第35話 第四章 大和の国から‘30
素戔男尊が走り去っていく姿を、娘が施した結界の中で三方は呆然と眺めていた。
「おい、さっちゃんよ。弥生は…。もしかして、もしかしたらば、もしかするのか…?」
と、崇神。そして、里。
「いやー、すーさん。いやー、これは…もしかするっしょっっ!!。ねぇ、本部長?」
おどけて見せる里の姿を横目に建御雷神は厳格な面持ちで返してきた。
「御前達は何も見ていない。今日はたまたまの突風で宮が崩壊しただけだ。いいか?御前達は何も見ていないんだ…。」
その言葉に崇神は神妙な面持ちで、妙と感じる程何度も頷き倒しながら応えていた。
「ええ…、よく分かりますよ、ええ…。」
その言葉に勿論、里は納得しなかった。
「いやいやいやいやあっ!!!専務取締役の件はさて置き、弥生の力はこの大和を、そしてこの国を救うに足る力にございますぜっ!逸早く天下に知ら占めるべきでございましょうぞっ!!」
「さっちゃん…。素戔男尊の件はともかく、荒覇吐の一件は背後に何か不穏な動きがあるように思える…。事の次第が詳らかになるまではこの事は伏せておいた方がいいと思う。それに、大神様達が我が声に耳を傾けなかった事も気にかかる事ではあるが…。」
「はぁ…。」
そんなやり取りが行われている中、三方の眼に飛び込んできたものは、荒覇吐の方へと歩を進める弥生(?)の姿であった。
近づき、何事か会話を始めたかと思うと、弥生(?)が荒覇吐の頭を一発激しくどついた。
その光景を目の当たりにし、思わず驚愕する三方をよそに、戸惑い何故か泣きじゃくりながら東の方へと逃げていくように走る荒覇吐。
気がつくと娘が張った結界は消えていて、当たり前のような辺りの静けさが蘇るように耳に届いてきた。
崇神は徐に叫んだ。
「弥生っっ!!!!」
そして、崇神は弥生(?)の元へと走り寄っていった。
その姿に気も留めず、西に方へと視線を浮かべ憂いに溜息をつかせて「素戔男…。」と一言だけ呟くと、意識を失わせ身体は崩れ落ちた。
それを崇神が救うように受け止めた。
その姿を見守るように下弦の月は笑っていた。
大国主の思惑は何か、ここで知ら占められた伊弉弥の立場や否や、大和を舞台に大きな大きな出来事があからさまにされたこのお話。
さてさて、この続きは更なる混沌の渦に巻き込まれていくのであった。
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