第0-10話 身辺警護:学校編:転校生

━━━━━《美空みそら視点》━━━━━


 少し不安でしたが由良ゆらさんといったん別れました。


 とは言っても時間にすると三十分あるか無いかの時間ですから、多分大丈夫かと思いました。


 何かあるとは考えにくかったのでした。


 ですが、その考えが甘かったと思い知らされるのは少し後の事だったのです。


 先に教室まで行くことにしました。


 すると誰かに見られているような視線が発生したのです。


 ですがジロジロ見まわされるような、められるような視線ではありません。


 むしろ監視されるような、きびしめの視線でした。


 廊下には防犯のためのカメラがいくつか存在し、どうやらそれに何か入った様でした。


 しかし厳しめの視線ではあるものの、敵意は余り感じません。


 廊下を走る意味はありませんでしたが、気持ちはよくないので走って教室まで行くことにしました。


 すでに登校時間の早い子は、もう教室内に来ていました。


「おはようございます」としっかりとした声でいって教室に入ると、「おはようございます。昨日は大丈夫でしたか、風邪を引いたとお聞きしましたが」と少し心配そうな表情に優しい口調で近くまで来てくれました。


 親友の牧村まきむら 加奈子かなこちゃんでした。


 小学校からずっと一緒で離れてもせいぜい隣のクラスというくらいの近さでしたので、とても仲良くしてもらってる子です。


 そして加奈子ちゃんは、学校一の美人さんで有名です。


 ただ今のところ彼氏とかはいないのでフリーなのですが、お父さん子なので彼氏ができ難いというのが実情の様でした。



「はい、風邪の方は治ったのですが……」と言葉をにごすと、さっしていただけたようでした。


 実はこの加奈子ちゃんも、不思議なことに巻き込まれやすいという体質の持ち主なのでした。


「つまり、ただの風邪では無いのですね」と加奈子ちゃんは、より心配そうな表情になり一段と柔らかい口調になっていました。


「えぇ……詳しいことはまだ話せませんが、狙われているかもしれないのです。不思議なことが起こるかもしれないので、少し離れていた方が良いと思いますよ」と私はその優しさに答える事にしたのです。



「いままで守っていただいてばかりで、また今回も何もできないのですね」と寂しそうにいってくださいます。


「いままでのモノとは毛色が違うようなので、巻き込みたくないんです」と私は答えることにしました。


 加えて彼女には例のことを伝えることにしました。


「その対策は既に打ってあります。ですが異例の事なので少々驚くかもしれません。そっと眺めていてください、今回は私自身の力ではどうしようもありませんでしたから、応援を呼んであります」と静かに打ち明けました。


「分りました、少しながめさせてもらいますね」という穏やかな表情に静かな口調で答えが返ってきました。



 私の席はクラスの中でも窓側最後尾まどがわさいこうびでクラス全体が見渡せ、クラスのだれが来てないとかいうのは直ぐ分かります。


 出席番号の並び順でこの様になってしまうのです。



「学校内でも怪しいのです。カメラが強奪されている節がありますので、監視カメラは信用できないのです。ですので、そちらの方はあまりジロジロ見ない方がいいですよ」とも静かにですがはっきりとした口調でいうことにしました。


 噂好うわさずきの学生たちがやってきました。ウワサの内容はバラバラ殺人事件の内容でした。狙われているのは、どうやら若い学生らしいということでした。しかも中高生の様だとの話が流れてきました。


 それなりに静かに話してトーンを落としてしゃべっているこちらと違って、ハイトーンで周囲に誇示こじするかのように話すのです。


 なのでウワサは筒抜つつぬけなのでした。


 逆にそれで周囲の耳目じもくを引き点ける狙いがあるのかもしれません。


 ウワサを集めている子の父母は、報道関係の仕事をしているらしいのでそこかられたのかもしれません。



 噂好きな子でも、まだ転校生がやってくるという噂は知らないようでした。


 この噂は知られていると困るたぐいの噂でしたから、逆に知らなくてよかったと胸をなでおろすことにはなりました。



 しかし、バラバラ殺人事件の被害者が若い中高生ということに、引っかかりがありました。


 狙われている年代と私のとしかぶるということです。


 これは偶然でしょうか? あのねぶられるような視線と同質のモノだとしたら。と思うとぞっとします。


 それに魔物が関わっているとしたら……と思うとまだ検非違使けびいしには入っていないのですが、不思議と止めなくてはならないという思いが起こりました。


 それが正義感というたぐいのモノ、なのかはわかりません。


 そんな気分がしました。



 時間は既に朝のHRホームルームの時間になっていました。


 ほとんど全ての子が来ています。


 欠席の子は一人だけいました、藍姫あいひめさんです。


 流行り病らしいのでした。


 そして私の後ろに席が、追加されました。


 ここに温羅さんが来るようです。


 担任の末永すえなが マリ先生が入ってきました。


 二十代の若い先生ですが、比較的親しみやすく教師としても尊敬できるし生徒からの相談にも気軽に乗ってくれる先生として、学校で一、二位を争う人気の先生です。



 朝恒例こうれいのご挨拶あいさつが終わると、いきなり本題に入ってきました。


「今日は急ですが、転校生を紹介します。温羅うら 香織かおりさん、入って来て下さい」と先生がはっきりとした口調でおっしゃいました。


「ハイ」と綺麗きれいなハッキリとした声が聞こえ、温羅さんが教室に入ってきました。


 それだけで、男子がざわつき、女子からは感嘆かんたん溜息ためいきがもれました。


 彼女はそれだけインパクトがあるのですから仕方がありません。流れるようなプラチナブロンドの超ロングストレートヘアで前髪はいつものM 字から斜め分けに切り替えており更に美人を際出きわだせていたのです。


