155 チーム戦1
黒い渦から人影が出てくる。
サティーとムーシュは、敵の増員が来ると分かっても気楽に構えていた。
「助っ人? 全然よくってよ? 人間はなかなか美味しいから、数が増えるのは嬉しいわ」
「お姉ちゃん、目玉は私に頂戴よ。あの食感好きなの」
それに答えたのは、渦から出てきた人物だ。
「……同意。特に子供の目玉は癖になる。あなたとは美味しいお酒が飲めそう」
眼帯を着けた黒髪の少女、アシャである。
自分よりも年下の少女を相手に鳥肌を立てたことを、ヤールヤは恥じ、そしてそれを誤魔化すためにも怒声を上げる。
「お友達なんか呼んでどうなるってんだぁ! 一人が二人になったところで、あたいら三姉妹に勝てると思ってんのかよ!」
戦いにおいて、確かに数は重要だ。
しかし、先ほどまでシュマは文字通り手も足もでなかったのだ。
それが今さら二人になったところで、ましてやシュマよりも戦力の低いアシャが加わったところで、多少の戦局の変化はあったとしても、ヤールヤの言うとおり勝敗が変わることはないだろう。
しかし、シュマは笑いながらアシャの後ろを指さす。
「うふふ、何を言っているの? 二人じゃないわ。呼んだのはアシャだけじゃないの」
そこには、アシャの腰元までの背丈しかない、ウサギのぬいぐるみが歩いていた。
ぬいぐるみといっても、可愛いものではない。
随分と年季が入っているのか、いたるところが剥げ、雑に処置をされたぬいぐるみは見ていて痛々しかった。
そのため、ぬいぐるみが歩くと言うファンシーな光景ではあるが、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。
更に、その歩き方にも問題がある。
あえて擬音をつけるなら”もぞもぞ”と動かしている足には、関節が無いのか普通の生物の歩行とはてんで違い、一歩進むのにも時間を要していた。
得体のしれない化け物が、無理やりにうさぎの形をとっているように見え、ヤールヤは顔をしかめる。
「な、なんだその気持ちわりぃの……」
ヤールヤは自分の勘違いに気付く。
鳥肌を立てたのはアシャのせいではない。
このぬいぐるみのせいだ。
生理的に拒否反応を示してしまっていた。
一方で、サティーとムーシュは特に気にしていない。
なんなら、ムーシュはぬいぐるみを可愛いとさえ思っていた。
「確かに、これで三対三……それで? あなた達が勝てると思って? 私達パリカー三姉妹も随分と舐められたものね」
サティーは殺気を飛ばしながら構える。
「チーム戦において大切なことを教えてあげる。
パリカー三姉妹の長女サティー、次女ヤールヤ、三女ムーシュは魔族の中でもトップクラスの実力者だ。
そして、その本領は三人での戦闘時に発揮される。
姉妹の絆というべきか。以心伝心である姉妹の連携は、彼女達を一つの魔物にさえ思わせる。
もし三姉妹を一つの個と見なしたなら、魔王に次いで魔族ナンバー2は間違いなく彼女達だろう。
三姉妹の攻撃を、シュマとアシャは紙一重で捌く。
紙一重といっても、防げているわけではない。
戦局が崩壊しないように紙一重で耐えているのだ。
しかし、本気を出した三姉妹からすれば、それだけでも見事なものだった。
「やるじゃないの! やっと本気を出したのかしら!?」
先ほどまでよりも、シュマの動きがいい。
それは、現在の装備のおかげだ。
両の手に握られたククリナイフ。
”ハンバーガー”のハンクを倣った二刀流は、シュマが一番得意とする戦法だった。
パリカー三姉妹が勝負を決めきれないのは、他にも理由がある。
(あの気持ちわりぃの、特に動きは無しかよ)
ただ立ち尽くしているうさぎのぬいぐるみ。
その存在を不気味に思い、三姉妹は常に視界に入れるようにしていた。
そして、それに気づいたアシャにより、戦局は急変する。
「……ボクを見ろ」
ぬいぐるみの前に陣取ったアシャが、眼帯を外したのだ。
「っ!?」
「なんだそりゃ!?」
「……っ!」
自ずと、三姉妹はアシャの金色に光る魔眼を見てしまう。
アシャの魔眼は魅了の魔眼。
目が合った者の意思を奪い、異性同性関わらず自分の虜にしてしまう眼だ。
魔法への耐性が高い者にはさほど効果がないが、三姉妹には有効だった。
しかし、種族としての強さのせいか、虜とまでは至らない。
それでも、動きを大幅に鈍くしたことで、絶対的な隙が生まれた。
「
──ヒュン、ヒュン
シュマのククリナイフが三人を斬り付ける。
「あら? あなた達、本当に硬いのね」
しかし、その斬撃は傷をつけるも致命傷には至らない。
シュマはククリナイフについた三姉妹の血を指でなぞり、口に含む。
それに、アシャは妬まし気な視線を送っていた。
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