第158話 ディーゴ君はやれやれ系ウザ生徒
僕の名はディーゴ。
私立レッドヘルム学院内では家の格は無視するという暗黙のルールがあるらしいので家名は名乗っていないけど、知れば誰もがドン引きするところの生まれってやつだ。
だから内緒にしているけど、僕の出身は連合国内じゃない。国外からの留学生、しかも高等部からの中途入学という絵に書いたような余所者だ。
この学院はこれまで幼等部からの入学しか認めていなかったらしいが、今年から中途入学を認めたので国から「いってこい」と命じられて来たわけだが……正直に言うと色々とレベルが低かったので主席で中途入学できた。
そして僕の国が異常に発展していたんだなと客観視できた。絶対に僕の出自は隠しておかないと利権がらみで人が押し寄せてきそうだ。
さて。
そんなわけで今年から中途入学を認めた学院には、僕のような有象無象の者たちが多く入ってきた。その殆どは連合国内の下級貴族か爵位を持たない豪商の子らしい。
あれ? 国外からは僕だけ? 他にも少しいる? よかった。
残念ながら中途入学者たちの修学レベルはこの学院の平均より低かったらしく、幼等部から在籍している生徒たちとクラスを分けられている。それを誰ともなく「庶民クラス」と名付けて侮蔑し始めたのは、仕方ないのかも知れない。
僕?
僕は中途入学試験の成績が優秀すぎたので、庶民クラスではなく特待クラスに放り込まれている。まぁ、特待と言ってもそこの修学レベルも低いので、角を立てないようにそこそこの力でなんとかやっているつもりだ。
「中途がいると学院の格が落ちる」
「やつらには品性がない」
「庶民の分際で私達と同格になったつもり?」
特待クラスでは毎日誰かがそんな話をしているし、こういう考えの生徒は後をたたない。
僕からすると「お前らも大したことないぞ?」という思いはあるが、肩身が狭い余所者としては黙っておく。僕は姉上と違って積極的に我を通すタイプではないのだ。
この学院では今までもこういった差別がなかったのかというとそうでもない。上流階級同士で家の格争いをしていたそうだ。僕の国では王家かそれ以外かしか身分がないので、この感覚はわからないが、とにかく人と自分を比べて優位に立ちたいみたいだ。
ちなみに僕もあからさまに差別されて、特待クラスでは誰からも話しかけられない。もちろん友達は一人もいない。
ぶっちゃけ辛い。早く国に帰りたい。
そんな折、この差別問題を解決するために私立レッドヘルム学院の生徒会役員たちが招集された。
学院の生徒会は中等部と高等部が一緒になっており、幼等部と初等部そして最高等部に生徒会はない。なぜならこの生徒会が「思春期真っ盛りの反抗期で一番問題が多い中等・高等部の生徒自治のために存在している」かららしい。
だから生徒会にはかなり強い権限が持たされており、役員の総意であれば私立レッドヘルム学院の判断なしで生徒を退学させることもできる。ある意味、生徒からすると恐怖の対象だが、すぐに強権を行使する独裁者の集まりじゃないことが救いだ。
「そう。私達は独裁者ではない」
見目麗しい女会長のエマイオニーが静かに言う。
「私達は庶民の上に立つ者として生まれたが、それは独裁者としてではなく、庶民をまとめ上げる立場としてだ。だから庶民に慕われない過剰なプライドや差別意識は毒でしかない。それなのに今の生徒は中途入学者たちを蔑んでいる。これはよろしくない傾向だ」
生徒会役員全員が首肯する。
エマイオニー会長は魔法学において比類なき天才で、教職員も彼女に勝てないらしく、この生徒会においても彼女の発言を否定する猛者はいない。気の強さが目元に出ている。僕の姉上のようで怖い。
「そうね。それに彼らは庶民とは言え上流階級の部類にあたるわ。本当の庶民の程度はもっと低いのに、あの程度の連中相手に不満を持っていては人の上に立てないと思うの」
副会長のナタリーは選民思想が強い女性だが、立場的には真っ当なことを言っている。噂では中等部の時に付き合っていた美男子は、彼女の選民意識についていけず暗黒面に堕ちたらしい。
「レッドヘルム学院は~、帝王学を実践するための教材として~、中途を入れたのかしら~?」
大きなタレ目のせいでおっとりしているように見える会計のアンハサは、語尾が間延びした口ぶりで結構キツイことを言う。彼女もエマイオニー会長のように魔法が得意で「生徒会の魔女」と呼ばれているらしいが、ちょっとあざといので女子からは嫌われているそうだ。
「しかし学院の規律を守らないのは中途どもばかりだ。立場を分からせたほうがいいのでは?」
風紀委員のミラージョはかなりの武闘派で生徒会で一番背が高い女性だ。名門の騎士一家出身だったが、ゾンビ退治で国を救った事があるらしく、今は伯爵になっているらしい。
「ミラージョは極端ね。庶民を力で押さえつけた結果がどうなったのか歴史を学びなさい」
庶務役でこの中で一番年上のアンジェリーナが呆れたように言い、ミラージョが反論する前にとどめを刺した。
「なぜこの国が【連合国】になったのかわかってる? 庶民を敵視するのは愚行中の愚行って習ったでしょう?」
「それは、まぁ、そうなんだが……」
帝国と王国は国の成り立ちが簡単で、強大な国家がいくつもの小国を自国に取り入れてできたものだが、連合国の成り立ちはそんな弱肉強食の結果なのではなく、どちらかと言うと「弱い者同士が手を取り合った」というものだ。
昔、大陸西側にあったどの国でも特権階級の貴族たちがブイブイ言わせまくり、庶民のことを「税金を収める家畜」としか思っていなかった。
その結果、多数の国で同時多発的に反乱が起きてしまい、それによって疲弊した国同士が肩寄せあってなんとか凌いだ時にできたのが【連合国】なのだ。
「さて、君の意見を聞こうかディーゴ」
生徒会役員たちの視線が僕に集まる。
横暴が服着て歩いてるような姉上のせいで、僕は幼い時から女性が苦手だ。恐怖すらしている。なのに、どうしてこの生徒会は女性ばかりなのか!
「どうしたディーゴ君。具合が悪いのならお姉さんが保健室に」
エマイオニー会長が身を乗り出すと、ナタリー副会長が割って入るように立ち上がった。
「会長は本議会の進行を。彼は私が」
「だったらぁ~、会議と関係ない~、ただの会計の私がぁ~、いいと思いま~す」
アンハサも立ち上がる。続けてミラージョ風紀委員長とアンジェリーナ庶務も立ち上がり、女同士で睨み合い始めた。
ここにいる男子は僕一人だけ。
ぶっちゃけ生徒会役員ではないのに、どうして議題がある度に呼ばれているのかはわからないけど、女性が僕を取り合って喧嘩するのは勘弁だ。
まったく、やれやれだ。
□□□□□
完全に気配を消して生徒会室の様子を廊下で聞いていた紳士は、音もなくその場から立ち去った。
「あ、先生」
階段で女性教職員が頬を赤くして話しかけてくる。
「次の中途入学試験の面接官、よろしくおねがいしますね」
「おう」
教職員用の制服を着て、ボサボサ髪をオールバックに整えた絶世のイケメンシブオジは軽く手を上げて応じた。
それだけで女性教職員は「はふぅん♡」と胸を高鳴らせて顔を真っ赤にした。
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