 その上に所作しょさまで優美ゆうびなのです。


 更に対比で付けている漆黒しっこくのカチューシャが、際立きわだって目立っているのでした。



 先生が黒板に、温羅うら 香織かおりと書いていました。振り仮名がなも振っていました。


 そして転校になった事情も、先生が話をえました。


「温羅さんは心臓に難病を抱えていて、それの治療のために急だけど神戸の市民病院に転院になったの。でも今は症状が落ち着いてきたから、本人の希望もあって学業の遅れを取り戻すべく転校という形になったのよ。病院からでは遠いから今は遠縁の親戚である、神無月さんのお家から通っているの。自己紹介じこしょうかいをどうぞ」と、先生が手短にはっきりとした口調でおっしゃいました。



「温羅 香織と申します。東京の八王子にある学校から、転校してきました。得意な科目は家庭科と英語で、苦手な科目は体育なの、座って見て居ることしかできないから。少しの間だけだけれども、よろしくお願いしますね」と由良さんがみんなの前で一礼をしながら、おっしゃいました。


 その瞬間、男子から喝采かっさいの拍手が送られました。


 女子からも負けた感のある、拍手が送られたのでした。


「このクラスの女子はハイレベルだな――」という男子も居たりして少しざわつきました。


「えっと席は、神無月さんの後ろね。神無月さんは温羅さんのサポートよろしくね」と先生がはっきりとした口調でおっしゃったので「はい、分りました」と笑顔で同じようにはっきりとした口調で返答することにしました。



 体が弱いというか心臓に難病を抱えているという宣言が先生からあった為か、脚を出したり邪魔をするようなやからあらわれませんでした。


 席まで無事に辿たどり着くことができたのです。


 仮にそんなことがあったとしても、いなされてしまったとは思います。



 あとは百六十五センチの長身とも合わさってモデルさん並みのインパクトがあったのでした。


「改めて、よろしくお願いしますね。美空ちゃん」と温羅さんが席に着きながら、おっしゃいました。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。香織さん」と私も後ろを向きながら答えました。



……


 一時限目は英語でした、英語担当教師の須加すが先生もしたくほど、温羅さんの発音が良いのです。


 一般的になっている米語べいごでなく、完全に本式の純正英語キングズイングリッシュなのでした。


 得意というだけはあり、先生もたじたじだったのです。



 そのためか、一時限目の休み時間は温羅さんの机の周囲は人であふれかえりました。


 そこで整理に私が乗り出し、質問は一人二個まで重複した質問は受け付けない。


 というルールをいたため、しばし長い列ができたのでした。


 温羅さんも質問には丁寧ていねいに受け答えしており、特に際立きわだって変な質問は飛んで来ず問題はなかったのでした。


 前の学校の事も聞かれてはいましたが、全ての日を病院で過ごしていたことなどを伝えると聞いた人が謝ったりするような光景も見られました。


 一時限目だけに収まるはずもなかったので、続きは二時限目の休みにということにしてみんなも二時限目の用意をしだしました。


 二時限目は数学で中学の数学はもう終わっているということもあり試しで当てられてもいましたが、そつなく答え特に問題の無いということを示したりしていました。


 苦手ではないイコールできないのではない、というのを証明した様なものなのでした。


 二時限目以降も同様に、三時限目の休み位までに列はつながりましたが、特に問題はなくさばき切ったのでお昼は普通に食べることができました。


 お昼は加奈子ちゃんも加わり、一種の異空間を創ったのでした。


 結界は張った覚えはありませんでしたが、おいそれと誰も寄り付けないような空間の様でした。



 そこで、今朝に監視されるような視線が合った事を、伝えました。


「短時間でも一人になるのは、けた方がいいね。何かあってからでは遅い。三十分くらいならならと考えたのが甘かったか、今もその視線はある?」と、由良さんが表情は穏やかなまま静かなはっきりと聞き取れる声でおっしゃいました。


「今のところはありません。香織さんがいるときは、発生しないようです」と私は静かな口調で答えました。


 事実今のところは、その様な視線は発生していないのです。


 それがすごく不思議でした。


 カメラは乗っ取るのに、それ以上のことはほとんどして来ないのです。


 今は香織さんを警戒しているのか、カメラは通常の状態の様です。


 この前の緑色の化物も、視線の主とは違う様な気がします。


 愉快犯ゆかいはんでもない様な気もします。


 しかしながら、ねぶられるような視線は、見られていて気持ちの良いものではありません。


 そのように感じるのです。


 私の感覚が鋭いだけだといったらそこまでかも知れませんが、明らかに人間の発する視線では無い事が分かります。



 狙う者の検討を付けているグループがあるのかもしれませんが、新たに分かった情報若い中高生が主体になっているというところが妙に引っかかりました。


 なぜ若い者を狙うのか、そこに秘密が隠されているような気がしたのです。



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