神のしもべはかく語り(5)
その手前に、明るい金髪の男性がいる。
口笛を吹いて、財布をふたつ交互に空に投げて、ふつーに遊びに来ました、みたいな様子だ。
「ルースさん!」
ずばーん!
いきなり地面をけってシスターは飛んだ。
そのまま蹴りを入れようとしたようだが、ルースと呼ばれた男性……写真と同じ顔だ、はひょいと避ける。
「なんだよ。もうみつかった?」
「みつかったじゃございませんことよ! お遊びもここまでです!」
今の、バトルシーンでよくトドメ指すときに使われるセリフだよな。
人間相手なので、司さんは静観。
というか内輪もめなので、オレたちも静観。
「全くあなたという人は! フェリシオン様に迷惑をかけるなど、不届き千万!」
「はっ! こんなところで大立ち回りなんて、シスターが聞いてあきれるぜ! フェリに見せてやりたいな」
「うるさーい! ですわ!」
ものすごい勢いで、肉弾戦が繰り広げられている。
「……退魔師?」
「全員が術を使えるとは限らないんじゃないか?」
司さんのさりげない指摘。
確かに何事も適性というものがあり、ゲームだって現実だって、チームを組む際は、前衛、後衛に大体分けられる。
…………しかし、ルースさんは術のすごい使い手という触れ込みがあるわけで。
「シスターバードックが、前衛か~」
シスターではなく、
いや、一応聖職者だし武器は使ってないから、モンクになるのか?
割と、どうでもいい。
「大体、仕事もしないでふらふらふらふら、問題なんか起こしてみなさい! わたくしが抹殺して差し上げますわよ!」
「仕事って今一体何があるんだよ。というかまさに今、抹殺しに来たんだろ!」
なんでこの人たち、路地裏でバトルやってるの。
ストリートファイターなの?
早く、一般の警官に通報した方がいいんじゃなかろうか。
と、いっている間にシスターは本気になった模様。
いつのまにかメリケンサックを拳に装備していらっしゃった。
「さぁ、ルースさん。選びなさい! 今からわたくしと教会へ戻っておしおきされるか、おしおきされてから教会へ戻るか……!」
結果、どちらも同じ二択が提示された。
「はっ! どっちもごめんだね! 大体問題なんて起こしてない上に、この完璧な一般人としての立ち居振る舞い。問題なんか、起きようがねぇだろうが!」
「ではお伺いします。さきほどから手に持っている、ふたつのお財布は、どなたの?」
「…………………………托鉢」
まさかのかつあげ?
さっきの神魔から?
それふつうに犯罪だろう。
「天誅!!」
「させるかよ!」
シスターバードックの攻撃。
地面がえぐれた!
ルース・クリーバーズは防御壁を発動させた。
「……この人たち、退魔じゃなくて対人部隊じゃないんですか」
「ファンタジー世界の住人だと思う」
「…………」
さすがに公共物に破損が出たので、司さんがどうしようかと思い始めたようだ。
しかし、あそこに加わりたくない。
神魔のけんかを止める方がまだマシ。
みたいな葛藤が伝わってくる。
「とりあえず、大通りに危害が出ないように、向こうに回っておくか」
勝負が決まるまで、放っておくことにしたらしい。
「くらえ! オレの華麗なる魔術を!」
ルース・クリーバーズの攻撃。
魔術「アイスランサーズ」が発動した。
「今、魔術って言いませんでした」
「言った」
「法術じゃなくて?」
「魔術って言った」
それで忍は何か合点がいったらしい。
例えばさっきの神魔……悪魔ではなかったのに、魔力係数が高かった理由。
すでに魔術で倒されていたから、だろう。
残滓というのを拾っていたのだろうと司さんは割と冷静に説明してくれる。
今現在、一切、手を出す気はないようだ。
「ルースさん! わたくしたちに魔術はご法度ですわよ!」
「ルールなんてものはものともしない人間が勝つんだよ!」
神父じゃないよな、この人。
どうみてもアウトロー VS 武闘派シスターになってんぞ。
とてもわかりやすい人間関係だ。
しかし、勝負が決するの時はやって来た。
魔術をすさまじい身体能力で避けたシスターバードックの後ろは大通り。
司さんが動かなければならない事態が発生してしまった。
「いくら路地でも、こんなところでケンカしちゃだめですよ」
「!」
しかし、司さんがそこに踏み込むより先に、それは霧散した。
街にも戦いにもそぐわない裾の広い白い装束に、肩まで伸びた少し色素の薄い髪。こんな事態でも乱れない口調。
