199 驚愕
「…………」
訓練施設の様子を画面上で見ていたカスパール達は、言葉を失っていた。
いつの間にやら加わっていたアンリも少し驚いているようだ。
「アムルが……死んだ?
ベアトリクスは特に動揺しており、語尾に“わん“をつけることも忘れている。
アムルと直接話したことはなかったが、画面で何度も見ている内に強い愛着が湧いていたのだろう。
自分の子供同然の存在が死んだことは、ベアトリクスの心に穴をあけた。
「は……はは……」
対して、カスパールにとってのナイトは、自分の子供というより、アニメやドラマでの推しに近い感覚だ。
「い、いいぞナイト……自分の立場をよく分かっておる……」
そして、ナイトの存在よりも、ナイトの役割が重要だった。
始めこそ驚愕し固まっていたカスパールだったが、画面に映っているナイトがヘルの心臓にも剣を突き刺し、ハルの首を刎ねた時、笑みがこぼれる。
「くく、かっはっは! 決まりじゃな! 想定外ではあったが、結果は変わらぬ! わしの勝利じゃ!」
これにベアトリクスは堪えきれず殺気を放つ。
自分の子供が殺され、あまつさえ笑われるなど、許せないことだった。
アンリがいなければ、すぐにでも性悪女の首を噛み千切ってやりたい。
そうは思うも、私闘を禁じられているベアトリクスができることは、抗議の声を上げるだけだった。
「き、貴様! 何を見て笑っている! 背後から不意をつくなど……あのような鬼畜生に同じ血が流れていることを恥じろ外道!」
「かっはっは! 愉快愉快! 本物の負け犬の遠吠えを聞けるとは! いやぁ、今日は酒が美味い!」
カスパールには何を言っても無駄だと判断し、ベアトリクスは上申する。
「ご、ご主人様!
普通に考えれば、ただのペットであるベアトリクスがアンリに指図するなど、ありえないことだ。
だが、過去モスマン探索を決めた例から、アンリが他者の意見を聞き入れ行動に移すことを知っているベアトリクスは、この意見は大丈夫と判断した。
「
今ならまだアムルを蘇生できるかもと、口早に意見していたベアトリクスだが、アンリの表情を見ると言葉が尻すぼみになっていく。
「あはは、ベアト、随分と興奮しているね」
「…………わん」
アンリは至って平静なのだ。
今の状態を良しとしたカスパールであっても、
皆が激情溢れるホラーやアクションといった映画を観ている中、アンリだけが朝の天気予報を見ているようだった。
「これは……ご主人様もご存じだったのでしょうか……わん」
ベアトリクスのそれは、見当違いだった。
「いや、全然。僕も知らなかったよ」
それなのに全く動じる様子のないアンリを、ベアトリクスは理解が出来ない。
といっても、アンリの行動の九分九厘が理解できる行動ではないが、焦っているベアトリクスは得体の知れない物を見る表情を浮かべている。
それに気づいたアンリは、自分の考えを述べることにした。
「あはは、そうか、みんなは被検体のデータ書類に目を通してないんだね? いや、まぁ確かに、これを娯楽として見るなら、そのほうが楽しいだろうね」
アンリはそう結論づけたが、細かくデータ分析された大量の資料を、ここの部屋の者は誰も読み解こうとしなかっただけだった。
「ネタバレみたいになっちゃうと申し訳ないけど、みんなの不安を取り除くほうが先決かな。ベアト、心配しなくて大丈夫だよ。
ベアトリクスの先ほどの進言の真意は、アムルを助けたいということだった。
だが、アンリが受けた言葉をそのままに捉え、尚且つ何も問題がないと回答されたら、もう出来ることは何もない。
「でも、まさかベアトの口から
そう言うと、アンリは魔法を唱え姿を消した。
「…………わん」
ベアトリクスは息子の命を諦め、夢マタタビで現実逃避することに決めた。
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