第18話 役立つスキル

 ルークが去って翌日、俺達はダンジョンコアの前でこれからのことを考えていた。


「これからどうするの?本格的に人間と戦うことになるのよね?」


「そうだな。これまではダンジョンコアの強化を最優先にしていたが、これからはそんなわけにもいかないだろう。魔族を創り、ダンジョン自体も拡張する必要があるな」


「(穴掘りなら任せるっすよ~)」


「ゴブ?」


 あぁ、ヘッジ、お前には期待しているぞ。ゴブタロウは相変わらず、ぼけ~っとしているが、状況を理解しているのだろうか……。


「そういえばさ、カイン兄のスキルって何なの?」


「ん?どうした急に。というか、見せたことなかったか?」


「いや、ないよ。ダンジョンの戦力強化するなら、カイン兄のスキルが役立ったりしないのかな~って」


「残念ながら、ダンジョンの強化には役立たないなぁ」


 なにせ、使い所が難しいスキルだからな……


「俺のスキルは《永劫回帰》。触れたモノの魔力を自然に還すことができる」


 そういって俺はアププを手に取り、スキルを発動させる。


「《永劫回帰》」


 その途端、アププは枯れたように萎れはじめ、茶色いみすぼらしい塊になった。


「(なんか、おいしくなさそうになったっすね~」


「これ、魔力がなくなっちゃったってこと?」


「そうだ。植物なんかにこのスキルを使うと、こんな感じに生気を失ったようになるな」


「取り出した魔力はどこに行くの?カイン兄の魔力が回復するとか?」


「いや、俺の魔力が回復したりはしないな。さっき言っただろ?自然に還っていくみたいだな」


「……それ、何の役に立つの?」


「まぁ確かに取り出した魔力が使えたらいいとは思うが、そうでなくても役には立つぞ。なにせ、俺が手で触れてスキルを発動すれば、魔力を枯渇させられるんだからな。魔法なんかは効かなくなるし、魔族が相手なら効果てきめんだぞ」


「(え……アニキに触られると魔力なくなるんすか!?)」


 ヘッジが後退りしている。そして、ゴブタロウ達は走って逃げ出しやがった。

 あ、一匹転んだ。


「まぁ、待て。スキルを発動しなきゃ大丈夫だし、発動しても一瞬で魔力がなくなるわけじゃない。さっきのアププを見ただろ」


 そう言って、俺はゴブタロウ達を捕まえ、ポイッと元の場所に放り投げる。


「そのスキルって手で触れなきゃダメなの?」


「そうだな。というか、これまでほとんど使ってこなかったから、よく分からん」


 村に居たときは使いみちがなかった。たまに戦闘訓練のときに魔法の防御に使ったくらいだ。


「(じゃ、体に魔法受けたら、ダメってことっすね)」


「……残念ながらそうだな。手で防御すれば、魔法の効果をゼロにできるが、不意打ちなんかで食らったらダメだろうな」


「でもさ、さっき、スキルを発動してもすぐに魔力を取り出せるわけじゃないって言ってたよね?強力な魔法だと、魔力を取り出す前にダメージになっちゃうんじゃない?」


 ……確かにその可能性はあるな。なんせ、村で使ったときにはそんな大魔法を相手に使ったわけじゃないからな。


「しかも、魔族相手なら攻撃にも使えるって言ってたけど、手で長いこと触れなきゃ使えないんでしょ?そんな状況なら、そのスキルじゃなくても倒せるんじゃない?」


 ……うん、それは知ってた。


「(なんか、あんまり使えなそうっすね~)」


 うぐっ


「「「ゴブゴブ~(役立たず役立たず~)」」」


 おい、待て、お前らに言われたくないぞ!お前らのスキルなんて騒ぐだけじゃねーか!しかも3匹揃ってスキルが一緒とか、なんなんだ!


「でも、自然に魔力が還るってことなら、そのスキルを使えば、自然が豊かになったりするのかしら?」


「(ミミズ、うまくなるっすか!?)」


「(アププ、バニーニ、ココナ、いっぱい!?)」


 途端、目を輝かせる面々。


「どうだろうな?まぁ効果はあるかもしれないが、相当な魔力を還してやらないとダメだろうな。そんな魔力どっからとってくるんだって話だな」


 よそのダンジョンで魔石でも獲ってきてやれば別だろうがな。

 ん?魔石か……


「そういや、こんなもんもあったな」


 俺は一つの魔道具を取り出した。


「それって、昨日の冒険者パーティが持ってた魔道具?」


「そうだ。ティナの追跡に使った魔道具みたいだな。魔道具なら魔石も使ってるだろうし、それなりに魔力があるんじゃないか?」


 その魔道具を持ったまま、俺はスキルを使う。


「《永劫回帰》」


 魔道具はすぐに崩れ落ち、砂のようになってしまった。

 これで、魔道具の魔力は自然に還ったはずだが……ん?


 俺は魔力の流れがおかしいことに気付く。


「これ、ダンジョンコアに魔力が流れてない?」


 ティナも気づいたようだ。

 これまでスキルを使ったときには、特定の方向とかではなく、魔力は霧散するように流れていっていたはずだ。だが、今は明らかにダンジョンコアに吸い込まれるように魔力が流れた。

 もしかすると……

 俺はダンジョンコアを確認する。


【深緑のダンジョン】

 管理者:カイン

 ランク:D

 魔力:5,142/20,000

 スキル:ダンジョン創造Ⅱ、魔族創造Ⅱ、魔族強化、交信Ⅰ、魔力調整


 今朝見たときには魔力は5,042だったはずだ。100ほど増えている。


「もしかして、ダンジョンで俺のスキルを使うと魔力はダンジョンコアに貯められるのか?」


 ダンジョン内であればどこでもいいのか、それともコアの近くでないとダメなのかは確認が必要だが、おそらくダンジョンコアが浮いた魔力を引きつけるのだろう。


「それすごくない?この森全部枯れ木にしたら、魔力使い放題じゃない!?」


「ティナ、お前ひどいこと考えるな……」


 ほらみろ、ヘッジもゴブタロウ達もドン引きしてるぞ。


「いや、森は森で防衛に役立つからそんなことはしない。だが、これ、ダンジョンコアのスキルで創った罠とかをリサイクルできるんじゃないか?」


 もちろん、俺のスキルを使わなくても、創った罠を消すことはできる。だが、その場合、罠を創ったときに使った魔力は戻ってこない。俺のスキルを使えば、罠を消し去りつつ、魔力をコアに還元できるかもしれない。


 結論からすると、できた。

 罠を魔力50消費して創って、それを俺のスキルで消し去ったところ、コアの魔力は25回復した。創るのに要した魔力の全部を回収できるわけじゃないようだが、一部でも回収できるのはありがたい。


「それに、冒険者を撃退すればするほど、魔力を得られる可能性があるな」


 ルークの話からすると、ダンジョンに挑むような冒険者は魔道具を持っているのだろう。そいつらから魔道具を奪えれば、それを魔力に換えることができる。


「いいじゃない!よかったね、カイン兄、スキルの使いみちがあって!」


「(よかったっすね~)」


「(よかったよかった)」


 みんなが俺を励ましてくれる。


 ……俺、ここのダンジョンのマスターでSランクの魔族なんだけどなぁ。

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