第184話 ウザ闇のパーティータイム④
同じテーブルで人目も気にせずイチャイチャしているガラバとシーマ。そしてイケメン吸血鬼たちに囲まれてドヤ顔しているシルビス。
そのテーブルから離れたレッドヘルム一族当主のカミラは、周りのテーブルを見て微笑んでいた。
吸血鬼族の若者たちと女の趣味について語り合い友情を育むジョージ・ベラトリクス。
次の入学試験に挑もうとやる気を出している【ただの稀人】【神竜代行】【田舎者】の三人。
吸血鬼たちの元に還って給仕係になり、破壊と殺戮のために創造された人生に終止符を打った【ゴーレム少女】。
吸血公女アミラとの結婚とその将来をなんとなく思い描くリュウガと、三姉妹の吸血美女たちと商売談義に花を咲かせるユーリアン・キトラ公爵。
それぞれのテーブルでそれぞれの人生の歯車がぴたりと噛み合って動き始めたように見える。それがカミラにとっては喜ばしいことなのだ。
『危険を犯してでも地上の魔法使い殿を招き入れてよかった』
仮面の魔法使いアラハ・ウィ。彼の助力なくしてこれほど盛大なパーティーは開けなかっただろう。
『かつて傲慢が過ぎて熾天使ウリエルに滅ぼされた我らは、その愚行を繰り返してはならない。今度こそは平和に平穏に。利己主義は捨てなければ』
と、何億回目かの誓いを胸にするカミラは、ちょっとおもしろいテーブルが目に入ったので観察することにした。
そのテーブルには四人の男がいた。
ビランとアルダム。そしてエルフの国の王太子ディーゴ・エルフ・バルニバービ・レミュエル。さらにレッドヘルム一族のルゴシ伯爵だ。
『ルゴシ伯爵はレッドヘルム一族の中でも保守的で差別主義者の嫌われ者だが、ゲストに対して無礼がなければいいが……』
少し様子を見ていると、酔っ払ったアルダムがルゴシ伯爵に絡み始めた。
「はー!? なんすか? 伯爵様は俺を下に見てるってことっすか?」
『あぁ……』
イキるアルダムを見てカミラは目頭を押さえた。おそらく絡まれるきっかけを作ったのはルゴシ伯爵なのだろう。
『!?』
カミラが悪寒を感じて振り返ると、遠くのテーブルでシャクティが鎌首をもち上げるように蛇の下半身を立てて伸び上がり、こちらを恐ろしい金色の瞳で見ている。
その神気はカミラの目には巨大な複数枚の翼のように見える。
『なななななんでここに熾天使ウリエルがいるんだ!? まずい! あのお方は我らレッドヘルムの行いを見ておられるのだな!?』
カミラはルゴシ伯爵を拘束することになってでも止めようと、彼らのテーブルに向かった。
「いいっすか、伯爵。ゴーレムは無骨が一番です。スコープが三つあって被弾したら乗り捨てるくらいの扱いで、硝煙にむせるようなのがいいんすよ! なんですか美少女ゴーレムって!」
思わずずっこけそうになるカミラを他所に白熱した男たちのゴーレム談義は止まらない。
「俺も見た目は美しいが叩けば折れそうなゴーレムは嫌だな。モ◯タ◯ヘッドよりモビルス◯ツ派だが、俺が好きなのは一年戦争時の……」
「だろ! ビランも無骨派だよな!」
「だが美少女ゴーレムは男のロマンだ」
「かーっ! この裏切り者! お前が欲しいのは一人でえちちする時に使うゴーレムワイフだろ! な、ディーゴはどう思う!?」
「え、僕はまぁ、あまり興味が……」
そこでルゴシ伯爵は給仕していた【ゴーレム少女】を呼びつけて目の前に押し出してきた。
「どうだね。君たちエルフが作り、我々レッドヘルム一族が改修したこの娘は。皮膚の材質など生き物とかわらんだろう?」
「どうだね、と申されましても……」
ディーゴはドン引きしている。
「高い演算能力はもとより、ハイエルフの剣聖並の戦闘力もあり、主人には従順だぞ」
「ほう?」
従順という言葉に引っかかったのではなく、純粋に戦術兵器としての性能の向上に興味を引かれたのだが、ビランは同士を見つけた眼差しでニヤニヤしている。
「夜のお供にも?」
ビランは別の機能面を知りたくて興味津々のようだが、アルダムは「無骨に錆びるリベット打ちっぱなしみたいなゴーレムのほうがかっこいい!」とまだ文句を言っている。
『……ほっといて平気だろう』
カミラは呆れて次の段取りの準備に向かった。
「いやはや、白熱しすぎましたな。ははは」
髪をオールバックにした中肉中背のルゴシ伯爵。
その見た目は(童顔の)アルダムより少し上といった感じだが、
「そうですね。人の趣味はそれぞれですから」
ビランは教員服のまま白熱しすぎたことを恥じているようだが、彼に対する他の男性陣の冷たい眼差しは「ゴーレムとえちちなことをしたい男」という認識がついてしまったからだろう。
この先ビランは「ちなみにビラン」とか「ゴーレム好きのビラン」という不名誉な二つ名がついてまわることになるが、その情報発信源はすべてアルダムだ。
「ビラン殿。そんなに気に入ったのならこの子を持っていくかね? 少々デチューンする必要はあるが、我々が新造した電池の寿命は二百年だから貴殿が死ぬまで面倒をみてもらえるぞ?」
「いいんですか!」
ルゴシ伯爵の手を取って喜ぶビランは、こう見えて連合国北西にあるビー大公国の王子である。ゴーレム少女とくっついたら困る者が多いだろう。だが、そんな心配は杞憂だった。
「私はいやデス。こちらの方がいいデス」
ゴーレム少女はビランを振り、ディーゴの腕にくっついた。これはエルフの国で作られた兵器としての性なのだろう。
「い、いやまって。僕は……」
「胸の大きさもお好みで変えられるのデス」
ゴーレム少女のメイド服の膨らみが増したり減ったりする。
「僕はスレンダーなほうが」
思わず口にしてしまったディーゴを見て、ビランは同志を見るように温かい眼差しを送り、アルダムとルゴシ伯爵は冷めた眼差しをしていた。
後日、一時帰国したディーゴが可憐な少女を連れ帰ってきたことで、エルフの国は「王太子、遂に結婚か!」と国を上げてのどんちゃん騒ぎになるのだが、ディーゴは「この子がゴーレムだっていつ言おう……」と苦悶の日々を送ることになる。
そしてこのゴーレム少女がレッドヘルムの超技術で妊娠も可能になった「人造人間」だとは知らずに、興味本位でえちちなことをして無事に妊娠してしまったことから「うわああああ」と頭を抱えることになるのは半年先のことである。
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