223 勝敗
「うーん、どうしたもんかな」
ネスとの面会を終えた3人は、近くの酒場にて作戦会議をしていた。
「何事にも無関心である怠惰な王が、あそこまでお主を目の敵にするとは……間者を皆殺しにされたのが許せなかったのか? それとも、何か心当たりはないのか?」
「いやぁ、僕には全く見当もつかないよ。あんなに長い条約を考えるなんて、全然怠惰じゃないよね」
特段新たな解決策を模索しているわけではないので、作戦会議というよりは愚痴に近いかもしれない。
「私、あの王様が嫌いだわ。靴を舐めろだなんて、いくらなんでも失礼だと思うの。あの人の靴はとびきりのスイーツでできてるのかしら。それとも頭がスイーツなのかしら」
「わしも好かん。ぶくぶくと太った容姿はそれだけで見苦しい。自分の体も管理できぬのに、国の王とは笑わせおる」
珍しく怒りを露わにしている女性陣に、アンリはまぁまぁと諭しだす。
「そりゃ尤もだけどね。怒っても良い事なんてないよ。馬鹿と喧嘩をするだけ、損するのは自分だからね」
それでも二人は怒りの感情を抑えきれない。
アンリとしては条約の締結まで時間を稼ぐことには成功したので、予定通り先にネスを始末すればいいだけの話しだ。
だが二人が、特にシュマがここまで怒っていると、予定通りにプランが進むのか心配していた。
どうしたものかと悩んでいると、酒場にいた別の客が近づいてくる。
「難しい顔をしているネ冒険者達」
その客は一人だというのに、ドンッとジョッキを4つアンリの机に置いた。
「ほら、一杯ご馳走するヨ? 苦しい時はリフレッシュが大事だからネ。飲みたまえ、君達の未来は明るい」
男がアンリの肩にポンッと手を置いた時、アンリは驚きから一瞬声を失った。
それは、他の二人にしても同じだった。
20代後半に見えるその男は、笑顔ではあるが目つきは鋭く油断ができない。
それでも軽くパーマが掛かった青色の髪は、男の印象を多少柔らかくしていた。
「あなたは──」
顔を見るのは初めてではあるが、その独特なイントネーションと雰囲気から、アンリ達は目の前の男の正体が直ぐに分かった。
「──”仮面のオズ”……さん?」
オズはニヤリと笑うと、人差し指を立てて口元に置く。
逆の手では、以前会った時に着けていた仮面をちらつかせていた。
「偉大なる魔法使いと呼ばれる方が好きだけどネ……秘密ダヨ? やはり君は運がイイネ、私の素顔を見た人はそういないんだヨ? ほらほら、乾杯!」
「まぁオズさん、また会えて嬉しいわ。うふふ、乾杯!」
オズはジョッキを合わせると、そのまま席に座り飲みだした。
シュマが喜んでいるので、勝手に同席したことを咎めることなくアンリはオズに話しかける。
「ねぇオズさん、僕はあなたを確実に殺したはずなんだけど……なんで生きてるの?」
よっぽど聞いてほしいことだったのだろう。
オズは眼を輝かせて、大げさにポーズを決める。
「ふふ、<
大声を上げ激しく動作するオズは、当然ながら周りから注目を集める。
正体を秘密にする気があるのかとアンリは訝しんだが、直ぐに酔っ払いの奇行と判断されたのか、周りからの視線はどんどんと外れていく。
「さぁ
そう言うオズの左手には、いつの間に盗ったのか、赤いコサージュが握られていた。アンリの胸元に着けていたものだ。
オズを殺せばアンリの勝ち。アンリの花を奪えばオズの勝ち。
油断を付きコサージュを手にしたオズは、勝利の笑みを浮かべる。
「さぁ、何か魔法具を頂くヨ? 君ほどの男だ。その本以外にも何か持っているんだろう!?」
余程楽しみなのか、オズは戦利品に期待を抱き、両手の指をわきわきと動かしている。
不平等なルールといえ勝利は勝利。約束通り、魔法具を貰うつもりだ。
「あはは、いや、僕負けてないけど?」
だが、当のアンリは敗北を認めない。
「アハハハハ! 何を言っているのかネ
「いやいや、オズさん、何か勘違いしていない? 僕は”花を獲られたら負け”だと聞いたけど?」
話が噛み合わないことにオズが首を傾げていると、アンリはカスパールとシュマの肩に手を置き抱き寄せる。
「僕の花。つまり、キャスとシュマを獲られたら負けってことだよ? そんなちっぽけなコサージュじゃ、オズさんの命とは釣り合わないでしょ?」
これに、オズは固まった。
オズは花をコサージュと認識していたが、そこは両者で定義づけをしていない部分だ。
ならば、アンリの暴論かと思われる理論に反論することは難しい。
論破したとしても、最終的に魔法具を差し出すのは本人であることを考えれば、反論することは無意味だろう。
「成程……確かに
「──あぁそうさ、勝負はまだ終わっていない」
アンリとオズは、お互いを睨みあった。
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