第0-13話 特別捜査:公安六課魔物対応課

━━━━━《風祭かざまつり視点》━━━━━


「課長、この事件ヤマが最後だ」と、主任の私がいい切りました。


「ウィルエルも九課に移ったようだしな、私も潮時しおどきだ。潮目しおめあやまると二度と奴を追えなくなる……」ともはっきりとした口調でいいました。



「そうかさびしくなるな……」と、公安六課の課長永住ながすみ 義明よしあきが居ても立っても居られぬといった表情でこちらを見て寂しげにいいました。


「その分新人が、五人も入ってくるじゃないか。そいつらをきたえてくれ……」と、銃器ライフル閃光手榴弾フラッシュグレネイドを装備しながら課長に受け返します。


将司まさし、今度はお前が主任になって、新人をかわいがってやれ……。私の様になるなよ、修羅道に落ちたら人間そこまでだからな。私は半身を失ったウィルエルと私の傷の分をヤツに返さねばならないからな、この事件が終わったら六課から離れ、奴を追う」と、将司にいい切りました。


「出るぞ将司、早いことやっこさんの本拠ヤサを見つけないと被害が増える一方だ」とも続けて冷静な表情のままはっきりとした口調でいいます。


「車ぐらいは真面まともに、運転できるようになっておけよ」と追加で言葉をぶつけました。


「準備はいつも、手早くできるようになっておけ、と言ったろう。遅いぞ」というと将司がようやく準備を終えて、車の所にまで来たのでした。


「はい、スミマセン」と将司が力無く答えました。


 彼の装備はSIG553のカービンに、コルトのニューモデル、ダブルイーグルツーと、痛い方のグレネイドといった出立いでたちでした。


 それに加え、私はH&K-G36カービンにM203グレネイダーを付けた上に、Vz61スコーピオンとコルトパイソン357マグナム6inchインチ、にフラッシュグレネイドに小太刀といった凶悪な出立でした。


 しかも銃弾は全て銀弾が標準装備でした。


 殴り込みに行く装備といっても過言かごんでは無かったのです。


 拳銃ハンドガン以外は全て後部座席に置いて、車を走らせました。


 闇雲やみくもに走らず、情報屋のたまり場に急ぐのです。


 時刻は、既に夕方の五時を過ぎています。


 次の被害者が出ても、おかしくない時間でした。


「今回は目撃者が少ないらしいな」と、冷静にはっきりとした口調でいいながら車を走らせます。



 そして、湾岸の対爆たいばく喫茶という名のバーに着いたのは、夕方を過ぎ宵闇よいやみせまる午後八時だったのです。


 G36カービンをライフルケースに叩き込むと、おもむろにフラッシュグレネイドも、ライフルケースに入れました。


 将司も同様に所持していたライフルを、ケースに入れグレネイドも、その中に入れています。


 そして小太刀を右肩にかつぎ、車のドアをオートロックで閉じると、バーに上っていったのでした。


 バーそのものは二階にあるのです。


 情報屋だけでなく、逃がし屋や、要注意人物も集まっていたりするのですが、今回はそいつらには用は無く、目撃者の情報を探しに来たのです。


 バーに入ると、カウンターのいつもの位置に腰かけ、ワンコインをチャージ代わりに渡し、「レッドアイ薄目で……」といつも通りの符丁を注文コールしました。


 将司は入り口近くのテーブル側に座り、薄暗い店内の様子を探っているようです。


 マスターが奥から出てきました、こちらにやってくると「随分ずいぶん物騒ぶっそうな物持ってるじゃねぇか」と、いつもより小声で話しかけてきます。



「なんだ、客でも来ているのか? こちらとら仕事の途中なんでな、標準装備だよ」と答えます。


「客か、言いえて間違っちゃあいないんだが、開店ギリギリに来て奥に入ったと思ったら、突然叫んだりして、困っていたところなんだ。かなり奇妙な客でな」と、マスターがささやきます。



