第162話 主人公的な四人はウザい悪役だった
謎の「はふぅん♡現象」から生き残った(?)四人の稀人を前にして、ルイードは目を細めた。
『鑑定しとくかぁ』
わずかに黄金色の光を含んだルイードの瞳によって、稀人達の正体はあっという間に明かされた。
一人は予想通り稀人だが、ステータスは平凡に毛が生えた程度だ。
『全然鍛えてねぇな、こいつ』
いかに稀人でも心身を鍛えていなければこの世界の一般人と大差ない。しかし稀人は成長値がずば抜けている。人並みに鍛えただけでも一騎当千の化け物になるので、現段階で【ただの稀人】であっても問題はない。
だが、ルイードは眉間にシワを寄せていた。
『こいつ、分類
この世界に送り込まれてくる稀人の大半は善良で、平凡な性格をしている者が多い。だが悪人がいないわけではない。
力をつけた稀人が悪人だった場合、魔物以上に恐ろしい存在になる。だからこそ稀人を凌駕する理不尽なルイードの存在は「世界のために必要」とされており、悪い稀人がなにかの事件を引き起こしたら、大陸全土の首脳陣が作った「見守る者たちの会」が協議し、ルイードに討伐要請をすることもあるのだ。
『なるほど。シャクティが俺様に依頼したのは、こういう稀人絡みってことか』
もうひとりは―――鑑定結果が【神竜代行】と出た。
『この世界で生まれたただの人間だが、神竜を名乗るドラゴンのもとで育成され? 人間を滅ぼすべきかどうか審査するために人里にやってきた? なんでドラゴンごときが人間の生殺与奪権を持ってることになってんだよ』
当人はなんの能力もない普通のヒュム種だが、その背後には守護獣のドラゴンがいてかなりのステータス補正がかかっている。しかも、いざとなったらその神竜とやらを召喚して戦わせることもできるようなので、人間の軍隊では勝てない存在だろう。
『こいつは稀人じゃねぇが、人間を見下して自分の立場が上だと錯覚してやがるな。なにが生殺与奪権だよアホが……。てぇか、神竜て何だよ。よく見りゃただのホワイトドラゴンじゃねぇか。人間よりちょっとばかし賢いからって神を気取るなんざ、どんだけ傲慢なやつだ。後でお仕置きだなぁ~』
ルイードは呆れながら次を鑑定する。
『どれどれ……。西の果てにあるド田舎の隠れ里からやってきた稀人一族の末裔か。ふむ、まあまあな強さだな』
実は「まあまあ」どころではない。常人の能力値を一だとしたら、彼の能力値は千を超えているのだ。
それでもルイードが「まあまあ」と思ってしまうのは、彼が直接育てた稀人たちの強さは千どころか億や兆に届き、救国の勇者たちは京や垓にもなっているからだろう。
『性質は……この【田舎者】も悪かよ。んー? 先祖が一度魔族と交わってるな。いや、交わってるっていうか魔族の娘を力任せにアレして産ませた子供が子孫につながって、その力がこのガキに隔世遺伝して強くなったのか。こいつのタイプは……ははぁん。蝶の羽をむしって遊ぶ子供のような純粋な悪かよ。一番
稀人がこちらの世界で子を成したとしたら、その子供も稀人の力が受け継がれることが多い。基本的に代を重ねていくごとにその力は薄れていくが、稀に隔世遺伝して突然強い子が生まれることもある。しかもこの【田舎者】は魔族の血も引いているので、かなりレアケースの強さを持っている。
『こいつは稀人とは言えないが、稀人の子孫も俺が対処する範疇だしなぁ。まぁいい。次のやつは……
最後は人間ですらなかった。
見た目は若い女の子で、肌の質感や関節部分などを見ても人造物のゴーレムには見えないが、ルイードの鑑定眼は間違えない。
『なんだよ
ゴーレムとは、泥人形や石像に呪紋を刻んで自動自律行動を可能にした道具だ。基本的には呪紋を刻んだ主の命令でしか動かないはずだが、なぜここで中途入学試験を受けているのかは謎だ。
