第64話 森に潜むもの

 ティナの言う、気になる場所へ俺はその時一緒にいたルビーと3人で向かう。


「で、どんなところなんだ?何か気になるというのはどういうことだ?」


 別におかしなことを聞いたつもりはないが、ティナはなぜか困った様子で話す。


「分からないの」


「分からない?気になるのに?」


 どういうことだ?


「場所は森の奥の方よ。山脈と洞穴のちょうど中間くらいかしら?別になにか変わったものがあるわけでもないし、変な魔力があるわけでもないわ。他の場所と同じように森が広がってるだけなんだけど、なぜか分からないけど、何かが気になるのよ」


「(つまりはタダの勘ってことやろか?)」


「そうね。ただの勘ね。アタシじゃ分からないだけかもしれないから、一応カイン兄にも見てもらおうかなって」


 ふむ。なんだろうな。まぁ、現地に行ってみないことにはどうしよもないな。


「(しっかし、この森はえろー魔力が豊富やな~森の奥へ行くほど魔力に溢れとる)」


「そうね。野良魔獣も奥の方はミノタウロスとかバジリスクとかCランクのものもけっこーいるみたい」


「その気になるところに高ランクで協力的な野良魔獣でもいればいいんだけどな」


 一応の可能性に備えて、ダンジョンコアは持ち出してきている。


 ◇◇◇◇◇◇


「このあたりよ」


 そうしてやってきたのは……ただの森だ。


「マジでなんでもない森だな」


「もーちょっと先に行ったところが特に怪しいのよ」


 そう言って、俺達は先へと進もうとしたのだが……


「ん?ルビーはどこいった?」


「あれ?さっきまでいたんだけど……あ、あそこよ」


 ティナが指を指したのは、随分離れたところだ。しかも、洞穴の方へ戻るわけでもなく、ふらふらと進んでいる。


「おい、ルビーどこへ行くつもりだ!」


「(え……あれ?旦那、なんでそんなとこいるんや?離れたらダメやろ)」


「……いや、離れたのはお前だろうに。いいから、こっちへ来い」


「(了解や~)」


 ルビーがふわふわと飛んでやってくる。

 が……


「(……なぁ旦那、やっぱあっちへ行かへん?)」


「は?何を言ってる。どうした?」


「アタシが怪しいと思ってるのはそっちじゃないわよ」


「(……なんでやろ?なんや分からんけど、そっちには行きたないねん。いや、旦那達と一緒なんがイヤなわけちゃうで。なんでやろな~)」


 そういいながら、しぶしぶといった感じで、ついてくるルビー。

 そのまま俺達は先へと進んでいく。

 だが……


「(う~やっぱ無理や!ワイ、先帰るわ!!)」


 それだけ言い残して、ルビーは飛んで帰っていってしまった。


「なんなのよ……」


「これは……もしかして魔族を遠ざけるような何かがあるのか?」


「別にアタシはなんともないよ?」


 そうなのだ。それが気になった。

 何か強い魔獣がいて、強い魔力が発せられているとかなら、ルビーより俺やティナの方がよほど早く気づくだろう。だが、実際は逆だ。ルビーが一番強く何かの影響を受けてる。

 これはむしろ弱い者ほど影響を受けてるんじゃないだろうか?

 魔族を遠ざけるような魔道具とかがあったとしたら、高ランクの者には影響が薄いというのは分かる気がする。


 俺は全く何も感じない。ティナは影響を受けないまでも何かを感じ取ったのだろう。

 逆にルビーがいなかったとしたら、何も分からなかったかもしれないな。


「ティナ、お手柄かもしれない。このあたりには何かあるぞ」


「???」


 あまりよく分かっていないティナと共に先へと進む。


 よく気をつけてみると、このあたりには魔獣が全くいない。

 このあたり一帯だけぽっかりと穴があいたように魔力の反応がないのだ。

 つまりは、このおかしな空間の中心になんかあるってことだ。


 そして、その中心部にたどり着く。そこにあったのは……


「小屋?」


「なんで?前に来たときにはこんなものなかったわ。別にくまなく探したわけじゃないけど、こんなものがあったら気づくはずよ」


「それは、普段は私の魔道具で隠蔽しているからだよ」


 小屋から人が出てくる。

 いや、人間じゃない。

 金の長く美しい髪からのぞき見える尖った耳。それに人間ではありえない膨大な魔力。

 これは……


「まさか、エルフか?」


「え?エルフってAランクの魔族じゃない!?」


「私はアルノルト。お察しの通り、この森に住むエルフだ」


 まさかAランクの魔族がいるとは。

 確かにダンジョンを創る前のこの森は相当魔力の濃い状態だった。Aランクの魔族が生まれてもおかしくはない。だが、Aランクの魔族が生きていくには相当量の魔力が必要となる。ダンジョンに属していない状態で生きていくのはかなり大変だったはずだ。


「私は一人で静かに暮らしたい。本当なら、ご遠慮してもらいたかったんだがね。そっちの彼を欺くのは難しそうだったから、仕方なく……ね」


 チラリとこちらに目線を向けて、アルノルトが話す。


「俺はここのダンジョン、深緑のダンジョンのマスターのカインだ」


「アタシはティナよ」


 俺達も簡単に自己紹介をする。


「やはりダンジョンができていたのか」


 アルノルトは少し安心したように、頬を緩める。

 表情が豊かとはいい難いが、さすがはエルフ。男性だというのにとても美しい。外見だけでなく、なんというか所作が高貴だ。


「できれば、少し話をさせて欲しいんだが」


「だろうね。……いいよ。キミはそこまで愚かな者でもなさそうだ。お茶くらいはご馳走しよう」


 そう言って、アルノルトは俺達を小屋に招き入れてくれる。


 まさかのAランクの魔族獲得のビッグチャンス。

 いまやコアの魔力も潤沢だ。Aランクの魔族もどんとこい!

 さぁ、交渉のはじまりだ!

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