149 魔族の国

「ここが魔族の根城か……意外と多いんだね」


 アンリ、シュマ、カスパールの3名は、空飛ぶ絨毯で高度を確保し、魔族たちの様子を見下ろしていた。

 ヤールヤに仕込んだGPSの通信が途絶えた場所までやってきていたのだ。


 元はグゼンデと呼ばれていたこの地域は、丁度真上に魔王が出現したため、誰よりも先に魔族の侵攻を受けることとなった。

 結果、人間は完全に狩り尽くされ、今では完全な魔族の国となっている。

 正確な数は分からないが、ざっと見ただけでも万を優に超える魔族たちが生活しているのが見え、アンリはゴキブリを連想する。


「なんというか、奴らも生きておるのじゃな」


 当たり前のことを言っているカスパールに、アンリとシュマは疑問の顔を向ける。


「いや、なに、魔族というからには、血も涙もない非道な生物だと思っていたのじゃがな。こうしてみると、あやつらも子を育て、飯を食べ、わしらと同じように生活しておる……一方的に討伐対象とするのも、何か違うような気もしてな」


 聖女に影響されたかのように、魔族をおもんばかるカスパール。

 しかし、出店で人間の部位が取引されている光景を見れば、正常な者なら魔族を根絶やしにしろと願うだろう。


(食べるとこが一番少なそうな頭が一番高い……なんでだ? 脳みそが美味と感じるのは人間と一緒なのか?)


 案の定、アンリはカスパールの言葉をまともに受けとらず、魔族がつけた人間の部位の値段に興味を示していた。


「ねぇ兄様あにさま、ここに神の杖を落としたら、お終いだと思うのだけど。そうはしないの?」


 うつ伏せになり、両手で頬杖をつき眺めていたシュマは、魔族にそこまでの興味を惹かれなかったようだ。


「あはは、あの魔法は星への被害が大きいからね。僕は永遠を生きるんだ。なら、この星の寿命も考えてあげないと」


 シュマを諭していると、下の魔族達が騒がしくなってきた。

 結構な高さからの偵察だったが、アンリ達に気付いたようだ。

 ある程度注目が集まると、アンリは拡声の魔法具をとりだし、本来の目的を果たしだす。


「えー、下等な魔族の皆さん、こんにちは」


 魔族の国に、アンリの声が響き渡る。


「戦争をしましょう。開始は明日の太陽が真上に上がった時。場所は……そうだな」


 アンリは適当な場所をみつけ、魔法を唱える。


『<炎神のプロメテウス・悟りエピファニー>』


 それだけで、元グゼンデの隣にあった森は焦土と化した。


 星の寿命を考えている行為にはとても見えないが、アンリが満足そうにしているのでカスパールは何も指摘しない。


「よしよし、丁度いい空き地ができたね」


 魔族の中には羽を持った者もいる。

 その中の数名は、アンリ達を襲撃するべく空まで羽ばたいていたが、先の魔法の威力を見て手を出せないでいた。


「あれ?」


 アンリが立ち往生している魔族たちを無視し、時空扉魔法ゲートを発動させ去ろうとした時、一人の魔族が視界の端に映った。


「あれは……間違いない」


 他の魔族とは明らかに違う、強い存在感。

 5メートルを超える青い肌の大男。

 あらかじめ集め聞いていた情報と一致する。


「魔王ジャイターン」


 二人の距離は大きく離れているが、アンリの呟きが聞こえたかのようにジャイターンはほくそ笑む。

 だがその眼光は鋭く、アンリを見た目通りの子供と侮ってはなさそうだ。


「あはは、熱い視線だね。女子からなら嬉しいけど、僕にその気はないさ。『<小規模爆裂魔法ばんっ!>』」


 去る間際、アンリは自身の得意魔法を魔王に放った。

 この遠距離でも、爆裂魔法はジャイターンに着弾する。


 しかし、ジャイターンは全くの無傷だった。


 魔法が当たった胸のあたりを手で軽く払い、アンリを不敵な笑みでまた見つめている。


抵抗レジストされた……のか? なるほど、本当に強そうだ。反撃してこないのはなんでだ? 舐めてるだけか? それとも、遠距離攻撃手段を持ってない?)


 気になることは山ほどあるが、当初の目的を果たしたアンリは時空扉魔法ゲートの中に入っていった。




「非力。本当に子供のようだな。しかし……厄介な術を使う」


 たった一度の魔法で見渡す限りの焦土となった大地を見て、魔王ジャイターンは警戒レベルを一つ上げるのだった。

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