第九章:私立レッドヘルム学院物語
第155話 彼女は出番が少なかったせいでウザさが爆発していた
「オメェ、ちょっと女子高生にならねぇか?」
いつもの冒険者ギルドで、いつも倒される役目の椅子に腰掛けた、いつもの二人。ルイードとシルビス。
シルビスはどこかの稀人が作った『ツンデレ王妃がおっさん冒険者に陵辱されて二秒で完堕ちアヘ顔する成人向けエロ同人誌』を堂々と読んでいたが、ルイードから唐突に女子高生になれと言われ、思い切り片眉を動かした。
「は?(拒絶)」
「だから女子高生に……」
「は?(困惑)」
「女子高生……」
「ちょっとルイードさん、頭の中を整理する時間をください」
「お、おう?」
シルビスが同人誌を閉じて真剣に悩みだしたので、ルイードも黙る。
「んー。私もしかして今、女子高生になれって言われた? 女子高生の格好って稀人がデザインしたスカートの短い軍服みたいなあの破廉恥(?)な衣装よね? ってか、やっと私の身体に興味を!? そっかぁ、そういうのが好みだったんだぁ。今まで全然ピクりともしないはずだわぁ。まさか制服フェチだったなんて」
「おいシルビス、独り言がデケェ。全部聞こえてるぞ」
ルイードは顔のあちこちに怒りの血管を浮かべているが、ボサボサの前髪で隠れているのでシルビスには見えていない。だからなのか、シルビスはルイードを無視して独演会を続けた。
「ああどうしよう。ルイードさんが『制服着てる無垢な女の子を自分色に染め上げる』みたいな性癖だなんて、ここにいる冒険者達に聞かれたらめっちゃ恥ずかしい。私染め上げられちゃう~」
冒険者たちの目線が全集中したのでルイードは明後日の方を見て他人のふりをしたが、シルビスの独演は終わらない。
「けど雰囲気は大事よね。うん、ルイードさんがそういう趣味なら私が合わせないと。よし、わかりました! 私、女子高生の服を着て初めての夜を迎えます!」
「……オメェ、バカだろ」
ルイードは自分に集まる白い目線に疲れて弱々しく言う。
「私を女子高生にしようとする変態オヤジが何言ってるんですか。先に言いますけど私の胸が入る服はビッグサイズ過ぎて全然セクシーになりませんから。だから制服は特注で胸元を乳袋みたいな形に縫製してもらわないと無理ですから! あと下着は何を着れば興奮しますか!? やっぱり純真な白ですか、それともギャップありありなセクシースケスケな黒ですか! もしかしてシマ柄ですかー!?」
後半は完全にルイードを陥れてやろうという気満々の大声はギルド内に響き渡っている。
「……」
ルイードは頭を抱えて俯いた。
その様子をギルド二階の踊り場から睥睨していた受付統括のカーリーは、エルフ特有の長い耳をピクリと動かしながらメモ帳を取り出している。どうやら「ルイードがどういう下着に興味を持っているのか」をメモろうとしているようだ。
俯いている時にカーリーの視線を察したルイードは慌てて顔を上げ、二階の踊り場に向かって「ちょ、違っ」と手を大振りするが、カーリーは鉄面皮を崩さずに答えを待っているようだ。
「で、何パンですか」
「うっせぇわシルビス! てか俺がオメェを求めてるんじゃねぇ。これは仕事だ、仕事」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!? よその男に制服着せた私を抱かせてゾクゾクするとかいう趣向ですかぁぁぁぁ!? イヤですよ他の男なんて! てかそれを仕事にするなんて最低ですよルイードさん!」
「勘違いしてる上に声がでけぇ!!」
流石にキレたルイードに拳骨を落とされたシルビスだが、大して痛くはなかったらしく「てへ」と舌を出して愛嬌を見せた。
「ったく。オメェのウザさには勝てねぇわ」
「それで、なんで、私が、学生に?」
単語を区切って問い詰めるように言うと「全然話が進まねぇ」と疲弊しまくっていたルイードは、背筋を伸ばして気合いを入れ直した。
「よし! 順を追って説明すると、西の【連合国】にある学校でいろいろ問題がおきてるって、知り合いから相談がきた。それを解決するのが今回の仕事だ」