「今日はまた、情報屋の数が少ないようだが、何かあったのか?」と聞きます。


「ソイツのおかげで、情報屋の常連はこの店を避けているんだ。おかげで、商売上がったりだぜ」と、マスターがつぶやくように囁いたのです。



「叫んだのは何時頃だ? それによっちゃあ任意で引っ張れるが……」と静かにはっきりとした口調でいうと、「確か夕方の四時頃だったかな、急にもだえ苦しみだしたと思ったら、結構デカイ叫び声でな、身の毛もよだつような、叫び声だったのはハッキリ覚えているぜ」と、囁くようにいうのでした。


 まるでソイツの耳に入ったら困る、とでもいうようでした。


「ウチとしたら、常連さんが離れて行ってしまっても困るんでな、初見さんには申し訳ないと思って、俺が注意をしに行ったんだが。隅っこから動かない上ににらまれてしまってな、口が出せなかったんだ。普通の目じゃなかったぜ、ありゃークスリやってるヤツの目だ。こんなことを頼める義理じゃないんだが、俺を助けると思って、奴に職務質問しょくむしつもんかけてみてくれないか?」と、マスターがいったのです。



「職質かけるのはかまわんが、急に暴れ出したらどうするつもりだ。取り押さえてしまっても構わんのか? ことと次第しだいによっちゃあ、店が壊れるかも知れないぜ?」といい切りました。


「この際だから言うが、壁に大穴開けてくれなければ、多少のことには目をつむるよ。とにかくやっこさんをなんとかしてくれ、頼む」と、マスターが手を合わせて泣きそうになりおびえ切っていったのです。



 感付かれて、逃げられても困るので、無線を短距離ながら、飛ばします。


「将司、職質の出番だ。一番奥のテーブルに陣取っている奴に、職質をかけろ。バックアップはしてやる」と、小声で高感度マイクに向けて、囁いたのでした。


「それと、撃ち合いに発展する可能性があるから、マスターとバーテンは他の客を逃がせる準備をしておけ、ただの撃ち合いなら、いいんだけどな」と、いって右肩に担いでいたライフルケースを静かにカウンターの上に降ろしました。


 そしてG36カービンを、引っこ抜いたのです。


「ちょっ」と、マスターがいう間に、ストックのロックを音を出さずに外し長物ライフルに戻すと、セレクターをフルオートに、セットしたのでした。


「こういう時のかんは、外したことが無いんだ。奴は純粋じゅんすい妖魔アヤカシだぜ」とマスターにはっきりとした静かな声でいい切りました。


「早く動け職質はフリだけでいいぞ」と、高感度マイクに向かってさらに囁きます。


 将司はその間に、ダブルイーグルツーのセーフティーを外すと、いつでも抜けるようにして、職質をするために奥へ向かったのです。


 警察手帳を相手に見えるようにすると、「こんばんわ、警察のものだ、ちょっと話聞かせてもらってもいいかな?」と、うつむいているソイツに、聞いたのです。


 次の瞬間、ソイツは起き上がると同時に、奥の席から飛び出してきて、右手を大きく振り、将司の胸辺りを切り裂いたのでした。


 ナイフなどは持っていませんが、将司が振り飛ばされて、イスを数個薙ぎ倒しながら、倒れたのが見えました。


「公務執行妨害の現行犯で逮捕拘束する、両手を挙げろ!」というと、将司が起き上がりダブルイーグルツーを、抜いたのでした。


 胸の傷は、防刃チョッキで止まったようでした。


 しかしそいつは、上下左右を見回し逃げる場所がないか、探しているようでした。


 そこに私のライフルからの、レーザーポインタが当たりました「逃げるなら、指名手配も追加する」と冷静な表情のままハッキリとした口調でいったのです。


 しかし奴は聞いてはいなかったようすで天窓に向かって大きく飛び上がろうとしたので、飛び上がった瞬間を狙って奴の腹に問答無用でフルオート射撃を一斉射したのでした。



 十数発アサルトライフルから銀の銃弾が弾き出されほぼ全弾が命中しソイツは、吹き飛ばされ壁に叩きつけられました。


 多少の血は出た様ですが、まだピンピンしているようで平気で起き上がって来ます。


 そして四つんいで起き上がると、みるみるうちに妖魔に変貌へんぼうしていったのでした。



 頭は二つライオンとヤギ、胴体もライオン、尻尾に蛇が、生えていたのです。


 キマイラでした。


 ただ、まだそんなに大きくは成長して無いようでした。


 全長でいうと、三メートル程度だったのです。


「中型か、まだ人の言葉は分るな。まだ今なら、痛いのは勘弁しておいてやる。人型に戻って大人しく逮捕されろ!」と入り口側から、大声で警告しました。将司もじりじりと、離れていきました。