その後ろに立っていたのは、清明さんだった。
「清明さん!?」
「秋葉君、おつかれさまです。お仕事は完遂ですね」
その姿を見て、さすがにシスターは動きを止めたが
「ああん? 何だ? 日本の術者?」
「そうです。ルース・クリーバーズさん、あなたのことを『保護』しに来ました」
「保護とか要らないし。見ての通り、こんなご時世でも神魔相手に遜色ないオレの実力……!」
神魔相手にというか今のは明らかに、目の前のシスターのことを指して言った気がする。
気のせいだろうか。
「何を言ってますの。人様の国であなたという醜態をさらすわたくしたちの気持ちにもなってくださいませ!」
品の良い言葉、異国の地への気遣いの込められた中に、さりげない毒発言。
「まさか、フェリの奴がオレを売ったのか!?」
「売ってません。初めから売り物になりませんもの」
うん、危険物だからな。
酷いこと言ってるけど、いきなりあれを見たらシスターに全面同意する。
「ルースさん、あなたのことは調べがついています」
「!」
「私たちと一緒に来てくれませんか?」
そういうことかよ、とつぶやいたその人は薄い笑いを浮かべて、清明さんにケンカを売りそうな勢いだ。
さすがにまずいと感じたのか司さんがさりげに間に入った。
もちろん、刀は抜いたまま。
今のタイミングだと護衛なのは丸わかりなのでルース・クリーバーズもさすがにころころと変えていた表情を消した。
「……この国の手先になれってか」
「すでに『教会』の手先じゃないですか」
にこりと微笑みながら清明さん。
この人も底知れぬものがあるので、これはレベルの低いケンカには発展しない。
ルース・クリーバーズは否定しなかった。
「確かにな、教会なんて術者の扱いブラック企業並みだし、給料安いし、教会にいても食費は自前だし、給料安いし……!」
大事なところなんだろう、二度言った。
自分の職場にすごい不満があるらしい。
「ですから、三食昼寝付き、給料は3倍をお約束しましょう」
「マジで!!?」
食いついた。
しかもものすごい勢いで。
めちゃくちゃ本気のオーラがキラキラと零れ落ちそうな笑顔になった。
「もちろん、自由時間は好きに過ごしてくれていいですよ。街に慣れるのも必要でしょうし、あなたならその点は大丈夫そうです」
「なんだー、オレの能力、正当に買ってくれる人がいるんじゃないか。お目が高いな、さすが日本の政府関係者だ」
きらーんと何かが飛んだ気がした。
「清明さん、とおっしゃいましたわね。それは本気ですの? どこに彼を連れて行くのかは計りかねます。けれど、それは……」
シスターバードックは、悪意のない人には丁寧だ。
「核爆弾をその場にセッティングするようなものですわよ」
渦中の人物がアレだから、内容的には大変なことになった。
「なんだよ、核爆弾って。さく裂はしても長期汚染はしないっつーの!」
「そうですわね、あなたの場合はその場を公共物ごと消し去って、何事もなかったかのように逃げるタイプですものね」
それだけのことをしておいて、なかったことにしようとするタイプ。
と訳せたのはオレだけだろうか。
「ともかく、ルースさんを引き渡すことは……」
「フェリシオン神父」
びしり。
今はハイヒールにパンツスタイルなシスターのポージングが決まった。
「も、あなたも保護対象なので お二人で 一緒に来ていただきたいかと。ルースさんについては少し能力が特殊なようなので、別に来ていただこうと思ったのですが……」
「ルースさんが、別……!?」
「なんだよ、そのものすごい期待を込めた驚き方」
……個人的には、三人一緒にしておく方が危険度がものすごい跳ね上がりそうなので、正しい判断だと思う。
シスターもダンタリオン相手にしたり、ルースという人がいなければ判断はすこぶる常識人に見えないこともなかったし。
そういえば、ダンタリオンは悪魔だしルースさんはこういう人だし、それ以外が普通の対応と言うことは、本当に、ふつうに、常識人ではないだろか。
……敵と認定した存在には、大変なふるまいをするようだけど。
「三人一緒でないと、寂しいですか?」
「「いいえ!!!」」
ものすごい勢いで、シンクロしている。
本当に、相性が悪いんだなというテンプレに見える。
ある意味、息はばっちり合っているのが、救いようがない気がするが。
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