第123話 御伽衆のウザ報告書①

 王国王妃は、彼女の側近と国の一部しか存在を知らない秘密組織を持っている。


 王国御伽おとぎ衆。


 対外的には「大陸各地にある面白い話を収集し、それを窮屈な生活を強いられている城仕えの王侯貴族たち(特に王妃)に伝え聞かせる」という役回りになっているが、実は有能な間者スパイ組織である。


 この世界の秩序と平和を守るため各国首脳陣や各ギルドが参加している「見守る者たちの会」と違って、御伽衆は王国のためだけに活動している。だから他所の国の動向もつぶさに観察している。


 その御伽衆が作成した報告書を机の上に置いた王妃は、読む前にロイヤルミルクティーを口に運んだ。


 これは普通のミルクティーのように紅茶を作ってから牛乳を加えるのではなく、お湯で茶葉を煮出した後から牛乳を加えてしばらく煮るという手間がかかる。そのおかげでミルクティーよりも濃厚な風味と深みがあり、王妃はそれに砂糖を加え、甘く仕上げるのを好んだ。


 彼女が「人間が生み出した至高の逸品を挙げよ」と神に言われたら、迷わずこのミルクティーを勧めることだろう。


「どれ……」


 御伽衆の報告書を手にした王妃は表題の「王朝皇女来国について」という文字を見て、フンと鼻を鳴らした。そんなことはとうの昔に知っていてルイードに「どうにかしろ」と指示を出している。


「御伽衆の足の遅さは問題だが、さて、妾の知らぬことが書かれておればよいが」


 ペラペラと上質な紙をめくっていた王妃は、今回の騒動の中心人物たちを纏め上げた部分で指を止めた。


「ほう。御伽衆の中にも大した者がいるようだ」


 その年齢不詳の美貌に薄っすらと笑みが載る。




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【レティーナ・オートリー皇女】

 東の王朝から流れてきた四等級冒険者となっているが、王朝唯一の皇女で、彼女の夫が次期皇王となる。


 調査の結果、レティーナ皇女は異世界から転生してきた【稀人】で、生前は男で作家。


 この稀人は転生してきた現在も心は男のままであり、皇王の座を欲する王朝公爵家の子息たちからアプローチされているが、すべて袖にしている。男より女好きの模様。


 後継者選びに疲れて王国まで逃げてきた模様。また、ウザードリィ領のダンジョンを目指していることを公言。王妃様の勅命において「ウザ絡みのルイード」とその手下が保護し、ダンジョンに向かわせないようにしている模様。


 王朝は、国から逃げたレティーナ皇女の代わりとなる皇女を選別しながら、我ら王国に対してはレティーナ皇女の保護を申し立てている。かねてより問題行動の多かったレティーナ皇女を「旅行中の事故」という名目で廃して次を仕立てたい模様。また、王国内でレティーナ皇女が死亡すれば国際問題として取り沙汰し、王国から賠償金をせしめる魂胆も見える。

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 簡潔にまとめられている。王妃は「レティーナを殺そうという動きもあるのか」と感心した。


「しかしルイードが守護者としてついているから簡単には殺せぬぞ」


 ニンマリとする王妃は次の報告書を手にする。




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【シンガルル】

 レティーナ皇女を守る黒い豹人種レオニールの近衛兵。


 レティーナ皇女が信を置いているだけあって実力は王朝一とされているが、皇女を放置して観光を愉しんでいる模様。(鍛えられた稀人である皇女には護衛が必要ないという判断)


 ヒュム種以外を「亜人」と称して差別する王朝の中では立場が低い。


 現在「アモスフィットネスジム二号店」で、後述の転生稀人「チルベア」の師事を受けて筋トレしている。

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「護衛が皇女を放置して筋トレだと……」


 王妃はその破天荒な行いに目頭を押さえつつ、残りの報告を流し読みした。




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【リュウガ・エリューデン公爵子息】

 王朝四大公爵家の一人で、レティーナ皇女を娶ろうとしている。王朝で一番の金持ちで、金の力でなんでも解決する。俺様キャラで評判が悪く、王朝内では貴賤問わず小馬鹿にされている。これといった悪事を働いているわけではないらしいが、暑苦しいとのこと。


【ユーリアン・キトラ公爵子息】

 王朝四大公爵家の一人で、レティーナ皇女を娶ろうとしている。男だが花魁(王国で言う高級娼婦)より派手な化粧を施し、派手な着物を着て、色鮮やかな入れ墨を入れている。髪の毛も染色して逆立てている。王朝では「傾奇者」と呼ばれており、その場のノリだけで生きている。


【セルジ・アラガメ公爵子息】

 王朝四大公爵家の一人で、レティーナ皇女を娶ろうとしている。糸目で冷静沈着。王朝の軍事面に顔が利くため、朝乱が起きたら彼のせいだろうと言われている。王朝からすると「いつ逆賊になるのかわからない」という警戒を抱かれている。後述の妹ミラに頭が上がらない。


【ミラ・アラガメ公爵令嬢】

 王朝四大公爵家の子女で、セルジの妹。王朝独自の魔法「陰陽道」に通じる魔法使いで占術師でもある。上記公爵子息たちの参謀役で手綱を握っている。



 以上、四名を筆頭とした「レティーナ皇女救助隊」が王朝を出立。最速の移動方法である飛竜を用いて山脈を超えつつある模様。その部隊は王国に侵攻してきたと勘違いされてもおかしくない規模であり、事前通達はない。

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「なるほど。軍部に知らせておかねばならんな。専守防衛に努めよと。それと王朝には抗議せねば。あちらの神は様式に拘ると聴いているが、これはあまりにも不躾が過ぎる」


 王妃が報告書をめくっていくと、その救助隊に参加している兵士一人ひとりのプロフィールも記載されていた。どうやって調べたのかはわからないが、種族・身長・体重・髪や瞳の色・家族構成・簡単な経歴など、更に細かな情報も記載されている。


 前に戻って確認すると、セルジの項目には「おっぱいフェチ」と書かれ、ミラのところには「ダメンズメーカー」といった御伽衆の個人的な感想も書かれているようだ。

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