 将司は奴が変貌している最中に、SIG553に持ち替えたのです。


 私もサングラスを出して、かけました。



「ゴアァァァァ――」と、ライオンの顔が吠えました。


 ヤギの顔がいいました「人間風情ふぜいれ合いはせん、死ぬがイイ」と……。



「マスター、他の客を退避させろ、暴れさせてもらう」と、私がいいました。


「ヒィィィィッ!」とマスターが悲鳴を上げた後、さらに叫びました「全員退避ーっ!!」と――。



 私が「せん」と符丁を叫びながら、フラッシュグレネイドをキマイラの顔面目掛けて思いっきり投げつけたのです。


 触発式フラッシュグレネイドは、キマイラのヤギ面に当って大きくはじけ閃光をまき散らしました。


 これが戦闘の合図になりました。


 私はサングラスをかけていたので、フルオート射撃をそのままライオン側の顔面に叩き込んだのです。


 その一斉射はまたもやほぼ全弾当たり、ライオン側の顔は一瞬にして血塗ちまみれになりました。


 将司はSIG553を、三点バーストモードにして、腰だめで撃っていました。


 残弾が少なくなったG36を一旦置いて、マーカーを埋め込むべくコルトパイソンを引っこ抜きました。


 初弾と二発目には、銀の弾を媒介ばいかいにした、信号弾マーカーを入れてあるのです。


 将司が牽制から、制圧射撃に切り替えた様でした。


 よく狙うと、首筋目がけて一射しました。


 当たったとは思いますが、予備に一発残して一旦コルトパイソンをホルスターに戻し再びG36を取ると残った七発をフルオートでヤギ側の顔面に叩き込みました。


 相手はまだ悠然ゆうぜんと立っています。


 幻影か本物かどうかわからなかったので「M203」と符丁でいうと、顔の合間の胴体目がけて発射しました。


 将司が急ぎ転がって退避行動を取り、壁のくぼみで爆風を避けました。


 その間にSIG553のマガジンチェンジを行った様です。


 流石さすがに今の一撃は痛かった様で、大量に血を流していました。


 特製のグレネイド弾ですから、当然です。


 銀の破片が飛び散る様に、仕組しこんであるのです。


 銀製のデカいハンマーで殴られるのと変わらない一撃が、入った様でした。


“クッ”と、ライオンの顔がゆがみました。


 足元はもう、ふらついています。


 奴が翼を背中から生やしたのが、分かりました。


「逃がすか」といいつつ、コルトパイソンを引っこ抜くと軽く浮遊し天井スレスレまで上ったキマイラの胴体目がけて三連射(マーカー一発と銀芯の徹甲弾二発)しました。


 いずれも命中し妖魔の血が飛び散ります。


 ここで仕留めてしまっては、マーカーを撃ち込んだ意味がありません。


 将司も分かっているようで、攻撃はしかけていますが散発的で、弾が少ないような素振そぶりを見せています。


 大きい天窓まで誘導する必要がありました。


 危険でしたがG36の弾倉を交換すると。


 大きい天窓の直下でワザとフルオート射撃を見舞ってやります、それもほとんど当たっています。


 ど真ん中を外しているので、多少壁に被害が出ています。


 足の一本でも手土産にすれば、良いくらいです。



 小太刀を左手で抜き切りました、妖魔一筋の刀匠が鍛えた業モノです。


 急ぎキマイラが逃げるべく、こちらに飛び掛かってきます。


 右の前足を振りかぶってこちらに攻撃しようとしているところに「そこだっ!!」と相手の振り払う攻撃を見切り小太刀の剣線を差し入れ、キマイラの右前足を斬り払い落とします。



