第60話 【アメリア】魔獣に殺される
アタシはノナハ村で生まれた。
ノナハ村は50人もいないような小さな村だったけど、危険な生き物はいないし、気候も温暖で、狭いながらに豊かな土地があったから、農業を中心にみんなゆったりとした生活をしていた。
アタシ達はパパとママ、妹のイルミアの4人で幸せに暮らしていた。
「パパ~薪拾ってきたよ~」
「おっ、こんなにたくさん良く持てたな。偉いぞ、アメリア」
「あたしも~」
「イルミアも頑張ったわね、ありがとう」
「じゃぁ、次はパパと一緒に井戸へ水を汲みに行こう。手伝ってくれる人!」
「「は~~い」」
今から考えれば、お金持ちではなかったし、モノに溢れた生活でもなかったけど、足りないモノは何もなく、素朴ながらに満ち足りた生活をおくっていた。
アノ日までは。
アノ日の事はあんまり覚えてない。
でも、夕日が綺麗だったのをよく覚えている。
一面、真っ赤に染まっていた……。
ゴンゴンゴン
「おっ誰かな?」
「たぶんお隣さんね。奥さんが今日はシチューにするから、うちにもいかがって、言ってくれてたの」
「わーい!今日、シチューもあるの!!」
「しちゅー!」
「よかったな、ふたりとも」
そう笑顔で言って、パパがドアに向かう。
……お隣さんなら、あんな乱暴なノック、しないんじゃない?ノックと一緒に「シチュー持ってきたよ」って声ぐらいかけてくれるんじゃない?
なんであのとき不思議に思わなかったのかな……。
「どうも、お世話様で……ッアァァ!!」
パパが声をあげて、ナニカが飛び散った。
パパの向こうにナニカがいた。
「逃げろ!ハンナ、子ども達を連れていけ!」
ママはアタシとイルミアを抱きかかえて、裏口のある奥の部屋に走り込んだ。
そして、ママは、裏口前にあるゴミ箱にアタシ達を入れた。
「アメリア、イルミア、動かないで、じっとここで静かにしていて。お願い!」
向こうの方で大きな音がしていて、聞き取りづらかったけど、必死な様子のママは確かにそう言ってた。そして、ゆっくりとママはフタを閉めた。
最後に見たママの顔はなんだかとても名残惜しそうで、ひどく不安そうにしていた気がする。
「おねぇちゃん、くさい~」
「しぃっ!」
アタシはママが言ったとおりにしようと片手でイルミアの口を塞いだ。
もう片方の手は自分の口を塞いだ。
手で抑えてないと、何かがでてきてしまいそうだったから……。
外では何か物音がする。
……叫び声も聞こえたかもしれない。
……
どれくらいじっとしていただろう?
アタシ達はちゃんとママの言ったとおりにできた。
ゴミ箱の中でじっと静かにしていた。
でも、口を手で抑えてるから、鼻でしか息ができない。
ゴミ箱の中は錆びたクワのような臭いがした。
「まだ小さな子どもがいるぞ!」
急に明るくなったと思ったら、兵隊さんが私達が入っていたゴミ箱のフタを開けていた。
「もう大丈夫だよ。ここは我々が制圧した。魔獣はもう1匹もいないよ」
魔獣?
アタシはそのとき、魔獣なんてものを見たことがなくて、兵隊さんが何を言っているのか分からなかった。
優しそうな兵隊さん達は笑顔でアタシをゴミ箱から出して、寝てしまっていたイルミアを抱きかかえた。そのまま、兵隊さん達が集まっているキャンプ場のようなところへ連れて行かれて、スープを飲ませてくれた。
周りで色々とアタシ達の事を話してたみたいだけど、よく分からなかった。でも、みんなアタシ達に「もう大丈夫だよ」って声をかけてくれた。怖そうな見た目の人も、アタシ達を見て、悲しそうな顔をしていた。
ふと、上を見上げると紅かった。
真っ赤な夕日が一面に広がっていた。
あと……臭かった。
すっかりゴミの臭いがしみついてしまったみたい。
それから、アタシとイルミアは近くの街の孤児院に入れられた。
今から考えると孤児院の中では相当いい所だったんだと思う。結構魔道具も使われていて、ノナハ村の生活より進んでたかもしれない。
大きくなってから、孤児院を運営していた神父さんにアタシ達の事を聞いた。
ノナハ村の近くにダンジョンができていたらしい。
これはまずいと軍隊が派遣されてたけど、ギリギリ間に合わず、ノナハ村はダンジョンの魔獣に襲われてしまったらしい。助かったのはアタシとイルミアの二人だけ。
それを聞いてから、アタシは魔獣が大嫌いになった。それで、神父さんに誘われて、シスターをやることになった。イルミアも魔獣嫌いになった。でもアタシとはちょっと違う。
魔獣がいなくなって欲しい。そう願うのはアタシもイルミアも一緒だけど、アタシは魔獣が怖い。ノナハ村を襲い、パパとママを殺した魔獣なんて見たくないし、近づきたくない。魔獣の心臓だという魔石も触りたくない。
イルミアは魔獣を憎むようになった。冒険者になって魔獣を殺してやるって。孤児院にたまに来る冒険者に戦い方を教えてもらって、イルミアはどんどん強くなった。今ではもうAランク冒険者。「双剣の殺戮者」なんて呼ばれてるらしい。
アタシもイルミアみたいに立ち向かえたら、よかったのに、そう思っていた。
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