第48話 出現
「(主よ。町に防壁ができたぞ)」
「もう直したのか?こないだの襲撃で焼いたと思ったけど、結構残ってたのか?」
「(いや、柵の事を言ってるのではない。防壁だ。高さ5メルトはある壁が町を囲っとったぞ)」
「はぁぁぁぁ!?」
襲撃した日から、まだ2日しか経ってないんだぞ。
ミズクは違う町でも見てきたんじゃないか?
「なになに、どうしたの?」
俺の声を聞きつけて、ティナもやってきた。
「(それにな、堀もできとった。こっちはできるところをこの目で見たぞ。みるみるうちに防壁の外側の土が凹んでいってな。水もない、ただの穴だが、深さ3メルトも幅は5メルト以上あったはずじゃ)」
「……」
「それって、もしかして……」
「あぁ、間違いなく魔道具だろうな」
いやしかし、異常だろ!
一瞬にして防壁と堀が出来上がるだと!
なんだ、その反則技は!!!
「それ、多分、人間もアタシ達に同じこと思ってるわよ。魔法ずるいって」
声に出てたか。
だが、これで町への襲撃は一旦ストップせざるを得ないな。
さすがに人間に気づかれずにゴブリンが防壁を登れるとは思えない。
気づかれたら、いくらゴブリン達が訓練して強くなっているとはいえ、一方的にやられて終わりだろう。
「だが、そんな魔道具があったんなら、襲撃したときに気づいたんじゃないか?おい、ティナ?」
「そうね。そんな強力な魔道具、魔石も相当いいもの使うでしょうし……。襲撃したときにはそんな反応なかったわよ」
「(馬のいない馬車のようなのが出ていっておったから、そいつが運んできたんじゃないかのう?)」
なんというタイミングだ。
いや、違うか。
襲撃前に届いてしまっていたら、それすらもできなかったわけだからな。
ここはギリギリセーフだったと考えよう。
「仕方ない。ティナ、ゴブタロウに襲撃は当面休止だって伝えといてくれ」
「は~い」
そう言って、ティナは去っていく。
「(それで、主よ。ワシはこれからどうする?町の警戒を続けるか?)」
「……いや、町の様子は気になるが、当面襲撃しないなら、一旦不要だ。それより、お願いしたいことがある」
先日、ダットン達と話をして、いかに自分が人間のことを知らないか、思い知らされた。
これから人間を相手にしていくのだ。相手のことはもう少し知っておいた方がいい。
「この森の外側の様子が知りたい。人間の町はどの辺りにあって、その町はどれくらいの大きさで、どんな様子なのか、そういったことを調べてくれ」
「(……あまり遠くには行けぬぞ。森の外には魔獣もほとんどおらんから、魔力の補充ができん)」
「それは分かってる。とりあえずは日帰りで行ける範囲でかまわない。それに、ほら」
俺はミズクに魔力を分け与えてやる。
「(おぉぉ!力が溢れてくる。うむ、これならば遠出もできよう!)」
そう言うとミズクは羽を大きく広げ、勢いよく飛び立つ。
「頼んだぞーーー」
◇◇◇◇◇◇
それから、10日ほど経ち、ミズクの情報収集により、おおよそこの周辺の地理が分かってきた。
この森はどうやら、人間の活動中心地からはかなり離れたところにあるようだ。
森のそばに出来た町より南の方には小さな町があるようだ。これがおそらく、ダットン達がいたセレンの町というところだろう。
森の周辺の人間の町はほぼこの2つだけのようだ。ミズクには無理を行って、広い範囲を見てもらったが、ずっと東の方に行ったところには、大きな街があったとのこと。だが、ミズクが片道1日がかりで行って遠目に見えるくらいの場所なので、相当遠い。ミズクが帰ってきたときには、もう息も絶え絶えという感じだった。この街はやはり、近くの町と同じように防壁があったそうだ。
後でダットンらに聞いたところ、これが領都のようだ。
つまりは近くの町の防壁は領都並ということだ。どれだけ、人間が力を入れているかが伺えるというものだ。
森の北側には山脈が続いている。この山脈については、ミズクいわく、
「(あの山には近づけん。体が拒否するのじゃ)」
と。
本能的に近づくことを避けているくらいだ。ランクの高い魔獣がいるのかもしれない。
さて、これでこの周辺の地理はおおまかには理解できた。
森の近くの町には物資を補給している奴が出入りしているということだが、町の規模から言って、セレンの町から来たということはないだろう。
セレンの町でなければ、残るは領都のみ。
「相当な距離があるにも関わらず、領都が直接支援しているのか……」
防壁といい、物資の補充といい、人間達はこの町に相当入れ込んでるようだ。
「(それとな、町の方もだいぶ開発が進んでおったぞ)」
なんと、この10日間で、川から水をひいてきたらしい。
これにより、堀には水が満たされ、防衛能力が強化されるし、生活面でも一段と向上することになるだろう。魔道具に頼らず水が使えるのだから。
人間もだいぶ増えてきたらしい。しかも、見た所、冒険者然とした雰囲気のものばかりだと。
想像以上に人間側の対応が早い……。
こっちもなんとかしたいところだが、残念ながら、魔力にあまり余裕がない。
「(こないだ魔道具を大量に手に入れて、魔力に変えたんじゃなかったのかのぅ?)」
「それはそうなんだがな。良さそうな魔道具はダットン達が使ってるし、その魔道具を使うために他の魔道具に使われてた魔石もとっておいてあるからな。魔力に還元できたのは1,000程度にしかならなかったんだ」
今、ダンジョンコアの魔力はダンジョンの維持に毎日100ちょっと、配下魔族への魔力補給に毎日1,100くらい必要になってる。地脈から引き出せる魔力は毎日2,000なので、差し引きで800弱は自由に使えることになる。
「(ん?800もあるんであれば、魔族を増やすこともできるのではないか?ワシと同ランクでも10程度で済むのじゃろう?)」
「それはそうなんだがな。ダンジョンコアの強化にも使うからな。もうちょいでランクが上がるんじゃないかと思うんだよな……」
5,000くらいは残しているが、これまでも余った魔力は強化につぎ込んできた。EランクからDランクに上がるのは5日くらいだったのだ。それからもう70日以上が経っている。もうそろそろCランクに上がってもいいんじゃないか?
Cランクに上がれば、地脈から引き出せる魔力もまた増えるはずだ。ランクがもう少しであがるのであれば、今は強化に努めて、ランクが上がったあとで魔族の創造などに使った方がいい。だが、当面ランクが上がらないのであれば、魔族を増やしておきたい。いい加減、ゴブリンとスライムが主力のダンジョンというのは卒業したいのだ。それに、創ったばかりの魔族はレベルが1だ。創るのであれば、早めに創るに越したことはない。
「(う~む。確かにそれは悩ましいのぅ)」
その後もそのまま、答は出ず、ランクが上がることへ誘惑に負けながら日々を過ごしていた。
そして、その惰性の状況が変わる。
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