こっそり鑑定された四人(三人+一台)は、実技試験用に貸し出した木剣を構えてルイードと対峙した。
「まぁいい。試験を続けるぜぇ」
ルイードは素手のまま、まずは【ただの稀人】に迫った。
そして驚く暇も与えない速さでデコピンし、その一発で脳震盪を起こした【ただの稀人】は、白目を剥いて倒れた。
「かあさん、いくよ!」
【神竜代行】は両手の甲に意味深な紋章を浮かび上がらせてステータスを一気に上昇させた。守護獣となっているホワイトドラゴンがどこかの遠隔地から加護の魔法を掛けたのだろう。
だが、どれだけ強化してもルイードには及ばない。
『そもそも神でもねぇのに、人を滅ぼすかどうかを裁定するっていう傲った心意気が許せねぇな』
ルイードは、問答無用で【神竜代行】に迫り、経絡秘孔をいくつか突いて昏倒させた。
すると神竜と名乗るホワイトドラゴンが時空の壁を超えてやってきた。きっと「息子」が一瞬でやられたことを察知して驚いたのだろう。だが、ルイードは相手が身の丈五十メートルを超える巨大な魔物であろうと怯えない。
「しゃああああ!」
空高くジャンプしてホワイトドラゴンの顔面をぶん殴り、時空の壁の向こうに押し返す。白目を剥いて倒れたホワイトドラゴンはしばらくは時空の向こうで気絶していることだろう。
先に「はふぅん♡」して気を失った受験生たちは幸運だ。突然始まった世界頂上決戦を見せられた試験官たちは、一人残らずその場で腰を抜かし、ルイードに色目を使っていた女性教職員も含めて足元に水たまりを作っているのだから……。
次は稀人の末裔たる【田舎者】だ。
当人は「余裕で試験官を倒して『あれあれー、僕、なんかやっちゃいましたぁ? 田舎者なんでよくわかんないですぅ~』って言おう」くらいの予定があったようだが、まさか自分の動体視力でも捉えられない速さでルイードが動くとは。
一瞬で首元に手刀を落とされた【田舎者】は、可愛らしい女の子がジャンプするのを見ながら気絶した。
古代エルフが作った【ゴーレム少女】は、ルイードに木剣を振り下ろしたが、あっさり回避される。そればかりか、背中に手を置かれて「元気良すぎだろ」の一言と共に、心臓部分にある魔石動力炉をショートさせられてしまった。
ルイードは完璧な「俺TUEEEE」を演じきって、満足したように教職員服のネクタイを締め直した。
「実技試験、終わり」
ルイードが宣言すると、腰が抜けて失禁していた女性教職員が我に返った。
「い、今のは一体!?」
「この四人は不合格。他のぶっ倒れてるのはステータスチェックに回してくれ」
「ち、ちょっとルイード先生。今なにをしたのかさっばりわかりませんでしたけど、なぜこの四人が不合格なのですか!?」
女性教職員はあざとかわいさを捨てて驚愕の表情を浮かべていたが、ルイードはそんなものには惑わされない。なんせその女性教職員よりも美しいイケメンシブオジなのだから。
「この四名はかなり優秀に見えましたが、最後の測定もしないで不合格でいいんですか!? むしろ何もせずに倒れてる他の人達はどうして合格なんですか!?」
「別に強さを見るための試験じゃないからな。正直、授業の実技なんてたかが知れてるから、普通の体力があればどうにでもなる」
「そ、そうでしょうか」
「断っとくが、俺は副学院長から悪者を選別して弾くように判定を委ねられている。その俺が駄目っつったら駄目だ」
「わるもの?」
「そう。悪者だよ、この四人は」
ルイードは面白くなさそうに言うと、実技試験会場から立ち去った。
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