215 竜
オズの復活を諦めたアンリは、当初の目的通りレッドドラゴンを捕獲することにした。
竜の気配を追っていけば、簡単に巣と思われる場所にたどり着いた。
「<
アンリが呟くたびに、レッドドラゴンが1頭ずつ地上に落ちる。
高められた重力に逆らえず地上に張り付いている竜は、まるで蝶の標本のようだった。
その数が300を超え、”落ちろ”というワードにゲシュタルト崩壊が起こりそうになった時、ようやくアンリの望んだ標本が完成した。
「<
竜の巣を見つけた時、始めにアンリは一気に竜を落とそうとしていた。
だが、成体を張り付けにする程の重力を加えると、幼体が今にも死にそうな悲鳴をあげた。
折角の貴重な食材が太る前に死んでは大変と、アンリは慌てて加重魔法を解除する。
その後、怒り狂った竜を相手にいくつか方法を試すも、ひ弱な種族を殺さずに捕獲する方法は、今のように一体一体調節して落とすという、アナログなものしかなかった。
「さぁ、こっからどうするかなぁ。このままエリュシオンに転送したら、やっぱり向こうはパニックになっちゃうかな?」
「お主の魔法で従属させればよいのでは? ほれ、<
アンリは目の前に落ちている竜を触り、残念そうに首を振る。
「いやぁ、流石はドラゴンというべきか、少し難しそうだね。生命力を削ればいけそうだけど、あまりやりたくないなぁ」
アンリはレッドドラゴンを、下僕ではなく食材として見ている。
その為、ストレスを与えることはなるべく避け、少しでも肉の品質を良くすることに意識を置いていた。
アンリはシュマに視線を送るが、シュマは残念そうに眉を下げる。
「ごめんなさい
「あはは、謝ることはないさ」
これは、アンリの想定通りだった。
”色欲”で従属させる条件が”異性であること”であれば、流石にシュマが竜を異性と思うことは難しいだろう。
「うーん、少し勿体ないけど<
「ふむ、ドラゴンの成長はお主ら人間ほど早くない。永遠を目指しているお主なら別に良いのかもしれんが……そういえばドラゴンは人間と同等以上の知能を持つという。なんとか会話を成立させればエリュシオンに移住することも引き受けてくれるかもしれんぞ? アンリ、お主の魔法でドラゴンと意思疎通を図れんのか?」
「相手の言語のデータベースがあるなら簡単だけど、竜語なんて分からないし難しいかな。21世紀のアイテムでは、未知の言語とも翻訳が可能なコンニャクがあるんだけどね。いや、実際の21世紀は大した進歩はしていなかったけど──」
アンリのよく分からない説明を聞き飛ばしていたカスパールは、ふと巣の中心部分から不思議な魔力を感知した。
「──だからね、みんな未来に期待し過ぎてる節があるんだよ。あぁ、そういえばキャスのお友達に
魔力を感知したのは、魔力の流れをよむことに長けているカスパールだけだった。
真剣な様子で一点を見つめている彼女に、アンリは再度声をかける。
「ねぇ、どうしたのさキャス。何か用事を思い出したのなら、エリュシオンに戻っててもいいよ?」
「ん? あぁ、すまんの。……アンリ、お主はそこに何か感じぬか?」
カスパールの視線を辿り、アンリは中心部に向かって歩く。
だが、カスパールのように魔力を感知できないので、これといった違和感はないようだ。
「あぁ、その辺じゃ。いや、もう少し右……右……行き過ぎじゃ、そう、もう少しだけ前──」
見かねたカスパールは、スイカ割りさながらに指示をだす。
直接指さしてくれたら直ぐに終わることではあるが、アンリは童心に帰り今の状況を楽しんでいた。
「──そう、そこじゃ! お主の目の前に、何かがあるんじゃが……」
立ち位置を決めたアンリは、漆黒の剣を頭上に掲げた。
魔王ジャイターンの首を刎ねた例の剣だ。
「あはは、
アンリは力と魔力を込め、
アンリは自身に身体強化をかけているとはいえ、カスパールやシュマのように身体強化魔法を使いこなしてはいない。
そのため、振り下ろすための力はたかが知れているものだった。
だが、結果はそうではない。
────ズン
重い衝撃と共に、暴風が渡りソニックブームに似た爆音が響く。
目の前の何かを斬るために振るわれた
それと同時に、直線軌道上に張り付けられていたレッドドラゴン数体の命を奪い、底の見えない地割れを作ったのだった。
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