“グギャァァァァァァァ!!!”と、ライオンの顔が叫びます。



「この恨み覚えておけ――っ」と、ヤギの顔が叫びました。


 キマイラは、大きい天窓を突き破ると、一気に逃走しました。


「将司は、キマイラの腕を確保、頼んだ」といって、ライフルケースをひっつかむと、車両まで一気に、駆け降りて行きました。


 車両のロックを外すと専用の車載無線で「六課応答願う、対象にマーカーは撃ち込んだ対象を追跡してくれ。急ぎだ!!」と一気にまくしたてるように話します。


「対象は右前脚が無い、こっちで斬り落とした。例の対爆喫茶バーまで鑑識をよこしてくれ、こっちも急ぎだ!」と追加で切り出しました。


……


 それから三十分後、対爆喫茶バーに、捜査班が到着しました。


「こちら将司、鑑識にキマイラの右腕を引き継ぎ、直ぐに降ります」と将司から報告が入ったのでした。



「追跡班より嵐主任へ、対象は神戸港沖に停泊中の大型貨物船に降りた模様。対象の移動は、それ以降無い」と通信が入りました。


「追跡班へ、大型貨物船の船籍と運用会社調査と出入り用の令状を取ってくれ。急ぎで! 必要なら、水上警察にも応援を頼め」といいました。


「追跡班了解、水上警察にも応援を頼むのが良さそうだ」という答えが返りました。


「あと合同捜査中の各部署に連絡も頼む。特に検非違使けびいしに連絡は忘れるなよ! あちらの方が我々よりも装備も人員も揃ってる」と忘れぬように追加しいいます。


 事実でした。


「必要なら海上保安庁に連絡して巡視船を出してもらえ、海上で逃げられても困る」と私はいい切りました。


「乗り込むのは我々と検非違使で行うむねを伝えてくれ、船の臨検りんけんは海上保安庁の方が上手じょうずだ。大掛おおがかりになるが、もうすでに大掛かりだ。我々が動いている段階ですでにな」と追跡班にはっきりとした口調でいいました。


「追跡班了解、課長に許可を取る」と返答が来たのです。



「追跡班より嵐主任へ、課長から許可は下りた。課長が今根回ししてくれている。海保のほうまで、ゲキが飛んだらしい」という通信が入りました。


「了解した、装備を整えに、一旦帰投する。追跡班は奴が、再び移動しないか監視しておいてくれ」と追跡班に冷静な表情のままはっきりとした口調でいったのです。


 将司が降りて来ていました。


 後部座席にライフルケースを置いているようでした。


 私も小太刀を納刀すると、ライフルケースにG36カービンをしまい込み、M203に予備の特製グレネイド弾を入れたのでした。


 さらに357マグナムに銀芯の徹甲弾を揃えて入れていたところへ、バーのマスターがやって来たのでした。


「嵐さん、本当にありがとう。奴が化けた時、生きた心地がしなかったよ。モノは直せば復活するけど、人間はそうはいかない。本当にありがとう」ともう感謝して感謝できないくらいの表情にしっかりとした口調でいわれたのでした。


「そりゃそうだ、マスターが居なくなったら困るからな。この一仕事が終ったらフリーになる予定だから、色々物入りになるんだ。よろしく頼むよマスター」と答える事にしたのです。


 将司がいいました。


「あの話、マジだったんですか。てっきりいつものおしかりかと思っていたんですが」とビビったように将司が反応しました。


 それにはこう答えたのでした。


「今度は将司が、主任をやって見るといい。言うまでもなくそうなる。これは決定事項だ!」とはっきりとした口調でいい切りました。


「この小太刀以外は、置いて行くことになるからな、誰かが使うなら使えばいい」ともいったのです。


「さて追い込みだ、マスターではお互いにご安全にだ。ちょっと部署まで戻らねばならんからな。ではまた会おう」といって手を挙げると、車を走らせたのでした。



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