第二十二話 オタクの心は人形ちゃんに溶かされる
「そうして、僕は心を閉ざした。その後、両親とこっちに引っ越して来てから出会ったラギ姉と直也さんに少しづつ心を許して行って、中学校を卒業する頃には友達が欲しいと願うまで心は復帰した─」
ここまで話して、僕は一度話を区切る。
アリスさんは最後まで真剣な表情で僕の話を聞いてくれた。
この過去を聞いて、どう思ったんだろう。
やっぱり、重たいやつとか、普通じゃないとか思ったんだろうか。
そんな思いが僕の中を埋め尽くしていく。
なんせ、この過去を喋ったのは、ラギ姉と直也さんだけだ。あの二人は少し普通とずれている関係だったから受け入れられたのかもしれない。友人にはどう思われるのかそれが分からなくて喋り終わってから、心の底から恐怖心が湧いてきた。
また、大切な存在が僕の前からいなくなったら─。
そう思うと、ただただ怖かった。
恐怖心が心を埋め尽くしそうになった時、彼女がゆっくりと口を開いた。
「…まず、私にこの事を喋ってくれてありがとう。大丈夫、私はいなくならないよ」
そういって、彼女は優しく微笑む。
「私が好きになった人は今の君。拓斗くんの過去がどうであろうと私は今の君を嫌いにならない。拒絶しない。その過去のおかげで今の好きな君ができてるのだから。だから、そんな不安そうな顔をしないで…?」
そう言って、膝立ちになって僕の頭に手を伸ばし、抱きしめる。
彼女の心臓の音や、いい匂いや体温がしっかりと伝わてくる。
「ねぇ、聞こえるでしょ?私の音が。大丈夫、私はここにいるから。絶対に離れて行かないから」
「あ…」
「大丈夫、大丈夫…」
そう言って、頭をゆっくりと撫でられる。
少しずつ、心が温かくなっていく、恐怖心がなくなっていく。
「…ねぇ、私は少し嬉しいんだ」
「えっ…?」
予想外の言葉に僕はびっくりて目を見開いた。
この話のどこに嬉しい要素があるのだろうと思い、僕の頭の中で様々な考えが思い浮かんだ。けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「だって、その子との出会いがなければ私と出会うことはなかった。私は多分ずっと一人だった…だから、少し嬉しいなって。だからさ、一人で辛い思いを抱え込まないで?私がいるよ。その子が居なければ出会うこともこうして友達になることもできなかった私が。その子の意志を継いでるわけでも何でもないけれど、それでも、その子がなついたように君を大切に思っている私がここにいる。どんな関係になっても私は拓斗くんから離れて行かない。口でしか言えないし将来の事なんてわからないと思うかもだけど、私はそう思っていよ」
と、子供をあやすかの様にゆっくりと、自分の思いを伝えていく。
「言ってることがめちゃくちゃだけどね、不器用でごめんね…?こうやって思いを誰かに伝えるのは初めてで、どうすればいいのかわからなくて、思いついたことだけしか言えなくて」
そういって、苦笑いをする彼女。
多分、こうして人を慰めたり、励ましたりするのは初めてで、できること、伝えられることを精一杯伝えようとした結果こうなったんだろう。
そうおもうと、また、心の奥が温かくなってきた。
確かに言ってることはめちゃくちゃな所はあった、でも、言いたいことは伝わった。
「大丈夫、言いたいことは伝わった」
「そっか…」
そうして、また頭を撫で始める彼女。
僕はそんな彼女のことをもっと強く感じたいと思った。
「なぁ…」
「ん?なぁに?」
「強く抱きしめてもいいか…?」
「うん、いいよ」
彼女から許可が取れたので、腕を彼女の後ろに回しギュッっと抱きしめる。
彼女の心拍数が少し上がったのが分かるほどに彼女の胸に顔を押し付ける。
アリスさんの鼓動が、呼吸が体温が僕を溶かしていく。そんな感覚になってきた。
多分、僕はもう、彼女がいないとダメになっているんだろう。
僕の過去を受け入れて、それでいて、辛いなら私も一緒に背負うと言ってくれる友人のことが、もう、どうしようもないくらい心の中を占めていた。
「もう夜も遅いし一緒に寝よっか、昼間あれだけ寝たけど、色々しゃべって眠たくなったでしょ…?」
そう言われ、時計を見ると深夜三時を回っていた。
「そうだね、少し疲れたよ」
「じゃあ、電気を消してそろそろ寝よっか」
「そうだね」
そうして僕は電気を消して二人で一人用の小さな掛布団の中に潜った。
僕とは違う温もりを感じる。匂いや体温が暗くなったこの部屋で彼女の存在をはっきりと表し、僕の五感がそれをしっかりと感じ取った。
思ったより疲れていたのか、掛布団の中に入るとすぐに睡魔がやってきた。あくびをして、そろそろ意識がなくなるなと思ったとき、いつもはない温もりが僕の左腕に抱き着いた。
「あのね、いつも、あの、ゲームセンターでもらったぬいぐるみを抱き枕にして寝てて、それで、何か抱き着いてないと落ち着かないから、この体勢で寝ていい…?」
と、そろそろ寝そうな僕に配慮してか小さな声でそんなことを言ってきた。その配慮がうれしく、また心が温かくなった。
「あぁ、いいよ」
「ありがとう」
そう短くやり取りをして、僕は意識を闇の中に落としていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます