第0-16話 合同捜査:船上の異界

━━━━━《斯波視点》━━━━━


 風祭かざまつりさんが最初に、一番最上段に登りました。


 そこで目にしたものは、吠え声を呪文のように練上ねりあげ続ける、片足の無いキマイラだったのです。


 最上段はまさしく、異界でした。


 妖気が、充満していたのです。



 ですがキマイラの様子が変でした。


 こちらには一向に気が付かないのです。


 長良ながらさんも登ってきました。


 まずは、落下防止のザイルを、最上段に結び付ける作業からでした。


 それが終わると、振り向きその異常な光景を、目にしたのです。


「なんだありゃ? 風祭さんアレは一体?」と長良さんがいいました。


「私にも分からん! あの状態でずっと詠唱を止めない上に、こちらに気付きもしない、ここまで近いのに」と風祭さんがいいました。


「アレの上位種でもいるのか? それともただの操り人形にでもなったか。それすらも分からん」と続けられました。


「とりあえず、まだこちらには気づいていないようだから、全員を上げるのを優先しよう」ともいったのですが、警戒は解いていないようでした。


「班長、変なことになってるぜ。ヤツはこっちに気付きもしない」といって長良さんは、手を貸してくれたのです。


「ありゃなんだ? 何が起きてるんだ」と私も、上がりながらいいました。


折神おりがみさんも手貸すぜ」と、いって長良さんが折神さんも引っ張り上げます。


「とりあえず皆、最上段まで上げてしまおうって言うのが、作戦の第一段階だ」と風祭さんが、前を見て相手の様子を警戒しながらいいます。


 折神さんも戦えるようにM29を抜きました。


 将司まさしも上がって来ました、ザイルをつかみしっかりとした足取りで上がって来ます。


 そして上がり切ったあと「アレは一体……」とそれを見て皆同じ言葉をつぶやくのでした。


 佐須雅さんも上がって来ました。


「なんか珍しいことになっていますね」上り切ってP100を構えながら、その様にいいました。


「皆、上がりきったか? アレを止められれば通信障害は直りそうなんだが」と風祭さんがいいました。


 そしてこう続けました。


「ただ、あれに傷がつけられるかどうか定かではない。魔法障壁みたいなものが間にあるんだ。あのすりガラスのようなものがそうだ。一番槍行かせてもらうぞ」というとさっきの四〇ミリ銀散弾をぶっ放したのです。


 しかし本体では無いのか、はたまた吸収されてしまったのか? ヤツもピクリとも動きません。魔法障壁と呼ばれるそれには、傷一つできなかったのでした。


「皆身体の調子は大丈夫か? ここはかなり妖気が濃い、体調に変調をきたしたものは遠慮なく、休憩してもらってていいぞ」と風祭さんがいいました。


「四〇ミリの銀散弾で今の状態ですか。こっちの豆鉄砲では傷がつくとも思えないですね」と将司が絶望的な一言をいいました。


 つまり5.56x45ミリNATO弾仕様の銀弾では、絶望的に近いといったようなものだったのです。

「もうちょっと空気を読め!」というと風祭さんの拳骨げんこつが振るわれたのでした。


 将司のドタマに……。


「イってぇ……」と将司がいいます。



「何かあるはずだ、こんなちょっとしたことで……」と風祭さんが、考え込み始めました。


「何か見逃しが……」と言って将司のほうを見たのでした。


 将司はまだ頭を押さえています。


 確かに達人級の拳骨をもらったのですから、ただで済むはずはありませんでした。


「そうか、真上か真下だ! 筒状になってるものの欠点は真上か真下が相場だ。


「どーやって、真上から撃ち込むかだが……」と風祭さんは、考えています。


「ふと思いつきました、コンテナの中から下側から撃ち抜けば? 真下は無理でも斜め上なら」と私が言いました。


「下か。コンテナの厚みはどうする? 下は多分冷蔵コンテナだ、壁は多分厚いはずだ」と、風祭さんがいいます。


「スラッグでもあればなぁ」と私がいいました。


「スラッグではないが、.44マグナム弾なら有るぞ。鉛玉の方だがな」と折神さんが言いました。



「いっその事、斬ってみては? 意外と斬れるかもしれないな」と長良さんがユラリと立ち上がりました。


「水道の水を切るのと同じ要領だが、一瞬でも隙間が開けばいい訳だ」とかなり自信がある様でした。


「丁度あの流れだと逆袈裟で斬れれば、かなりの広範囲に広がるはずだが」と長良さんが、集中し始めました。


「間髪入れずに、斬りひらいたところに撃ち込んでくれよ、頼んだぜみんな」と長良さんが、いったのでした。


 私はXM8を構えました。長良さんに当らないような位置取りで、全弾ぶっこんで見るつもりです。


 佐須雅さんもP100を構えました。同時に狙えるのは二人まででした。


「これでダメでも次があるからな、思いっきりいってみてくれ。刀は二本あるんだ」と風祭さんもいいました。


「カウントよろしく班長!」と長良さんから言われました。


「カウントスタート!! 五・四・三・二・一・ゼロ!!」


 その瞬間、長良さんが逆袈裟さかげさを実行しました。


 その直後、確かに空間が開いたのです。ゼロの瞬間我々もフルオートで射撃できるだけ射撃しました。


 十数発、中に飛び込み、中のキマイラに銀の銃弾が、突き刺さりました。


 中のキマイラに傷がついたのです。


 しかし残念ながら、それだけでキマイラが倒れる事はありませんでした。


「あと少しか……」中のキマイラも傷つきながら、必死に術を継続しているようでした。


 ヤツがなんでそうするのか分からない位でした。



「丁度。今ここに居るメンバーだけになら、この秘密は教えてもいいかもな」と風祭さんが言いました。



「但しここだけの秘密だからな、口外は禁止させてもらおう。他言は無用ってやつだ……」と、風祭さんがいいました。


「どのみちこいつを倒せなければ我々と、狙われているメンバーには明日は無い。この空間はそういう所だ。ならば全力は見せてもらった事だし私も全力で持って相手をすることにしよう。秘密を口外すれば、死の呪いに捉われてしまう。そういうふうにできているたぐいのものだからな」と、風祭さんがいったのですが、気配がすでに違ったのです。


 周りの皆にも分かるほどの気配の変わりようでした、変貌へんぼうしたといっても過言かごんでは無いのです。


 ただし、禍々まがまがしくは無く、むしろ神々こうごうしいまでに気配が違うのです。


「全員構え。一撃で決めるぞ、どのみちこれは私も一撃しか持たん。斬り込めるやつは斬り込んでもいいぞ、カウントスタート・五・四・三・二・一・断空!!!!」といったその瞬間、空間が縦に割れたのでした。


 キマイラごと、そして射撃可能な全員が射撃をぶっこんだのです。


 歪んでいた空間が、元に戻る反作用で、キマイラが消し飛びました。


 そしてキマイラの幽体に全員の放った銀弾が、めり込んだのでした。


 キマイラはその存在ごと綺麗きれい消滅しょうめつしていました。


 長良さんは今回の攻撃に斬り込みで、参加は出来ませんでした。


 その力が、残されていなかったためでした。


 攻撃終了後その場に気配の戻った、風祭さんが倒れていました。


 将司が駆け寄ります。


「主任!」と叫びました。


 佐須雅さんが、風祭さんの状態を見ていいました。


 医学の知識は、あるようでした。


「脈拍が少し弱っていますが、二・三日もすれば元に戻るでしょう」と冷静にいったのです。


 いつの間にか霧が、晴れていました。


 夜も明けていたようで、もう朝方になっていました。



 ようやく、今になって無線が、復活した様でした。


「全員無事か? 公安九課の大神おおがみ 久遠くおんだ。これより強制捜査を実施する。各員接弦、乗り込め!!」


「公安六課隊員、柾田まさだ 将司まさしです。急患が一人出ました。海上保安庁に、救命救急の要請を致します。ウチの風祭主任を救ってください!!」と叫んだのでした。


 海上保安庁がそれに応じ待機させていた、救急搬送用のヘリで迎えに来たのでした。


 よって公安六課の風祭主任が、一番近い市民病院に搬送されたのでした。



 その報告は六課隊員柾田が行い、公安六課課長に対して最終戦闘にて、精神的に重傷を負ったと報告したのでした。


 その後の活動は一人では無く水上警察の応援組四人と合流し、行方不明者及び目標のコンテナの発見に尽力したのでした。



 公安九課もコンテナの捜索と、テロリストの逮捕の二班に分かれかなり尽力したのでした。


 検非違使八課三班は、無事ヘリポートを死守し、ヘリの防衛に成功したのでした。


 検非違使八課一班は、魔物退治と、コンテナ捜索に尽力しかなりの成果を上げたのでした。


 検非違使八課七班は、合同捜査のメンバーと最終戦闘ラストバトルにまでもつれ込んだあと、コンテナ捜索の方にも回り多大な戦果と成果を挙げたのでした。



 今回の秘密については各員厳守げんしゅするとのことで一致し、検非違使との合同捜査班である、七班の手柄になったのでした。


 最初に斬り込んだ、長良さんに手柄がいったことになりました。



 そののち分ったことですが、シンジケート構成員はまだ逃走中です。


 魔物では無いので脅威きょうい度は低いとみなされましたが、身辺警護は継続ということになったのでした。



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