211 偉大なる魔法使い1
「うふふ、早速見つけてくれたのね? とても賢い、いい子だわ」
迫ってくるレッドドラゴンを見ながら、シュマは思い通りの展開に笑顔を浮かべている。
一方で、アンリとカスパールはそうはいかなかった。
それでも待っているだけでは食べられてしまうだけなので、アンリは三人分の魔法障壁を展開する。
──ゴォン! ゴォン! ゴォン!
見えない壁に阻まれたドラゴン達は、それを突破しようと何度も体当たりをしている。
今回現れた4頭はレッドドラゴンの中でも比較的小型の個体だっため、流石に障壁を破られる心配は無いと確信したアンリは、ゆっくりと今の状況を考察することにした。
「キャス、どう思う?」
「ふむ、十中八九、人為的なものじゃろうな」
アンリ達は普段、自身の魔力を限界まで抑え込んでいる。
視界が悪い雑木林にいる今、空にいる魔物はなかなか気づかないはずだ。
そのような状況で、ドラゴンの巣までいくらか距離があるのにも関わらず、レッドドラゴンが4頭も急行してくるというのは、明らかな異常だった。
「レッドドラゴンは知能が高いと聞いてたけど、これじゃただの猪だよね。うーん、これがレイジリー国王の能力ってことかな?」
「魔物の使役か? 聞いていた話と少し違うが……」
未だにゴンゴンと音を鳴らし突撃してくるドラゴンを尻目に、アンリとカスパールは真剣に話し込んでいた。
そこに、頬を高揚させたシュマが提案する。
「ねぇ
「あはは、殺しちゃ駄目だよ? いや、ストレスを与え過ぎたら結局食べられないか。仕方ないなぁ、一匹だけだよ? 他の──」
「──アハハハハハハハ!!!」
アンリが魔法障壁を解除しようとした時、男の笑い声が響き渡った。
「お困りのようダネ、名もなき冒険者ヨ! 助けるヨ、この私が! 安心したまえ、君達の未来はまだ明るい!!」
魔法具でも使っているのか、その男の声は辺り一帯に響き渡る。
魔法障壁を壊すことに躍起になっていたドラゴンも、アンリ達と同様その男に注目した。
「ハローエブリワン!! お初にお目にかかるヨ、名もなき冒険者、そして死にゆくドラゴン達ヨ! 私の名前はオズ! 偉大なる魔法使いオズ!!」
この世界では珍しい、スーツを彷彿させる衣服を纏ったオズの自己紹介と同時に、その背景に昼間だというのに花火が上がる。
オズと名乗った男は仮面をかぶっているため、その表情は見えない。
だが、声の調子と仮面に描かれた表情も相まって、中身の表情も笑顔なのだろうと推測できた。
「わぁ、綺麗!」とシュマが喜んでいる反面、アンリとカスパールは完全に冷めた目で見つめている。
(こいつか? いや、流石にあからさま過ぎて逆に犯人じゃないか?)
目の前で自己紹介をしている男がレッドドラゴンをけしかけた犯人と思ったが、それにしても助けに入るタイミングが都合良過ぎる。
ただの馬鹿なのか、それとも本当に無関係なのかを、アンリは計りきれないでいた。
「さぁ、刮目してみるがいいヨ!! アブラカタブラ!! <
オズの叫びとともに、1頭のレッドドラゴンを魔法が襲う。
「無詠唱? こやつ……」
カスパールが驚いている中、魔法を受けたレッドドラゴンが悲鳴を上げた。
虹色という名前の通り現れた七色の光は、屈強なレッドドラゴンに大きなダメージを与えた。
「わぁ! とっても綺麗! 私、こんな魔法初めて見たわ! 凄い凄い!」
「確かに……メル、こんな魔法知ってた?」
はしゃいでいるシュマに同意しながらも、アンリは
「<
メルキオールの返事を聞き、やはりとアンリは頷く。
七色の光の正体。それは、既知の魔法の集合だ。
赤色は<
原理が分かったところで、カスパールは更に驚く。
「無詠唱で7つの魔法を同時に使う、か……偉大なる魔法使い”仮面のオズ”、噂に違わぬ力よな」
「キャス? もしかしてあの人と知り合い?」
「いや、実際に会ったのは初めてじゃが、冒険者組合で何度か耳にしたことがあるな。どれも眉唾な話ばかりじゃったが……偉大なる魔法使い、確かに相応の力はあるのかもしれん」
ソロのSランク冒険者、”仮面のオズ”。
アフラシア大陸ではディランを最強と推す一方で、別の大陸ではオズこそが最強の冒険者と呼ぶ声も多数ある。
曰く、上位種の竜を、たった一人で何百頭も討伐した。
曰く、異なる地にある3つのダンジョンを、同日に制覇した。
曰く、どこからともなく現れ、瀕死の冒険者パーティーを幾千度も救った。
「へぇ、強敵を屠れる実力もあって、転移魔法のような便利な魔法の覚えもあり、他の冒険者からの信頼も厚い……まさに完璧だね」
”派手なパフォーマンスが鬱陶しいけど”という言葉は、隣で喜んでいる妹のために飲み込むことにしたアンリだった。
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