第124話 御伽衆のウザ報告書②
王妃は御伽衆の報告書を読み進める。
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【アモス・サンドーラ伯爵令息】
王位継承権を持っていたエチル王女の婚約者だったが、ロウラ・グラ男爵子息をいじめたという濡れ衣を着せられて、夜会の場で婚約破棄を告げられた。
今は元気に「アモスフィットネスジム」を経営して、実家に貢献している。
アモス自身が転生してきた【稀人】で、しかも特殊能力「
ルイードに修行させられて人外の力を身に着けているが常識人なので、これといった騒ぎは起こしていない。
【エチル・キャリング公爵令嬢】
王家第三序列だった王女。アモスを疎んじて婚約破棄した罰を受け、他国に嫁がされるのを待っているが、あまりにも暇すぎて「アモスフィットネスジム」の雑用係として働いている。
ロウラの洗脳が解けたおかげで本来のエチルに戻っている。最近はルイード特区の見回りなどにも精力的で「憑き物が落ちたようだ」と称賛されている。
【ロウラ・グラ男爵子息】
スラム街から這い上がり男爵の養子になった出世欲の塊みたいな美男子。実は悪い魔法使いから貰った「魅了の函」という魔道具の力で多くの人々を洗脳に近い状態にしていた。 今は収監されて屈強なお兄様方にくんずほぐれつされている。
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「くんずほぐれつ」
王妃は目頭を押さえた。ロウラも所詮はアラハ・ウィに化かされた哀れな犠牲者なので、何処かで恩赦を出さねばと思っているところだったが、無事に戻ってこれるのかどうか……。
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【チルベア】
アモス付きのメイド。
今生ではまだ若いのに、突然生前の記憶を取り戻したことから溢れんばかりの母性パワーを発揮している。
生前は「娘を理不尽に殺されて嘆き悲しみ苦しんだ母親」であり、アモスが生まれる前は元
ルイードから鍛えられてそこそこ強くなっており、後述のアイラたちからは「総長」とも呼ばれている。
「せっかく生まれ変わったんだから今度は幸せになりたい」とシンガルルを狙っている模様。
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「最近、なにか問題を抱えた稀人が送り込まれてくることが多いが……。この世界は稀人たちの更生施設ではないのですがね、神よ」
王妃はふと執務室の天井を見上げてしまった。もちろんその更に上に存在する「神」を見たのだ。
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【アイラ】
普通に転移してきた稀人。元々は【センター街の悪夢】という二つ名を持つギャル女子高生で素行は最悪。生前のアモスをホームから突き落として事故死させた最低な女で、アモスの母親から刺殺され、この世界に転移してきた。
転移してきたばかりの頃は素行が悪く、ロウラに魅了され【アイラ武勇】というギャル血盟を結成して悪事を働いていた。
洗脳が解けた現在は自らの行いを反省してギャルを引退。アモスとチルベアに詫びて「アモスフィットネスジム」のトレーナーに収まる。
ギャルを引退後、チルベアから継承された
ちなみにアイラ武勇血盟の女冒険者達も冒険者稼業を辞めてこぞって入社しており、店の戦闘力はこの街でもトップクラスである。
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「暴走族とは何だ。街の中を駆けずり回るのか?」
王妃はただひたすら
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【シルビスとゆかいな仲間たち】
ルイード一味とも呼ばれる「ウザ絡み」の者たち。
血盟を作って不労収益で暮らしたいノーム種のシルビス。
元アイドル冒険者三人衆「眉毛の太い熱血のガラバ」「片方の前髪が長いクールなビラン」「ジャニ顔の元気なアルダム」。
元帝国の
彼らとは別に「王妃様」「ルイードの酒場で働く元殺し屋の面々」や「ギルド受付統括」などの関係者もいるが、主だって一緒に行動しているのは彼らゆかいな仲間たちである。
