209 大罪人探知機
大罪人探知機。
皆が首を傾げる中、カスパールには心当たりがあった。
アンリと食事をしている最中、何度かそういう類の言葉を聞いたからだ。
「どういう理屈かは分からぬが、そのチップを埋め込んだ者が大罪人がどうかを、メルキオールは判断できるのか?」
カスパールの推測に答えたのはメルキオールだ。
「ご名答です。ヒューステリック検知をメインにしていますので絶対にとは言い切れませんが、現在私が感知している大罪人は、マスターとアエーシュマの二名だけになります」
「まぁ!
シュマがはしゃいでいる中、不可視の魔法を解いたダハーグが告げた。
「ふはははは! 我も”暴食の大罪人”の烙印を押された……のじゃが、伝えては……お、おらなんだか……すまん……」
ダハーグの言葉は、どんどん尻すぼみになっていく。
”二人だけ”を壊されたシュマから滲み出た殺気と、感情の昂りのままに輝く瞳で見つめられたからだ。
信仰が神を超えた瞬間だった。
「あれ? そんな話あったっけ? 言われてみると聞いたような気も……うーん、重大な情報を逃してたな……」
「ダハーグは普段スライムの形状をしているため、チップの埋め込みが困難でした。どのような種族にも対応できるよう、急ぎ改良します」
「そうだね。ふぅ、やっぱりこの大陸を一度根絶やしにしといてよかった。これからエリュシオンで生きる生物は、魔物であってもチップを埋め込まないと駄目だね」
体を青くしているダハーグを無視し、深刻に相談していたアンリだが、大きな問題にはならないと知り安心したようだ。
「話が脱線したから戻すよ。とにかく、これが人口を増やしたい理由さ。チップを体内に埋め込めば、大罪人が探索できる。だから、どんどん探索する分母を増やしていこう。国内だけじゃなく、他国であっても属国にすればチップを体に入れるぐらいルール化できるからね」
つまりアンリは、傲慢の大罪人が探索できるまで、延々と他国を侵略すると言っている。
いくらなんでも鬼畜の所業であり、まともな臣下であれば賛同は得られない。
「そうすれば、僕は永遠を手に入れることができる!」
だが、これこそがアンリの目標と知っているため、全員が前向きな目をしていた。
シュマにいたっては、他国の何百万、何千万もの命を蹂躙することでアンリが永遠を掴むことができるなら、それは犠牲という言葉ですらなく、限りなく幸せなことだとさえ考えていた。
「それで? どの国じゃ?」
口角を上げながら質問したカスパールに、アンリは自動で開かれた地図の一部を指さした。
「レイジリー王国。そこが、最初に犠牲になってもらう国さ」
その国は、全員の想定を外れていたようだ。
確かに国の規模は小さいが、どこの国とも中立を維持しているレイジリー王国は、後の影響を考えると先ほどアンリが言ったリスクが低い国とは思えない。
それでも、皆は直ぐに納得する。
この国には、アンリが潰すだけの理由があったからだ。
「あはは、みんないい顔してるじゃないか。エリュシオンに来た間者の9割以上はこの国だからね。中立を謳ってるくせに、少し気分が悪いじゃない?」
「えぇ、えぇ、私もそう思います。彼らは神様の前で平然と嘘をつく悪魔です。許しておくわけにはいきませんから」
「あぁ、嘘つきは絶対に殺さないとな。最高司法長官として、他国の罪人を裁いてやるぜ」
アリアの魔眼を用いた拷問にかかれば、間者がどこから来たかは丸裸同然だ。
建国したばかりの国に何百人も間者を送ってきたことは、エリュシオンからすれば喧嘩を売られたも同然。
「あはは、それにみんなも勿論知ってると思うけど──」
アンリは、レイジリー国王の写真にナイフを突き立てた。
「──あそこの王も、僕と同じ大罪人だからね」
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