92 闘技大会1
「そこまで! 勝者、テレサ・ウィーラーフ!」
──おおおおおおおぉぉ!!
闘技大会の開催により、魔法学院パンヴェニオンでは大きな盛り上がりを見せていた。
「…………」
テレサの勝利によりベスト8の顔ぶれがそろい、盛り上がりは一段と高まっている。
ベスト8の中の半分がアンリと同じ2年生ということも、盛り上がっている要因の一つだ。
「…………」
アンリの学年は、そもそも期待されていた。
魔法学院パンヴェニオンでは、学年ごとに
とはいっても、1年は赤色、2年は青色というふうに分けるのではなく、一度赤色を割り振られたら卒業するまでその色だ。
つまり、入学時にアンリの学年に割り振られた赤襟の色は、卒業するまで変わることはない。
赤襟、青襟、黄襟、緑色の4つの色で学年を判別しているが、赤襟の学年、すなわち4年に1度該当する世代の中から、特に優秀な人物がパンヴェニオンから輩出されていた。
故に、襟章が赤色の世代は”栄光の赤襟”と呼ばれている。
その世代にあたるアンリの学年からも、優秀な人物が出てくるだろうと、大人達はみな期待していたのだ。
「…………」
そして、実際に今回行われた闘技大会上位8名の中に、アーリマン・ザラシュトラ、アエーシュマ・ザラシュトラ、フォルテ・ヴェンディード、テレサ・ウィーラーフの4人の赤襟の世代がいることが、オカルトともジンクスともいえる”栄光の赤襟”を観客達に実感させていた。
しかし、その盛り上がりの中でも、一人つまらなさそうに会場を眺めている人物がいた。
「かっはっは! 流石”栄光の赤襟”と呼ばれる世代なだけはあるのう! テレサもやるではないか! ……して、なぜお主はそこまで退屈そうにしておるのじゃ?」
アンリである。
「キャス……そりゃぁ退屈にもなるでしょ。こんなことって……ひどいと思わない?」
アンリの文句にどう答えるべきか周囲の者が慌てる中、司会の声が響く。
「さぁ! ついにベスト8が出そろいました! では早速、準々決勝を行いたいと思います!」
当然、会場を包む歓声も大きくなる。
「それでは準々決勝の第一試合は、2年生のアーリマン・ザラシュトラ対4年生のエリック……え? ……失礼……棄権? また? …………た、戦わずして、これまたアーリマン・ザラシュトラの勝利だぁぁ!」
「かっはっは! やったなアンリ! おめでとう!」
司会によるアンリの勝利宣言を聞き、カスパールはアンリに祝いの言葉をかける。
「あはは、ありがとうキャス……ってならないよ……」
これまで、アンリは一度も戦っていない。
全てが相手の棄権による不戦勝なのだ。
”強欲殺し”のAランク冒険者という肩書きでも相当なものだが、最近では”暴食殺し”の功績も追加されたアンリに勝てる自信のあるものはそうそういない。
更に、ダニエル・マキシウェルへの仕打ちは、あまりにも有名過ぎた。
自身の力を見せつけるよりも、大勢の観客の前で拷問されることを怖がり、アンリの対戦相手は皆棄権していくのだ。
「僕の努力は一体……」
アンリは長い時間をかけて、ジャヒーの用意した参加者の資料を確認していた。
その中でも強いと思われる人物に目星をつけ、得意な戦術や魔法の確認、苦手と思われる戦法の検討や対戦のシュミレート等、勝つための努力をしてきた。
しかし、蓋を開けてみれば、その努力は何も意味がなかったのだ。
アンリの気持ちが沈むのも、当然かもしれない。
「アンリ様、次の対戦が始まります。シュマ様とフォルテ様の戦いのようです。勝者が準決勝でアンリ様と戦いますので、次は戦えるのではないですか? あの2人なら、怖がって棄権はしないかと」
アンリの寂しそうな様子を見たジャヒーは、胸が締め付けられる思いをしながらも、前向きな意見を提案する。
「勝つのはシュマだよ、何があってもね。でもシュマは事前に僕に言ってたんだ。大会であっても僕に剣を向けることは絶対にないってさ……棄権するだろうね……あはは、1度も戦わずに優勝なんかしちゃったら、僕が強いとかよりも、それこそ何時ぞや言われたように、ペテン師野郎って思われても仕方ないよね……」
「かっはっは! 戦わずして優勝など、伝説として語り継がれそうではないか」
「お祖母ちゃん! アンリ様は真剣なのよ!? ……アシャ様がいれば……前は凄くアンリ様と戦いたがっていましたのに……」
アシャは現在パールシア共和国に滞在しているため、今回の闘技大会には参加できていなかった。
それでも、ジャヒーの言葉にアンリは首を横に振る。
「それは入学して間もない頃の話だよ。最近のアシャはちょっと様子がおかしいというか……僕に剣を向けることはないと思うよ。なんなら、自分の乳房を切り落として僕に渡してくるんだ……ほんと、どんな嫌がらせだよ……」
「まぁ、安心するがよい。準決勝からは棄権できぬし、決勝は順当にいけば憲兵騎士団期待の星と戦うじゃろ。あやつは面子もあるから棄権はありえぬぞ」
「だといいけどね……」
アンリは大会の参加者とは思えない気の抜けた顔で、シュマとフォルテの戦いを眺めるのであった。
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