第7話 オルトガン兄妹の報告お茶会
お茶会での社交が終わってから、3日後。
あの日諸事情により留守番をしていた兄姉との時間をやっと取る事が出来たセシリアは、彼らと共に今ティーテーブルを囲んでいる。
本当は兄とだけ、姉とだけというようにそれぞれとの時間を持てば、今よりももっと早く時間を取る事が出来たのだが。
(食事の場でその話題に軽く触れたら、二人が「どちらが先に聞くか」って言い争いを始めちゃったし)
そう、内心でため息をつく。
否、争いと言っても別に、何も激しい言い合いになったという訳では無いのだ。
「私の方が先に予定が付きますね、嬉しいわ」
マリーシアが優越感混じりにそう言ったのが始まりで。
「兄を差し置いて先に聞くなんて、ちょっとズルくはない?」
キリルがそれにこう応じたのが良くなかった。
「そんなことありません。寧ろ妹に先を譲るのが兄としての正しい選択では無いでしょうか」
「いやいや、兄だからこそ先に聞く義務という物が……」
という会話が行われたのだ。
お互いに、満面の笑みで。
それは可愛い闘争だった。
しかし2人がこんなやり取りをするというのも珍しい。
二人はセシリアにとって、もっと貴族然としていて、とても優しい兄姉なのだ。
少なくともセシリアの前では、今までこの様な姿を晒した事はなかったのに。
しかしまぁ、それも仕方がなかったのかもしれない。
何故なら。
(私たちは『オルトガン伯爵家』だから)
理由など、この一言に尽きる。
この原因は、おそらく『前回の社交界デビューでの一件』だ。
あの一件で、2人は『セシリアが起こす騒動は、兄妹の中で最も派手である』と認識しただろう。
そして同時に、その騒動への未来予測と対策を、セシリアと一緒に立てた。
『相手の動きを予想しその対策を企てる楽しさ』を彼らは知ってしまったのだ。
オルトガンの血は、元々好奇心に弱い。
そして楽しさを知った彼らが更なる楽しさを求めるのは必定であり、セシリアが持ってくる未知の展開はそれにピッタリだ。
(『おそらくお茶会で新たな展開があっただろう』と、二人して予想し、期待してる)
だからこそ起きたのが、あの珍しい攻防戦の正体なのだろう。
早い話が、二人して『味を占めてしまった』という訳なのだ。
しかし、それにしても。
(何だか複雑な気分……)
そんな風に心中で呟く。
二人の想像は、まんまと現実の物になってしまった。
それは、ある意味では『期待に応えられた』っていう意味で、それは嬉しくもあるけれど。
(その着地点は、私が最も避けたかったものだった)
だから、中々素直には喜べない。
結局、目の前で攻防戦を繰り広げる2人を眺めている内に、セシリアはもう面倒臭くなってしまった。
2人の争いを見守る事に対してもそうだが、そもそも2人にそれぞれ同じ説明をしなければならない事に対してもである。
(……一回で済ませたい)
そう思ったセシリアは、争う二人を口実に、3人ともの予定が合う時まで例の話をする事を保留にしたのだった。
という訳で、今日がその時であり、今は丁度兄姉に当日の夜に父親に対して行った報告と『ほぼ』同じ内容を、二人に話してきたせた所である。
因みに『ほぼ』のというのは、今回は元々の報告内容に加えて、主観を多く混ぜたからだ。
父へのものは、あくまでも報告だった為、事実をなるべく客観視する事を心がけて話した。
しかし今回は、兄姉とのお茶会でする『ただのお土産話』である。
両親と兄姉が後で互いの持つ情報の違いに混乱しない様に配慮はする必要があるが、それ以上はセシリアの自由だ。
それに何よりも。
(お二人は話の中に『楽しさ』を求めている)
ならばきっと、主観で語ったほうが面白く話を聞けるだろう。
そんな風にも思ったのだ。
……否まぁ、ほんの少しくらいは「愚痴を聞いてほしい」という気持ちもセシリアの中にあったりしたのだが、それはご愛嬌というものである。
セシリアが話して聞かせている間、兄姉は終始大人しかった。
勿論、必要に応じて相槌は入れる。
しかしするのは精々それくらいなもので、セシリアの話の邪魔にならないようにきちんと配慮された場だった。
そしてセシリアが全てを話し終えた今、2人まず最初にしたのは。
「やっぱりすんなりは終わらなかったね」
「できれば全てをすぐ近くで見ていたかったところですね」
総評的な感想を述べる事、それが2人の第一声だった。
そしてそんな2人に、セシリアは思わず呆れた声を発する。
「……キリルお兄様、マリーお姉様。お2人共、楽しんでいるでしょう」
「当たり前だよ」
「面白くするセシリーが悪いのですよ」
応じた2人は、楽しそうにそう言いながらクスクスと笑う。
まぁ、間違いなくこうなるとは思っていた。
思っていたが。
(他人事だと思って)
単純に楽しめる二人の事をセシリアがちょっぴり羨ましく、そして恨めしく思ってしまうのは仕方がない事だろう。
そしてそんな感情も手伝って、セシリアは口を尖らせる。
「……そもそも私は『もう十分だ』と思っていたのです」
そんな愚痴は、モンテガーノ侯爵家への仕返しに関するものだ。
お茶会に参加する前から、セシリアは彼らとの件をこれで手打ちにしようと思っていたのだ。
それなのに。
「それを無に帰す様な真似をしたのはあちらですからね?」
言い訳じみた声でセシリアがそう言うと、その主張に「わかってるよ」とキリルが頷く。
「クラウン様がそんな感じだったのなら、僕も多分同じ選択をした。彼に他貴族達の前で『劇』をさせるのはやっぱりリスクが高すぎる」
彼が『劇』をしくじれば、和解自体もポーズだと思われるだろう。
そしてそうなった場合、勘ぐり噂をするのが大好きな社交会の住人達のことだ。
『オルトガン伯爵家はモンテガーノ公爵家に逆らえなかったのだ』と思われるに違いない。
そしてそんな事は、伯爵家の一員として絶対に看過できない。
それは兄妹の総意だった。
だからこそキリルも理解を示すし、マリーシアも冷ややかな微笑まじりに2人の会話を聞ているのである。
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