212 偉大なる魔法使い2

 アンリ達が話している間も、オズとレッドドラゴンの戦いは続く。


 ダメージを受けて怒り心頭のレッドドラゴンは、そのスピードを更に上げオズに突っ込んだ。


 ドォォォン! と轟音が鳴り、土煙が舞う。

 獲物をしとめたとドヤ顔を決めていたレッドドラゴンの背後から、また大きな声が響き渡った。


「アハハハハハ! <幻想と幻覚の世界シュールレアリスム>! か弱いトカゲ君よ、幻想の勝利の味はいかがかネ!?」


 確実に息の根を止めたと思っていた人間が再度現れたことに、レッドドラゴンは初めて動揺を見せた。

 先ほどまでの猪のような突進は止め、炎のブレスを吐くべく肺に空気を溜める。


「アハハハハハ! 隙だらけだよトカゲ君! さぁ、そろそろフィナーレといくヨ! アブラカタブラ! <竜殺しの雷プレステージ・サンダー>!!」


 轟音とともに、大きな稲妻が落ちる。

 その威力は凄まじく、レッドドラゴンの息の根を止めるには十分だった。

 オズは残る3頭を屠るべく、アンリ達の方向を向く。

 だが──


「あはは、凄いね。流石にバアルの雷鉄剣スサノオには及ばないけどね」


 ──そこには、加重魔法を浴びたレッドドラゴンが3頭、なすすべもなく跪いていた。


「なっ!? 君は名もなき冒険者……ではないのかっ!?」


 驚いているオズを無視し、アンリはメルキオールに質問する。


「ただの魔法であんなに威力を高められる? ”憤怒”で自分の魔法に干渉できるなら分かるけど……もしかして、彼は大罪人なのかな?」


「大罪人かどうかは断定できませんが、あの威力のからくりは別のようです。先ほどの<虹色の弾丸レインボー・シュート>と同じですね」


 もしオズが大罪人なのであれば直ぐにでも首を刎ねるため、会話の必要はないと思っての質問だった。

 だが、先の魔法が一応は正攻法だったと知り、大罪人と断定するのは早計だと判断した。


「あぁ、成程。オズさん、だっけ? 凄いね、あの威力の雷を落とすには、一体いくつの<敵穿つ雷光サンダーボルト>を重ねたの?」

 

 自身のオリジナル部分を直ぐに看破されたオズは動揺するも、不敵に笑う。


「ふ、ふふふふ、君こそ凄いじゃないか! レッドドラゴンが3頭、まるで相手になっていないネ! 人を超えた魔法の力! 幼い容姿! にも拘わらず抑えきれない死の臭い。そして私には見える、溢れ出る確かな強者のオーラ!!」


 オズは両手を広げながらアンリを見据えた。


「君が、最近噂に聞く死ノ神タナトスダネ!? 史上初のSSランク冒険者、死ノ神タナトスダネ!?」


 ポーズを決めているオズの後ろで、また大きな花火が上がる。

 過大な演出にシュマは喜ぶが、アンリはその部分は無視することに決めた。


「あぁ、不本意だけどそんな二つ名を付けられてるね。そういうあなたは、Sランク冒険者のオズさん? えっと、なんでも偉大なる魔法使いだとか」


「そう! そうだヨ! 私こそが偉大なる魔法使い、”仮面のオズ”!! こと魔法において、私の右にでる者はいない! だがね──」


 オズはアンリを指差した。


死ノ神タナトス! 君も魔法が得意らしいネ!? 耳に入ってくる噂はどれもそそられるものばかりだった! 常々思っていたヨ、どちらの魔法がより高尚か! より優れているのか! より強いのかを! さぁ死ノ神タナトス、勝負しないかネ! 互いのプライドをかけて!」


「魔法の勝負といっても、マスターよりも魔法を理解している人間など、この世界にはいないと思いますが」


 オズの提案は、メルキオールにとっては呆れるほど無謀なことだった。

 失笑するメルキオールに向けて、オズは続けて指をさす。


「ふふふ、君! 君もダヨ! 君も興味をそそられる! 一体君はなんだネ!? 喋る本!? だけでなく魔法の分析まで!? なんて珍しい魔法具だ! ダンジョンで見つけたのかネ!?」


「え? あぁ、そうだね、ダンジョンで手に入れたんだよ」


 オズはダンジョンでドロップしたのかという質問だったが、全てを話せば長くなる。

 説明をするのが面倒であれば、説明する義理もないアンリは、嘘にはならないためオズの勘違いに乗ることにした。


「アハハハハ! なるほど、君も運がいいのだネ! それはいいことだヨ! ダンジョンで幸運を拾えるのは、優秀な冒険者の証だからネ!」


 オズはうんうんと頷くと、仮面から覗かせている目を細くしアンリを見据える。

 お祭りのように陽気な雰囲気から一変、死地を決めた騎士の目になり、この場は緊張に包まれた。


「それでは、勝負といこうかね? 相手が死ぬまで戦い、生き残ったほうが好きな物を奪える、というのはどうかね? 私が勝ったら、その本をいただくヨ」


 “やだね。僕にメリットがない“

 これまで何度も見てきた光景であり、カスパールはそういった返事を予測していた。

 事実、いくら負ける要素がないにしても、アンリが初見の相手と決闘の類いをすることは珍しい。


「いいよ、やろう。僕が勝ったら、あなたの魂を貰おうか」


 驚いているカスパール達とは対称的に、オズはニヤリを笑みを浮かべた。

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