第八章:ウザードリィ物語
第114話 ウザい魔法使いがダンジョンを作ったよ
「王国は魔法使い【アラハ・ウィ】を指名手配し、彼奴を捕縛ないし討伐せしめた者たちには、十分な褒美と爵位並びに領地を与えることを約束する。【アラハ・ウィ】はウザードリィ領にダンジョンを建造し最深部に立て籠もっていると推測される。勇士よ立て! 悪しき魔法使いを倒し、その名声を手に入れよ!」
キャリング公爵令嬢とグラ男爵子息による醜聞の原因は、魔法使いアラハ・ウィであると王国は公表した。
その扱いは徹底したもので、今までどんな極悪人が現れてもここまでの警戒態勢が敷かれたことはなかったし、酒場や宿など人の出入りするいたる所に人相書きの羊皮紙が貼られた。
「十分な褒美ってなんだろう?」
「その悪人はなんでまたウザードリィ領に?」
「領主不在で王国管理になってる土地だからじゃないのか」
「ダンジョンって個人で作れるものなのか?」
「てかウザードリィ領ってこの街のすぐ隣じゃんか」
「諸外国にもお触れを出したって言うから徹底してるわよね」
「その魔法使い、よっぽど王妃様を怒らせたんだろうなぁ」
街征く人々は張り紙を見て、やいのやいのと騒いでいる。
一般人からするとこういう「自分たちに危険が及ばない非日常事案」は、変化とエンタメの乏しい日常にやってきた祭りと言える。もちろん冒険者たちも同様だ。
「魔法使いねぇ。俺の剣で一撃だろwww」
「ダンジョンってのが面倒くせぇがな」
「急ごしらえのダンジョンなんて怖くねぇよ」
「おお! 領主になってお貴族様だぜ!」
「どうせ男爵止まりだろ。あの王妃様、セコいって噂だからねぇ」
冒険者ギルドも随分と宣伝に力を入れている。依頼掲示板には何枚も同じお触れを貼り、ギルド食堂のメニュー表やテーブルクロスといった場所にも「君も魔法使いを討伐して貴族になろう!」と
だが、湧いている冒険者たちを冷やかに見えている者たちもいる。ギルドの端に居座っている「ルイード一味」だ。
「国からの報酬とギルドからの報酬、それに討伐したら等級アップ間違いなしって……」
「……それだけとんでもない魔法使いってことなんだろ」
「命あっての物種だよな」
各国を渡り歩いてきた三等級冒険者のイケメン三人衆は現実をしっかり見ている。冷静な冒険者は自分の力量を超えるであろう依頼は受けないもので、こういう「甘い依頼」に飛びつくのはまだまだ素人だと思っている。
「あいつらは、そもそも魔法使いを倒すことが難しいと知らないのか」
元は帝国の
シーマが言う通り、魔法使いの
魔法使いは体力もなく非力だが、火球や火花、爆炎を放ち、己の肉体を硬化させたり透明になったり、敵を眠らせたり暗闇で包んだりする。魔法抵抗力のない常人にとっては難敵だ。
「それにダンジョンっていうのがなぁ」
熱血のガラバが言うとシーマが「さすが博識だなガラバ」「シーマこそさすがだぜ」「そんな褒めるなよ♡」「そういうところも好きだぜハニー♡」という流れで、いつものようにやりはじめるが、もう見慣れたもので誰も視界に入れていない。
ちなみにダンジョンとは本来「地下牢」という意味で、代表的なものは古城の地下だろう。そういう場所には城の財宝が隠されていたり怪物が住み着いていることから、冒険者にとっては冒険の場、そして一攫千金を夢見る稼ぎ場になっている。
つまりダンジョンに挑むには「そこになんらかの褒美が隠れされている可能性がある」という大前提がある。お宝がない場所を命がけで探索するなど、雨で出来た水たまりに釣り糸を垂らすようなものだ。
王国に指名手配された魔法使いがダンジョンを建造したという時点で、そのダンジョンにお宝があるわけがないと一同は思っている。そこは籠城するために作られた砦だろうし、わざわざ宝を撒いて冒険者を呼び寄せるアホはいないのだ。
「こんなミエミエの餌に飛びつくあいつらはバカだな」
「ほんとほんと」
クールなビランと元気なアルダムは苦笑する。
と、最近めっきりフィットネスジムにハマっているシルビスが、依頼書を手に興奮気味でやって来た。
「見て見て! 魔法使い討伐! 捕まえるだけで貴族になれるって!!」
ルイード一味は顔を見合わせた。ここにルイードがいたらシルビスの頭に拳骨を落として滾々と説教するところだ。
「いやぁ、姉御。その依頼はちょっと……」
イケメン三人衆とシーマが顔を引きつらせているが、シルビスはフンスと鼻息が荒い。
「いつまでもこんなところでダラダラしてウザ絡みしているだけの私たちじゃないってことを、世間に知らしめてやるのよ!」
「どういう意味です?」
「私達ルイード一味がこの依頼を成功させて、箔をつけるの。そしてギルドに認められたら
このように、最近シルビスは不純な動機を全開にして血盟を作ることに情熱を燃やしているが、ルイードはまったく乗る気ではないので事は進んでいない。
「そういえば姉御。ルイードの親分は?」
熱血のガラバが尋ねるとシーマが少し頬を膨らませる。例え「一の子分」であるシルビスが相手でも、他の女に声をかけることを良くは思っていないらしい。
「ルイードさんならルイード区に……って、聞けよテメェ。人に質問しといてウザャコラしてんじゃねぇよ!!」
すっかりルイードの口調になっているシルビスは誰も発音できない言葉で怒鳴りつける。しかしガラバとシーマは「そんなに怒るなよハニー」「怒ってなどいない。ふん」「俺はお前以外の女なんて目に入らないんだぜ」「ほんとうかダーリン」「もちろんさ♡」「ダーリン♡」などと、シルビスそっちのけでチュッチュッしている。
「あんたら、ロッテさんが見たら嫉妬されて殺されるから気をつけなさいよ」
シルビスは呆れ半分で忠告する。
ロッテ血盟はこの街で五指に入る大手血盟で、浮気調査や冒険者向け雑貨販売など手広く商売している非戦闘系冒険者の集まりだが、
そこの血盟主である女性冒険者ロッテは「永遠の独身貴族」とか「熟練独身者」等と言われており、彼女の前でイチャついていると血の雨が降ると言う。巷では、嫉妬に狂って悪魔になった女神の神話になぞらえてロッテのことを「嫉妬神」と言う者もいるほどだ。
「ルイードの親分が『あれはベツモノだ、触れるな』って言ってたな」
「ぴゃー、関わりたくない」
クールなビランと元気なアルダムはニヤニヤしながらガラバとシーマを見る。当の二人はその脅し文句に若干顔を引きつらせている。
そんな一味のくだらない雑談の最中、ギルドにルイードが戻ってきた。
「あ、おかえりなさいルイードさ……」
声をかけたシルビスは笑顔を引きつらせた。
どういうわけかルイードは異国情緒溢れる美女を従えていたのだ。
背丈は受付統括のカーリーと同じくらい高く、細い手足とくびれた腰つき、それに不釣り合いな大きな胸……
「くんくん、これはルイードさんの好きそうな女」
シルビスは鼻をひくひくさせながら警戒心を最高値にまで上げた。
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