを捻じ曲げて参加優先した忍と、引率当日メンバー……の責任者と一般の警察から何人か。
それから……
「なんで森さんが……?」
「忍ちゃんに誘ってもらっちゃって」
不知火も一緒だ。
天井の高いワンボックスカーの後部座席をその巨体で仕方なく占拠している。
「清明さんがいいっていうから」
「地下賭場の件で、その子にはお世話になったでしょう? 今日は人数も少ないし構わないですよ」
と、これは助手席から清明さん。
地下賭場の一件は、清明さんも承知しているらしい。
「その子」というのは森さんというより、不知火のことを指している感じもする。
「代わりと言ってはなんだけど、司くんは来ないんだ」
「特殊部隊からは当日も俺……橘(たちばな) 京悟(きょうご)がつくので、よろしく」
そう挨拶してくれたのは、前方の座席に乗っている、メガネをかけた、ごく短い髪をブリーチしている男性だった。
当然、その白い制服は特殊部隊のものだ。
「はじめまして、だよな?」
「あ、はじめまして。近江秋葉です」
「司から聞いてるよ。『始まりの接触者』近江秋葉」
「えぇ!? 司さんがそんなこと言ったんですか?」
「いや、司は言わない」
席につくよう勧められて、ほどよく空間のある橘さんの通路となりの席に座る。
他にも聞くべきことがあったのだが、どうにも慣れないその言葉で呼ばれるとどうしても反応してしまう。
大体『はじめまして』で、オレの名前を知っている人はそう言う。
車窓の景色が流れ出した。
「言ってみたかっただけだよ。司からはこういうことでからかうなとは言われてるんだけどな」
さすが良識代表。わかっている。
足を組んだまま、くっくっと少し楽しそうに橘さんは笑っている。
「あの、司さんとは知り合い……というか同期か何かですか」
そもそも絶対数が少ない一部署なのだから、知り合いでない方が少ないだろうが、聞いてみた。
「そうだな、同期メンバーだよ。訓練生時代から腐れ縁というか、聞いてるかもしれないけど、初期メンバーは相当苦楽を共にした関係だからなぁ……それなりに縁があるんだ」
言ってから訂正した。
「いや、楽なんてあったか?」と。
ちなみに訓練時代のことは、みんな触れたがらないので、聞いたことはない。
「秋葉、最近、特殊部隊は人が増えて三部隊に分かれたの知ってる?」
「あぁ、そんなこと司さんが言ってたな。新採がどれくらい入るのかで決まるって話だったけど」
忍が後ろの席から背もたれを迂回するように、参加してきた。
「司くんは第一部隊、橘さんは第三部隊だって」
「別れちゃったんですか」
「初代はせいぜい20名弱だから、単純に3で割って、分配されたんだよ」
そうか、偏りすぎても困るもんな。
組んでいた腕と足を解いて橘さんは背もたれに背を預け、一息ついた。
「少し仕事や人間関係が変わったから、どうにもやり辛くて」
「人間の悩みの9割以上は、人間関係だって言いますしね」
あまり悩むほどの関係を持っていないオレは、幸せなのかもしれない。
神経質そうな人を見るとそう思う。
橘さんは、見た感じ、まぁそこそこという感じだ。
オレに気さくに話しかけてくるあたり、気は効かせている感じだけど、無理にそうしているわけでもなさそうというか。
「そんなわけで、今日も当日も司じゃなくて俺なんだけど、よろしく」
どういうわけだろうか。
大事なところがはしょられている気がするが、支障なさそうなので流すことにする。
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