第19話 強化に向けて

「ひとまず俺のスキルは置いておこう。いますぐどうこうというものでもないからな」


 ダンジョンの戦力強化のためには、魔族の拡充、それにダンジョン自体の守りが必要だ。


「まず、ティナ、お前には戦力になりそうなやつを探してきてもらいたい」


「は~い。ゴブタロウ達と同じように、野良魔獣を仲間にするのね」


「そうだ。最低でもCランク、できればBランクの野良魔獣を探してきてもらいたい。なんとか交渉できそうならしてくれ。難しそうなら《交信》を使って話をするから、俺が直接話をしにいく」


「交渉……Cランクくらいの野良魔獣じゃ話の通じるのはいないんじゃないかな~」


 まぁそうだろうな。共通語が分かるような知能を持つのはBランクでも上位の魔族だろう。


「あとさ、交渉って言うけど、こっちが提示できるものってなんかあるの?『仲間になってくれ』ってだけだと難しくない?ダンジョンの配下にしちゃうつもり?」


 ダンジョンの配下になれば、ダンジョンコアから魔力の補給を受けられるから十分な対価になるだろう。


「そうだな。基本、ダンジョンの配下にするつもりでいる」


「えっ、ゴブリン配下にするのもケチってたカイン兄がどうしたの?」


 ケチとはなんだ。ケチとは。


「配下にせずに仲間になってもらえるなら、それに越したことはない。だが、戦力になるような上位ランクの魔族はきちんと配下になってもらった方がいいだろう」


 上位ランクの魔族は魔力の消費も大きい。向こうにとってもダンジョンコアの魔力補給は大きなメリットだろう。


「ただし、下位ランクは違う。ティナには戦える上位ランクとともに、なにかしらダンジョンに役立ちそうな魔獣も併せて探してきて欲しい。そいつらとはゴブタロウ達と同じく、全員を配下にするのではなく、仲間に引き入れていきたい」


「ん~結局のところ、色んな野良魔獣を仲間にしてくってことよね。役に立たないのは除いて。ひとまず、これまで通り森を周って見て、見つけた魔獣を報告するわ」


「そうだな、そうしてくれ。ちなみにこれまで見た中で役に立ちそうなのはいるか?」


「どうだろ?オークとかちらほら見かけたけど、ちょっと中途半端よね?」


「ん~もちろん仲間でいてくれることは悪いことじゃないがな」


 オークはDランク。ダメではないが、ちょっと戦力としては不安か。戦力でなかったら、何か生産的なことができればいいが、あいつら、あんまり賢くもないしなぁ。

 そんな事を考えていると、ゴブタロウが何か言いたそうにしている。


「ん?どうかしたか、ゴブタロウ」


「(仲間見つける。ゴブリン役に立つ)」


「あ、確かにゴブリンも割と多いわよね、この森」


 なるほど。ゴブリン同士なら話も通じるから、交渉もスムーズだろう。


「でも、ゴブリンって弱いわよね。……ちょっとおバカだし」


 それを聞いたゴブタロウ達がムキーッと言った感じで、ティナに向かって騒いでいる。


 あ、ティナがバニーニを投げた。

 我先にと1本のバニーニを取り合うゴブタロウ達。

 争奪戦はゴブタロウが制したようだ。

 悲しげな2匹にティナが追加で2本のバニーニを投げてやる。

 ゴブリンみな大喜び。ティナにめっちゃ感謝してる。


 ……バニーニ、うまいもんなぁ。あ、おい、皮は投げ捨てるんじゃない。


「ね」


 まぁ単純なのはそのとおりだが……。

 でも、意外と器用だからな。戦力にはならなくても、役には立つ場面はあるだろう。


「いや、お前達に頼もう。たくさん仲間を連れてきてくれ」


「(任せて)」


 ゴブタロウがニヤッと笑い、自分の胸を叩いてみせる。

 おぉなんか頼もしく見えるぞ。

 口の周りにバニーニのカスがついてなければ、もっとカッコよかったぞ。


「よし。お前ら、ちょっとこっちに来い」


 そう言って俺は、ゴブリン3匹を呼び寄せる。


「お前らが頑張れば、俺はそれに報いてやる。仲間達にもそう伝えてくれ」


 俺がダンジョンコアに触れるとゴブリン達がほのかに輝く。


「ゴブー(おぉ気持ちいい。力出る)」


 一時的にゴブタロウ以外の2匹も配下にしてやり、魔力を補給してやった。


「気前いいわね~。でも、逆にゴブリン増え過ぎちゃったら、どうするの?魔力が足りなくなっちゃうんじゃない?」


「いや、ゴブリンの消費魔力はたったの3だ。配下にして補給魔力が増えたとしても大したことはない。あれくらいでやる気を出してくれるなら、安いもんだ」


 毎日、補給をしてやることもないしな。


 さて、次はダンジョンの拡張だ。

 俺はヘッジに向き直る。


「これから急ピッチでダンジョンを拡げていく必要がある。全力でやったとして、この部屋と同じくらいの広さを掘るとしたら、どのくらいの時間がかかる?」


 そう言って、俺はダンジョンコアのあるこの部屋を指す。


「(そうっすね~。オレっちもちょっとだけレベル上がったっすけど、10日くらいはかかるんじゃないっすかね~)」


 まぁそうだろうな。ヘッジを創りだしてから、まだ数日。能力がさほど上がったとも思えない。


「……ねぇやっぱりヘッジに掘ってもらうのは無理があるんじゃない?すぐに人間が大挙して押し寄せてくるとも思えないけど、そのスピードじゃ、ダメじゃない?」


「(すまねぇっす……)」


「いや、ヘッジが悪いんじゃないのよ!むしろ、ヘッジはすっごい頑張ってるから!」


 ティナが必死にフォローする。だが、それは事実だろう。ヘッジは悪くない。

 というか、ティナ、お前はゴブタロウ達とヘッジで扱いが違いすぎるぞ。


「あぁ俺もそう思う。ヘッジ1人では無理がある」


「でしょ」


「だから、ヘッジの仲間を創ろう」


 本当なら、野良魔獣で確保したいところだが、ダンジョンの拡張には時間がかかる。こちらはケチらず、創ってしまおう。


「ディグホッグを増やすの?」


「いや、魔力的にDランクはちと厳しい。穴掘り関連のスキルを持つEランクを複数創りたい」


 ダンジョンコアによる魔族創造なら、スキルはある程度コントロール可能だ。


「(となると、モールっすかね)」


「そうだな。それでいこう。とりあえず、10体もいればいいか」


「モールかぁ、一角ウサギの方がよかったなぁ」


 ティナ、今はかわいい魔族は求めていないのだよ。確かに一角ウサギも穴掘れそうではあるが。


 俺はダンジョンコアに触れ、スキルを使う。


「《魔族創造》モール」


 ダンジョンコアより、光が溢れ、10体のモールが現れる。

 スキルはみな、《穴を掘る》。バッチリだ。


「俺はカイン。よろしくな。これからはヘッジの言うことを聞いて、このダンジョンの拡張を手伝ってくれ」


「(よろしくっす!)」


「(((((よろしく……)))))」


 なんか暗いやつらだな……

 だがこれで、ダンジョンの拡張はスピードアップするはずだ。

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