「ふーん? どんな知り合いなんですか?」
さっそく話の腰を折りに来たシルビスだが、根が真面目なルイードはちゃんと応じてしまう。
「もちろん依頼主は連合国の冒険者ギルドだ」
「……」
いつもは大きなシルビスの目が細く鋭く変わると、朴念仁であるルイードもさすがに「あ、これはウザ絡みされる予感」と気がつく。
「ふーん? ふーん? 冒険者ギルドの誰ですか? 冒険者? それとも職員?」
「……そこのカーリーと同じ、受付統括だ」
ルイードが指差した二階の踊り場には、まだ下着の好みを確認しようとメモ帳片手に鉄面皮してるカーリーがいた。
「でたでた受付統括! どこの国も冒険者ギルドの受付統括って女性ですよね! ってことはまた女絡みですか! なんでモテないくせにハーレム王目指してるんですか!」
「人聞きの悪い……。ってかモテないって言うな。こう見えても娼館では……」
「うっさいバーカ! しかも連合国の受付統括って、
「なんでキレてんだよ。てか、なんだよ、ぴゅっぴゅるって」
「やっぱりイヤでーす! やりたくないですぅー! 成人してるのに学生ってのもやだしぃー、新しくこさえた女の前でいいかっこしようと依頼を安請け合いするルイードさんが学生やればいいと思いまーす!」
「心配すんな。俺もいく」
「え、こんな小汚いおっさんなのに学生……」
「オメェが学生やれって今言ったのに嫌そうな顔するな。てか俺様は教師役だ」
「私は学生なのに!? てかルイードさんが教師をするって、どんな底辺校ですか!」
「話がぜんぜん進まねぇが、その学校は【私立レッドヘルム学院】だぞ」
文句を言っていたシルビスの口が止まる。
【私立レッドヘルム学院】は、連合国はもちろん、周辺国家の金持ちたちが箔をつけるために子供を入れたがることで有名な最高学府のエリート校で、一部からは「全寮制の閉ざされた花園」と憧れを持たれるほどだ。
教育課程は幼等・初等・中等・高等・最高等の五段階あり、物心ついた頃からの一貫教育が売りになっている。学びたい者にとっては最高の学び舎なのだ。
しかし、実際のところ学びたい者は一握りで、殆どの生徒はよくわからないまま幼い頃に入学させられ、なんのために学んでいるのかわからないまま教科を受け、全寮制の狭い学院の中しか知らずに育つ。
そうすると、世間知らずのくせにやたらプライドは高く、それでいて打たれ弱いという「使えないやつ」が大量に完成する。だから世に送り出された卒業生の誰かしらが、毎年問題を起こしている。
そこで私立レッドヘルム学院は、本年度から制度を変更し「中途入学」を認めた。
これは学院外の人間を入れることで、純粋培養されたお坊ちゃまお嬢ちゃまたちに刺激を与え……悪く言えば「雑菌に触れて免疫をつける」ための施策なので、ある程度の学力や武芸があれば誰でも入学できたし、学費や寮費もかなり免除された。
だが、それによって学内ではこれまで表面化されるほどではなかった露骨なスクールカーストが生じた。幼等部から在校している生徒たちにとって、中途で入ってくる者たちは異分子であり、しかも身分が低い庶民ばかりなので価値観も合わないのだ。
「その学院内で起きている虐めとか様々な問題の解決を取り計らってほしいというのが依頼だ」
「はて。なぜ冒険者ギルドがそんな依頼をルイード様に」
カーリーは紅茶を注ぎながら言った。シルビスは「いつの間に!?」と思ったがカーリーの鉄面皮が怖いので口には出さない。
「去年、ギルドが派遣した女性冒険者とイケメン金持ち学生が『喧嘩しながらもお互いに惹かれ合って壁ドンとかされちゃったりする禁断の恋が始まってなんだかんだあって今年駆け落ちした』っていう事件があって、ギルドとしては学院に顔が上がらないらしいぜ」
「……」
カーリーは入籍という言葉に長い耳を動かした。
「まさかルイード様も女学生と禁断の……」
「どいつもこいつもなんなんだよ、まったく」
今日は分が悪いと感じたのか、ルイードは疲れ果ててまた俯いてしまった。
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