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「なぜ妾が奴の仲間として記載されているのか」
王妃は形の良い眉をしかめたが、平民であるはずのルイードに勅命を与えるなどの行為からして、御伽衆から仲間認定されてもおかしくはない。
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【アラハ・ウィ】
仮面をかぶった悪い魔法使い。ロウラ・グラに魔道具を渡して悪いことをさせていたことが露呈したので、領主不在のウザードリィ領にダンジョンを作って引きこもり、様々な罠と魔物を配置して冒険者たちの挑戦を待ち受けている。
「やはりラスボスの傍らにはヴァンパイアロードが必要でしょうかねぇ、どう思います?」
と、質問されたことからも、なにやらダンジョンマスターとしてのこだわりがあるらしい。
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「ちょっとまて。御伽衆は彼奴のダンジョンに入り込んで話し相手にでもなっているのか!?」
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【ルイード】
ウザ絡み専門冒険者。王朝からやってきた転生稀人の面倒を部下に押し付けて「今夜はだし巻き卵と熱燗だな」と言っていた。
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「ルイードの所だけ雑だな!?」
王妃は書類を机に投げ出して大きく溜息を吐いた。
「ダンジョンに行こうとする皇女を引き止め守り? 皇女と結ばれようとする他国の子息たちの非常識を諌め? そんな面倒なこと、確かにルイードでも投げ出すだろう。だが、妾の勅命を部下に投げっぱなしとはどういうことか。稀人案件であるから奴の業務分担の範囲内だぞ」
王妃は考えれば考えるほどムカムカしてきたようで、瞳が黄金色に輝きつつある。
「むしろ部下に皇女を押し付けて、奴は今何をやっているというのだ………。誰ぞいるか」
手を叩くと執務室の外に待機していたメイドが扉を開けた。
「今日はお前か……」
王妃は明らかに嫌そうな顔をしてみせた。
「はい王妃様」
「……まぁいい。街の衛兵隊長ミュージィを呼んでもらいたい。ルイードの件だ」
「かしこまりました」
メイドは深々と頭を下げたが、元の姿勢に戻って首を傾げた。
「近衛騎士ではなく街の衛兵でしょうか?」
一旦は主人の言葉を否定せずに受け入れるのはメイドのマナーだ。
「うむ。スペイシー家の親戚筋に当たるあの女傑なら、ルイードを御せるだろう」
「なるほど、御意でございます王妃様」
「それと御伽衆の頭領に伝言を」
そう呼ばれたメイドは口元に笑みを浮かべて頭を下げた。彼女こそが御伽衆の頭領なのだ。
「はい、なんなりと」
「貴様たちの報告は偏っている。王朝から越境してくるガキどもの性癖など知りたくもない。もっと有益なことを書くように伝えてもらおう」
「しかし王妃様。いざというときはそういったくだらない情報が益になることもございます」
「ほう……申せ」
「はい。たとえば王国内では数年前、ザビーネ伯爵が隣領に攻め入る内戦がございましたがそれは三日で終結しました」
「うむ。勝手に戦をはじめて勝手に終わったと記憶している」
「あれは伯のだらしない性癖を暴露されたくなければ軍を引くようにと陰ながら手を回した御伽衆の手柄でございます」
「……あの戦狂いのザビーネ伯が軍を引くほど暴露されたくない性癖とはなんだ」
「知りたいでしょう? 知りたくなるでしょう? そのあたりを調べてくるのが御伽衆なのです。私達に無駄なことはありません」
「……頭領がそう言うのなら、まぁよかろう」
王妃は面倒くさそうに手を振って「下がれ」と命じた。
「ああ、そうだ頭領」
一礼して出ていこうとするメイドを呼び止めた王妃は空になったティーカップを掲げて「おかわりを」と言いながら「ルイードの報告が一番希薄だったがどういうことだ」と問い質した。
「あの方を付け回した御伽衆は私も含めて全員顔バレしてます。どういうわけか確実にバレるのです。さすがはアークマスターと呼ばれる御方です。中には尾行中にスカートをめくられる辱めを受けて撃退された御伽衆の女もおりまして、」
「よーし、ルイードを早く呼べ」
王妃はこめかみに血管を浮かべた。
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