第305話 旅の仲間2

「良かった。探していたのよ」

 アカネは喜び、アマンダにリュックのある場所まで案内して貰う。

「アカネさんたちはハンターなんですよね?」


「一応、ハンターだけど……迷宮都市では料理をしている方が多いわね」

「料理……でも、迷宮都市のハンターというのは凄いです」

 アマンダは迷宮都市とアカネの事を知りたがった。どうやら憧れを抱いているようだ。


 アカネたちがリュックを取りに行っている間、俺はクレイジーボアをどうするか考えていた。

「ハンターギルドから助けを呼ばないと運べないな」


 アカネたちがリュックを持って戻って来たので、アマンダと相談しハンターギルドから助っ人を呼んで貰う事にした。


 一度は魔晶管と毛皮だけ剥ぎ取り、肉は捨てようかと考えた。だが、人里に近い場所で、これだけの肉を放っておけば魔物が集まって来るかもしれない。


 人里近くに魔物が集まるのは好ましくないので、どう処分するにしても捨て置く訳にはいかない。アマンダが居なかったら<圧縮結界>を使って運ぶのだが、彼女が見ているので、その方法は取れない。


 ハンターギルドから助っ人と荷車二台が来て、解体したクレイジーボアを運んで行った。

「さて、俺はバギーを取りに行って来る」

 改造型飛行バギーは少し離れた位置に着陸していた。


「一緒に行くわ。アマンダも一緒に行きましょ」

 アマンダは訳も分からず承知した。少し歩き、改造型飛行バギーが見えるとアマンダが驚きの声を上げた。


「こ、これは新型の魔導飛行船じゃないですか?」

 アマンダの住む町でも、その上空を魔導飛行バギーが飛ぶようになっていた。王都とヴァスケス砦を往復している機体で、偵察と連絡用として使われているらしい。


「アマンダも乗って……空の旅を経験させて上げる」

 アカネはアマンダを中央の座席に座らせ、シートベルトを締めた。

 改造型飛行バギーが上昇するとアマンダがはしゃいだ。

「凄い、ずっと遠くまで見える」


 アマンダの案内で宿場町リンブルへ飛び、ハンターギルドの訓練場に着陸する。

 着陸しようとしている改造型飛行バギーをハンターが見付け、ちょっとした騒ぎになった。ハンターや職員が驚きの声を上げ、着陸した改造型飛行バギー目掛けて集まって来る。


 俺たちがバギーから降りると声が上がる。

「アマンダ。何でお前が乗ってるんだ?」

 声の主はアマンダをパーティに入れたがっていたニクラスである。


「あら、アマンダのお友達?」

 アカネが尋ねると、アマンダが強く首を振って否定する。

「ただの知り合いです」

 ニクラスが不機嫌な顔になる。


「何だ、その言い方は。大して役に立たないけど、顔がそこそこだからパーティに入れてやろうとしたのに」


「大して役に立たないって、どういう意味よ」

「一日狩りをして、尾長兎が一匹とかじゃねえか」

「これから頑張って強くなるのよ」


 雰囲気が悪くなったので、俺が止めに入った。

「アマンダ、買取カウンターに案内してくれ」

「はい、ミコト様」


 アカネから、貴族だと聞いたからだろうか。アマンダは俺を様付けで呼ぶ。買取カウンターに行ったが、まだクレイジーボアは届いていないという事だったので、ギルドで待つ事にした。


 しばらくして、クレイジーボアが到着した。その大きな獲物を見て、ハンターたちが騒ぎ始める。


 リンブルの近くで、クレイジーボアが仕留められたのは十数年ぶりらしい。普段リンブルの周辺には弱い魔物しか棲息しておらず、大物を見付けた時は、交易都市の腕利きハンターに討伐を頼むようだ。


 職員の一人が独り言のように呟いた。

「戦争の影響だな。あの戦いで火事となった森もあったから、そこから流れて来たんだろう」

 ギルドの職員に尋ねてみると、このクレイジーボアだけでなく、別の大型魔物も目撃されているらしい。


 アカネはクレイジーボアの素材を精算した。ちょっとした金額となり、その金を受け取ったアカネをキラキラした目でアマンダが見ている。


「凄いですね。アカネ」

 アカネとアマンダは随分と親しくなったようだ。その日は、この町に宿泊する事にした。その夜、アマンダは遅くまでアカネの部屋で喋っていたようだ。


 翌朝、アカネから意外な申し出を聞いた。

「アマンダなんだけど、私の弟子に成りたいそうなの」

「えっ」


「彼女、一流のハンターになりたくて頑張っているらしいんだけど、ハンターとしての技術や魔法を私に習いたいらしいの。どう思う?」


「アカネさんはどうしたいんです?」

「出来るなら、彼女の願いを叶えてやりたいんだけど」

「だったら、弟子にしたらいい」


「でも、躯豪術とかはどうしたらいい?」

「彼女がどういう人物か、まだ判らないので保留ですね」


 躯豪術は教えず、何か神紋を選ばせ、その応用魔法とアカネから学ぶ武術を元に戦闘術を構築させようと話し合った。


 俺はアマンダをクノーバル王国へ同行させる事にした。他にも理由が有るが、いろいろと経験を積ませ育てようと思ったのだ。


 アマンダは、その提案を喜んで受けた。彼女の家族と話し合わなければならなかったが、何とか了承を取り付け、旅の仲間が一人増えた。

 旅に出てから、アマンダに関する様々な事を聞き出す。


 彼女は一ヶ月ほど前に『魔力袋の神紋』を授かったばかりで、次にどの神紋を授かるか考えていないそうだ。

「次に神紋を手に入れるとしたら、何がいい?」

 アカネが尋ねると、アマンダは困ったような顔をする。


「私、魔法についてよく知らないんです」

「じゃあ、教えて上げる」

 アカネは様々な神紋の種類と、その神紋を元にした魔法の数々を詳しく教えた。その結果、アマンダが選んだ神紋は、『凍牙氷陣の神紋』だった。

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