216 竜王1

 分離スル漆黒剣ウィザーリシュン


 その剣はアンリの言葉通り、バアルの光鉄剣イザナミとヘルの短剣を参考にすることで、魔力を斬ることに成功した。

 カスパールが感知した何かは、不可視の結界によって守られていたが、剣により一刀両断されその効力を失った。


「お、斬れた斬れた、けど……あははは」


 アンリは目の前の光景を見て、苦笑いする。


 分離スル漆黒剣ウィザーリシュンの能力は、魔力を斬る以外に元々別に備わっている。

 魔力を込めれば込める程、重さと切れ味が上がるというものだ。


 アンリが振ると同時に膨大な魔力が込められた剣は、地球上で一番の重さを誇る物体となった。

 その分、剣の速度は速くなり、重さと速度に比例して生み出されたエネルギーも莫大なものとなる。


 無茶なエネルギーを生み出す剣だが、当然人間の体はそこについていかない。

 だが、アンリの右腕は負荷がかかりボロボロになるも、全自動回復魔法フルオート・リジェネにより何も無かったことになる。


 正に、アンリ専用の武器であった。


「あはは、うーん……どうしたものかなぁ……」


 今回の問題はアンリの体そこではない。


 威力が高すぎたのだ。


 分離スル漆黒剣ウィザーリシュンは結界を破壊すると同時に、レッドドラゴン6頭の命を奪った。

 それはいい。放牧を始める前に何頭か味見をする予定だったので、卸す手間が省けただけだ。


 分離スル漆黒剣ウィザーリシュンは、勢い余って底の見えない地割れを作った。

 それもいい。他国の領土を傷つけてもアンリには全くの支障はないし、これからいくらでも傷つける予定の地だ。

 地球の傷口は数キロの深さになっているとはいえ、流石にマントルにまでは達していないので、星の寿命を縮めることにはならないだろう。


「えーっと……斬る物は斬れたし、成功だよね?」


 アンリの言葉に、カスパールはこめかみを押える。


「斬らなくてもよい物まで斬ってしまったがな……」


 この場の全員が問題としたのは、アンリの目の前に転がっている物だ。

 分離スル漆黒剣ウィザーリシュンは不可視の結界を斬ると同時に、結界によって守られていた宝箱を、中身の指輪ごと真っ二つにしていた。


「そういえば聞いたことがある、竜の巣のどこかに財宝があるとな。伝説などともてはやされておったが、その宝自体を見た者はおらぬ。ただの与太話かと思っておったが、まさかここがその噂の元か?」


「火の無いところに噂は立たないってことだね」


「その火はたった今、消火されてしまったわけじゃが……」


「いやぁ、この宝箱も空気を読んでほしいよね? これが宝箱じゃなくて桃だったら、中身まで斬られることはないのになぁ」


 アンリのよく分からない言い訳を聞きながら、シュマは真っ二つとなった指輪を拾う。


「わぁ、とても綺麗だわ、これ。この宝石、魔石かしら? これは傷ついていないから、問題は無いんじゃ……あら? あらあらあら?」


 指輪だった物を手に取ったシュマは、珍しく驚き周りを見回している。


「あらあら、凄いわ! 私はシュマ! シュマっていうの! ごきげんようドラゴンさん達」


 かと思いきや、シュマはスカートの両端を摘まみ竜を相手に挨拶を始めた。

 まさかと思い、カスパールはシュマから赤色の魔石を奪う。


「こ、これは……そんなことが……成程、これは確かに伝説通りじゃ! アンリ、これを持ってみろ! これは皇たるお主にこそ相応しい一品じゃぞ!!」


 カスパールは、アンリに伝説の説明をする。


 今では切断されてしまったが、指輪だったものは”竜王の指輪”と呼ばれる魔法具だ。

 竜の巣の中心に存在する指輪を入手することは、竜を超越した証明となる。

 よって、その巣の竜は、指輪を持っている人物に忠誠を誓うようになるのだ。


「更にな、これは伝説にはないものじゃったが、ドラゴンの声が聞こえ、意思疎通ができる! これだけ屈強なドラゴン達が忠誠を誓ってくるのは、なかなか壮観ぞ! いやぁ、気持ちのいいものじゃ! アンリ、お主も体験してみたら分かる!」


 興奮したカスパールは、魔石をアンリに手渡した。

 その瞬間、アンリの耳にもレッドドラゴン達の声が聞こえてくる。


”助けてくれぇえ! 誰かぁぁぁ!!”

”何ということだ……我ら赤竜は終わりぞ……”

”ご慈悲を! どうかご慈悲を!!”

”殺してくれぇ! 俺を一思いに殺ってくれぇぇぇ!!”


 カスパールから聞いていた内容とは、少し違った内容であった。

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